※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

2008年に設立された株式会社ユーザベース。企業活動の意思決定を支える情報インフラの提供を目的に、経済情報プラットフォーム「スピーダ」や、ソーシャル経済メディア「NewsPicks(ニューズピックス)」を運営している会社だ。代表取締役CEOの稲垣裕介氏に、起業の道のりやサービスに込めた思い、今後の展望についてうかがった。

別々の道を歩んでいた友人と、起業へのタイミングを掴んだ瞬間

ーー起業したいという思いは以前からあったのですか?

稲垣裕介:
「いつか起業したい」という思いはずっと抱いていました。大学を卒業後は、エンジニアとしてITコンサルタント企業に入社しました。小さい頃からプログラミングには興味がありましたし、ITを通じて企業経営が学べると思ったからです。

弊社の共同設立者である梅田とは高校時代からの友人で、就職する前に「いっしょに起業家選手権に出ないか」と誘ってくれたことがありました。その時は、良いアイデアが思いつかず、選手権は断念し、「自分たちがやりたいことを見つけるためにも、まずは社会人として経験を積もう」と話し合ったことを覚えています。

その後、僕はITエンジニアとして実力をつけ、梅田は経営コンサルタントの道に進みました。それぞれの分野でお互い、いつか起業するための「原体験」と呼べるような体験や意識を積み重ねていたのです。

ーー実際に起業したきっかけは何でしたか?

稲垣裕介:
起業のチャンスを掴んだのは、入社から4年後のことで、あるとき梅田が「スピーダ」の原案を持ってきたのがきっかけです。

梅田はコンサルティング業務で、企業の意思決定に欠かせない競合リストの作成・分析に膨大な時間をかけてきました。そこから「一目で業界構造がわかるツールがほしい」という思いが「スピーダ」の原案を生み出し、僕もそれを形にしたいと思い、二人で起業した次第です。それぞれの道を歩んでいた二人のタイミングが重なった瞬間でしたね。

起業するためには「原体験」とも呼べる、実際の現場体験から生まれる強い意志が必要です。以前、起業家選手権に出るために、頭だけで描いたプランには、その体験や意志が欠けていたので、実現しなかったのだと思います。

ーー経営において特に苦労した点は何ですか?

稲垣裕介:
ストック型ビジネスの会社なので、創業から1年ほどは資金繰りが厳しく、お客様の反応が見えない中でプレッシャーにも耐えなければいけませんでした。

組織の風土づくりでも苦労しましたが、そのために社内で重ねたディスカッションは無駄ではありませんでした。現在はあたりまえになっているフルリモート・フルフレックス制度は、弊社の自由な精神を表す風土の一つです。また、様々な話し合いが「The 7 Values(7つのバリュー)」を掲げるきっかけにもなり、今では弊社の軸となっています。

経済情報プラットフォームとニュースメディアを運営

ーー「スピーダ」の特徴を教えてください。

稲垣裕介:
主力サービスの「スピーダ」は、企業・業界情報をはじめ、世界中の経済情報にアクセスできるプラットフォームとしてビジネスパーソンから支持されています。

最大の優位性は、信頼性と独自性の高い経済情報基盤です。一瞬で分析できるファンダメンタルズ(経済の基礎要因)を活用して、お客様は自分たちの戦略立案や商品開発を効率化できます。

顧客(Customer)、競合(Competitor)、会社(Company)を把握する3C分析は、事業を展開する上で最もシンプルかつ強力な枠組みです。その上で僕たちは、ビジネスパーソンにとって多角的なインフラになり得るサービスづくりをしてきました。業界の動向を左右するトレンドのキャッチ機能や、最先端の分析フォーマットなど、機能も拡張し続けており、直近では生成AIを活用したプロダクトの進化にも取り組んでいます。

ーー「NewsPicks」の強みもうかがえますか。

稲垣裕介:
「NewsPicks」は、個人のビジネスパーソンに向けて、企業・業界情報を提供するソーシャル経済メディアです。各ニュースメディアのコンテンツをワンストップで閲覧できる「キュレーション」、ニュースに対する専門家や著名人の「コメント」、社内編集部が作成する「オリジナル記事」から構成されています。この3つを複合的に利用できることが、数ある経済メディアの中でも独自の価値だと言えるでしょう。

フェイクニュースが横行する中で、高品質な情報をまとめたメディアは、ビジネス用途を越えて、社会全体の役に立つのではないでしょうか。

「スピーダ」の強化&ローカライズで海外にもアプローチ

ーー現在注力しているテーマをお話しいただけますか。

稲垣裕介:
各種のエキスパート人材のデータベースを保有するMimir(ミーミル)をグループ企業に迎え、「スピーダ」との連携をスタートさせました。新機能として「FLASH Opinion(フラッシュオピニオン)」を追加し、企業・業界・トレンドに関する質問をすると、24時間以内に5人のエキスパートから返信が届く仕組みで、より信頼性の高い未来予測にも活用できるようになりました。

また、ユーザー数が1000万人を突破した「NewsPicks」の土台を活かし、経済領域の専門家をマッチングさせるサービスとして「NewsPicks Expert」もリリースしました。既存サービスの組み合わせで情報の価値をさらに上げ、ビジネスパーソンの意思決定をサポートしたいと思います。

ーー今後の展望をお聞かせください。

稲垣裕介:
データの質と量においては、日本トップクラスを自負していて、特に「スピーダ」は世界にも通用するサービスに成長しました。今後は僕らの悲願である「日本企業のグローバル化」に向けて、自社の海外展開に力を入れていく段階に入りました。

グローバル化の次に必要なのは、世界各国の状況に合わせたローカライズです。たとえば、新興国は国内よりも世界市場のホットトピックを知りたがるなど、国の成熟度によって求められる情報が変わるので、各サービスのローカライズは急務であり、大きな可能性があると思います。

編集後記

学生時代の友人と起業を成功させた稲垣氏。人との関係性を大切にする誠実さと、掲げた志を次々と実現する行動力に惹かれ、周囲に優秀な人材が集まってくるのではないだろうか。「いろいろな情報を得ることで、人がワクワクする世界をつくりたい」という言葉にも、社会における「個」の輝きを大切にする姿勢が見てとれる。「個」が輝いてこそ、世界の経済発展も可能になるのだろう。

稲垣裕介/1981年生まれ。大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社に入社。プロジェクト責任者として全社システム戦略の立案、金融機関の大規模データベースの設計・構築に従事。2008年、梅田優祐らと共に株式会社ユーザベースを創業。2022年、代表取締役CEOに就任。