
1959年に大和ハウス工業株式会社の物流部門として発足した大和物流株式会社。建築資材の運搬を得意とする同社は、その可能性を広げるために産業機器や半導体製造装置といった他業種にも挑戦している。今後の成長戦略について、代表取締役社長の杉山克博氏に話を聞いた。
大和ハウス工業でキャリアを積み社長に就任。成長のポイントは「強みを活かす」こと
ーー杉山社長の経歴をお聞かせください。
杉山克博:
私のキャリアは、大和ハウスグループの中核企業である大和ハウス工業から始まりました。当時はバブル経済の真っ只中にあり、まずは安定した大企業で経験を積みたいという思いから入社を決めたのです。
入社後は建築部門の営業に配属され、それ以降、長年にわたって一貫して営業の仕事に取り組んできました。学生時代から人の話を聞くのが好きだったこともあり、相手のニーズを丁寧に汲み取る姿勢が、営業スタイルの土台となっています。
特に心がけてきたのは、大手ゼネコンと正面から競い合うのではなく、自社の持ち味を発揮できる領域を見極め、そこに力を注ぐことです。このスタンスは今も変わらず、仕事を進めるうえでの大切な軸となっています。
その後、49歳のときに浜松支店長に就任し、そこから埼玉ブロック長、建築事業本部営業統括部長、執行役員を歴任しました。そして2023年に大和物流に移って取締役となり、2024年に代表取締役社長に就任した次第です。
ーーこれまでのキャリアの中であったターニングポイントをおしえてください。
杉山克博:
一つ目のターニングポイントになったのは、大和ハウス工業の執行役員時代です。当時は栃木・群馬・埼玉の各支店を統括する立場にあり、苦戦しているエリアで長期的に事業を安定させるための土台づくりに注力していました。
ここで私が取り組んだのが、業績が伸び悩んでいる部門に対して、あえて負荷を軽減し、再成長のきっかけをつくることです。大きなプレッシャーがかかる環境の中では、過度な負荷に耐えられずに離脱してしまう社員も少なくありません。社員の成長を促すためには、見守ることも大切だと考えたのです。
もう一つのターニングポイントは、2024年に大和物流の代表取締役社長に就任したことです。辞令を受けたときは大和物流という会社を任せてもらえることが純粋に嬉しかったですね。法人営業に強みを持つ私にとって、大和物流はまさに理想的なフィールドだと感じました。
また、弊社は「大和ハウスグループの物流部門」のイメージが強かったのですが、ふたを開けてみると、約70%がグループ外の案件であるという事実に驚きました。私はこの事実に大きな可能性を感じ、グループ外のビジネスをさらに拡大できるポテンシャルがあると確信したのです。
建築資材の分野で培ったノウハウをベースに、幅広い領域に挑戦

ーー貴社の強みはどのような点にありますか?
杉山克博:
建築資材などの異形物の取扱いや工事現場向けの輸送を得意としていることが強みです。もともと、大和ハウスの工場で生産された建築資材を現場へ運ぶ事業からスタートしており、天候や進捗状況への適応力が高く、柔軟かつ迅速な対応が可能です。そのため、弊社は適切なタイミングで必要な資材を搬入できます。
また、かさばる物や重量がある物、さまざまな形状をしている物など、特殊な商材を扱うノウハウも持っています。建築現場の知識もあるので、現場の建物図面を読んだうえで適切な場所へ資材を届けるといったことも可能です。
これらの業務で使用している、バーコード管理やシステム化といった在庫管理手法は、ECや小売物流で培ったものです。このように異業種のノウハウを活かして、業務効率の向上を図ることができるのは、グループ会社ならではの強みといえるでしょう。
現在は扱う荷物の約40%が建築資材ですが、それ以外にも産業機器や半導体製造装置、流通小売業など、さまざまな業界に事業領域を広げており、まだまだ成長の余地が残されています。
会社を成長させるカギは社員の成長にあり!今、注力すべきテーマとは
ーー今後、貴社をどのように成長させていきたいとお考えですか?
杉山克博:
今後は、弊社が得意とする建築資材を軸にしながら、新しい物流分野への進出も進めていきたいと考えています。特に注力したいのが、人の手が必要な領域です。物流業界全体のデジタル化・自動化が進む中で、あえて人にしかできない仕事にこだわることこそ、弊社ならではの強みを活かした、プラスアルファの価値を生み出す成長があるのではないかと考えています。
この考えを明確にするために、私が社長に就任してから新たに策定したビジョンが、「独自の価値を生み出し、多様化する社会のニーズに応え、人と暮らしをより豊かにし、夢を広げる企業であり続ける」という意志を込めた「Open up DREAMS」です。
私は、さまざまな変化の一歩先を見据え、新たな価値を生み出す挑戦を続けた先にこそ、より良い未来があると思っています。特に、変革の源泉となる「現場」に目を向けて、現場からの声をしっかりと吸い上げ、組織全体で変化を生み出していく文化を根付かせることが重要です。
ーー特に取り組むべきと考えているテーマは何でしょうか。
杉山克博:
私は、企業の成長は人の成長に比例すると考えているため、幹部の育成が欠かせません。自分が積み上げた経験や知見を次の世代にしっかりと引き継ぐ文化を醸成し、自分の成し遂げたことを継承する組織を目指していきます。
また、物流業界全体の課題として、コスト削減と生産性向上に取り組む方針です。大和物流には全国に100を超える物流センターがありますが、ベストプラクティスが横展開されていないケースもあります。そこで、今後は情報やノウハウの共有を緊密にして、より洗練された運営を実現していきたいところです。ロボットやAIといった自動化をサポートする技術の導入も積極的に進めていきたいですね。
物流の仕事は、単に物を運ぶ仕事から、いかにお客様のニーズに応えて新しい価値を生み出せるかが問われる時代に入っています。今後も現場で働く社員たちがチャレンジできること、新たな仕組みをつくり出せることが、会社の成長を決めるカギになるのではないでしょうか。
編集後記
建築資材輸送で培った専門性と、異業種のノウハウを掛け合わせて成長してきた大和物流。グループ外案件が7割を占めるという独自の立ち位置が、同社の営業力と市場対応力の強さを物語っている。今後も、現場起点の変革や人材育成を軸に成長戦略を進めていけば、高い信頼性と収益性を両立する企業へと飛躍していくだろう。同社の「届ける力」の先にある、新たな価値創造に注目したい。

杉山克博/1965年5月5日大阪府吹田市生まれ。甲南大学法学部卒業後、大和ハウス工業株式会社に入社。浜松支店長、埼玉ブロック長、建築事業本部営業統括部長、執行役員などを歴任し、2023年に大和物流株式会社取締役、2024年4月に同社代表取締役社長に就任。