
中古車輸出における国際ロジスティクス一括代行サービスを手がけている、シンクロジスティクス株式会社。同社は船や鉄道、トラックなど、さまざまな輸送手段を柔軟に組み合わせてつくる、オーダーメイドのロジスティクスサービスを強みとしている。
代表取締役社長の一木貴大氏は、24歳のときにこの事業を思いつき、約12年で規模を急拡大させた。どのような経緯で同社は多くの企業から必要とされる存在になったのか。創業の背景や事業の特徴、今後の展望などを聞いた。
自動車の物流課題を解決する社内事業が大当たりし起業
ーー前職の仕事内容や、記憶に残っているエピソードなどを聞かせてください。
一木貴大:
工業高等専門学校を卒業後、前職の中古車販売の会社へ入社し、自動車の仕入れ、販売、物流手配など、貿易業務全般を担当しました。
その会社で特に印象的だったのが、社長以外の全員がスリランカやモンゴル、ミャンマーなど、外国籍の人材だったことです。その中でも、私の上司だったモンゴル人の女性からは、たくさんのことを学びました。
彼女は顧客志向が強く、お客様との関わり方については、本当に厳しく指導されました。その一方で、人と人の良い関係を築くために、さりげなくお菓子を差し入れしてくれるなど、情が厚く、社会性やコミュニケーション能力が高かったことをよく覚えています。
顧客志向と社会性の両方を兼ね備えた彼女は、私にとって理想の上司で、彼女の教えは今の私の考え方にも非常に活きています。
ーーそれからどのような経緯で起業することになったのでしょうか。
一木貴大:
入社2年目のとき、社長から「新規事業を立ち上げてみなさい」と言われたことが始まりです。
そこで思いついたのが、ロジスティクス事業です。当時の自動車物流サービスは、地域によって使いづらかったり、品質や価格に差があったりなど、多くの課題を抱えており、お客様も非常に困っていました。
実際、私自身も「せっかく自動車を売っても、その後の物流サービスでトラブルが起きる」という状況が煩わしかったため、社長に「ロジスティクスの問題を解決するサービスをつくりたい」と提案しました。これが受け入れられ、新規事業として始めることになりました。
すると、わずか3か月で売上が立ち、お客様からの電話が鳴りやまないほど人気が出たのです。
当時、車の輸出に特化したフォワーダー(貨物利用の運送事業者)は少なく、それに加えて日本全国で展開しているビジネスモデルもなかったので、お客様のニーズを上手く満たすことができたのだと思います。
この新規事業は非常に成功したため、事業を独立させたほうが良いだろうという話になり、私が26歳のときにシンクロジスティクスを創業しました。
既存の輸送ルートを使うのではなく「新たにつくり出せる」ことが強み

ーーサービスの内容や会社について詳しく教えてください。
一木貴大:
弊社は自動車輸出に関するロジスティクスサービスを提供する会社で、サービスは大きく3つに分かれます。
1つ目は、「ヤード」という広大な駐車場で、自動車の写真撮影や品質チェック、輸出検査、輸出の書類作成、船の予約、船への積み込みなどを一括で請け負う国内サービスです。現在、全国20〜30か所で展開しています。
2つ目は、船に載せた後の輸送ルートを組み立てる、海外向けサービスです。船から自動車を降ろした後、そこから目的地まで鉄道を使うのか、あるいはトラックを使うのかなどを考え、輸出国や台数、輸送方法に合わせて最適な方法を提案します。
そして3つ目が、船積み手配サービスです。自動車を仕入れ、販売することを円滑に進めるためのドキュメンテーションや通関書類などの手配を請け負っています。
売上高の比率は、1つ目の国内サービスが7割ほどで、2つ目の海外サービスが2割、3つ目の船積み手配サービスが1割ほどとなっています。
ーー事業の強みはどういった点にありますか。
一木貴大:
大きな強みは、お客様が必要とする輸送ルートそのもの、つまりロジスティクスをつくり出すことができる点です。
たとえば自社で扱っている輸送手段がトラックしかない場合、トラックで行ける輸送ルートしか提案できません。しかし弊社は、船やトラック、鉄道など、さまざまな輸送手段を組み合わせ、新たな輸送ルートや解決策をお客様に提案できます。
こうした提案ができるのも、弊社が物流よりもさらに広範な業務を扱っている「ロジスティクス」に特化した企業だからだと言えます。
創業時に掲げたビジョンは、「YOUR FORWARDING PARTNER」です。これには、弊社がただの外注先ではなく、お客様のビジネスモデルを理解し、支援する「味方」でありたいという思いを込めています。
10人の社長を育て、グループ会社を10社以上にするのが目標
ーー今後の展望を聞かせてください。
一木貴大:
目標の1つは海外展開を進めることで、すでに金融と物流、人材紹介を行う3つの子会社が海外にあります。今後はアジアやアフリカなど、人口が多い地域でサービスでの需要が高まることが予想されますから、それに向けて準備を進めていきます。
大きな目標は、日本の自動車輸出の分野で1番になることです。人手不足など、日本の物流業界が抱える問題を解決できるようなソリューション性の高いサービスをつくり、社会に貢献していきたいと思っています。
そしてグループ全体としては、「仕事を楽しめる人材」を増やすことと、後継者を育てることが目標です。後継者育成に関しては、具体的には10年後までにグループ会社を10社以上つくり、10人以上の社長を輩出したいですね。子会社を増やして社長を任せることが、社員たちの成長にもつながると考えています。
私たちのグループは年功序列ではなく、実績を上げた人が評価される仕組みが整っています。実際に新卒入社の社員が子会社の役員に抜擢された事例もあるので、若い人たちにはどんどん挑戦してもらいたいです。
編集後記
若くして新規事業を自ら提案して任されるなど、挑戦の連続だった一木社長。自らが感じていた課題を解決することが、業界全体に新たなソリューションを起こすきっかけとなった。厳しくも人間味にあふれた上司から学んだ顧客志向と柔軟な発想が、今のシンクロジスティクスの土台をつくっているのだと感じた。海外展開やグループ会社の拡大など、新たなチャレンジを見据えた同社の今後が楽しみだ。

一木貴大/久留米工業高等専門学校卒業後、ジャストガレージ株式会社に入社し、中古車の輸出事業に関わる。2013年シンクロジスティクス株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。輸出代行事業に留まらない、物流業務全体の課題に対するソリューションの提案に尽力している。