※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

試験運営と会場手配を専門とし、全国約2万人の登録スタッフと共に受験者が最良の環境で試験に臨めるよう一貫してサポートする株式会社NieV。代表取締役の稲葉太郎氏は、学生時代に起業。途中、壁に直面するも「成功するまでやめなければ失敗はない」との信念で再起した。幾多の試練を乗り越え、独自の道を切り拓いてきた稲葉氏に、その軌跡と事業の核心、そして未来への展望を聞いた。

学生起業と挑戦の原点

ーー起業当初、どのような事業構想をお持ちでしたか。

稲葉太郎:
最初に起業したのは、中国にいる日本語が堪能な理系人材を日本企業に紹介する会社でした。大学2年生の時に国際交流団体を立ち上げ、学内の留学生と接する中で、彼らのハングリー精神に強い危機感を覚えたのが起業のきっかけです。

当時の日本はリーマンショック前で景気がよく売り手市場でしたが、一方で中国の友人は家族の期待を背負い、必死に学んでいました。彼らの姿を目の当たりにし、日本の人口減少が進む中、アジアでの日本の立ち位置に危機感を覚え、海外の優秀な人材が日本で活躍し、切磋琢磨できる環境が必要だと考えました。

学生として起業し、留学で中国に滞在していた1年間、現地で顧客開拓を試み、大学の先生方にもご協力いただきました。しかし、学生一人での海外会社設立は法的に難しく、企業側も新卒より社会人経験者を求める状況。1年間という限られた時間では事業を軌道に乗せられず、断念しました。

失敗から再起へ!「成功するまでやめない」信念

ーー事業を断念した後、どのように過ごされましたか。

稲葉太郎:
2008年8月に帰国した時、私は大学5年生でした。単位は取得済みで、先生方の助力もあり、事業への取り組みが評価され卒業できました。しかし、リーマンショックの影響で経済状況が厳しく、なかなか仕事も見つかりませんでした。奨学金の返済があったため、夜は銀座や六本木でアルバイトをしながら、昼間は一人で新たなサービスを模索する日々が2年半ほど続きました。

当時読んだ書籍の中に「成功するまでやめなければ失敗はない」という言葉があったのですが、その言葉に勇気をもらい、続けることができました。「自分で失敗と定義づけた瞬間に失敗になる。やり続けることで失敗にしたくない」という思いが強かったと思います。

ーー現在の事業を始めることになったきっかけは何ですか。

稲葉太郎:
アルバイトを掛け持ちする中、ある英語試験の運営会社が試験監督を探しているという話を先輩から聞きました。試験会場の数は増えているものの、当日の試験監督をしてくれる人が足りない状況だったのです。英語ができて、コンピューターが使える人を募集していると聞き、試験監督の仕事をするようになりました。

それまで人と教育に関わる事業をやりたいという思いはありましたが、まさか試験監督のアルバイトが現在の事業に繋がるとは考えてもいませんでした。

運命を変えた日、試験運営にかける使命感

ーー試験運営事業を本格スタートするに至ったきっかけは何でしたか。

稲葉太郎:
弊社が主体的に運営する最初の試験が2011年3月12日でしたが、その前日、3月11日午後に東日本大震災が発生しました。私がいた西新宿のオフィスもかなり揺れを感じ、当然「翌日の試験は中止だろう」と思いました。しかし、アメリカの本社からは明確な指示がなかったため、当日会場へ向かいました。

「交通網も麻痺しているし、受験者も来ないだろう」と思っていたところ、受付終了間際に2名の受験者が会場にいらっしゃいました。実はこの試験は月に数回あり、翌月も受けられるのになぜこの状況で来たのか疑問でした。

そこで、試験後に話を聞いてみると、「留学のために必要な試験だけど、スコアが足りておらず、受験できる日が今日しかなかった」と話してくれました。試験を受けなければ無条件で道が閉ざされてしまう。受けない選択肢はなかったとのこと。その言葉を聞き、試験運営は人生の岐路に携わる大切な仕事だと痛感しました。

ーー改めて、株式会社NieVの主な事業内容を教えていただけますか。

稲葉太郎:
弊社は試験運営の専門会社で、大学や英語系の協会、国家試験を主催する省庁などから委託を受け、試験を遂行します。2018年からは試験会場手配事業も開始し、学校施設の遊休スペースの活用による収益化と認知度向上を支援しています。

登録スタッフは全国に約2万人おり、試験監督の仕事に特化した人材が集まっています。単に人材を派遣するのではなく、受験者が最大限の力を発揮できるよう、事前準備から運営、事後対応まで会場の品質担保を重視しています。また、長年試験業務だけを手掛けてきたため、多様なマニュアルに対応し、品質を維持するオペレーション能力は高いと自負しています。

ーー社員の方々の雰囲気や、仕事のやりがいについてお聞かせください。

稲葉太郎:
社内は非常に明るく活気があります。年齢に関わらずコミュニケーションが活発で、特に女性社員が多く活躍しています。元々試験監督のアルバイトを経験し、社員として責任者になったメンバーもいます。懸命に夢と向き合う受験者と対峙できることに仕事のやりがいを感じるスタッフが多いようです。受験者の夢への挑戦を影ながら支える存在であることが、試験運営の仕事の大きな魅力であり誇りだと思います。

未来への挑戦!新たな価値創造と人への投資

ーー今後の事業展開について、特に注力していきたいテーマは何ですか。

稲葉太郎:
紙媒体の試験減少に強い危機感を持ち、現在はテストセンター開発に最も注力しています。川崎で成功した収益モデルがあるのですが、それを新横浜や池袋などにも展開し、店舗マネージャーのような人材を採用・育成する計画です。これは事業を守り、変化に対応するための重要な取り組みです。

また、弊社の強みである人を動かすオペレーション能力を活かし、システムデバッグや覆面調査員のようなマーケティング支援などの新たな分野への参入を模索しています。

そして、大きな動きとして、2025年7月に「ゴールデンシニアワークス」というグループ会社を立ち上げます。これは弊社の登録スタッフにも増えているシニア層の方々が、労働市場で再び活躍しやすくなるための支援をしたいという思いから立ち上げに至りました。

ーー新会社「ゴールデンシニアワークス」ではどのようなサービスを構想していますか。

稲葉太郎:
たとえば、シニア向けのスキマバイトがあります。地方旅館の人手不足を解消しつつ旅費分を稼ぐといったものです。このようにシニアの方々が経験やスキルを活かし、楽しみながら社会とのつながりを持てる働き方を模索中です。これは長年弊社を支えてくださったスタッフへの恩返しでもあります。そして、日本の労働力問題解決への一助になればさらに嬉しく思います。

ーー社員の待遇改善の取り組みについてお聞かせください。

稲葉太郎:
売上規模の拡大自体にはあまり興味がなく、生み出した利益を社員に還元し、経済的な安定を得られるようにすることが最優先です。近い将来、会社をさらに高収益体質にし、社員の平均給与を600万円以上にすることを目指しています。中小零細企業でも高い給与水準を実現できることを証明したいです。

若者たちへ、今を生きるためのメッセージ

ーー最後に、これからの社会を担う世代へ向けてメッセージをお願いします。

稲葉太郎:
世の中に見えている指標は一つではありません。大企業の安定も一つの価値観ですが、それだけが全てではありません。企業選びの際は、規模や知名度だけでなく、その会社が何を大切にし、社長が何を重要指標として経営を行っているか、本質を見抜くことが大切です。

自身の軸と会社の方向性が合致すれば、きっと素晴らしい働き方ができるはずです。理念だけでなく、会社の数字のつくり方や利益の源泉まで目を向け、自分にとって本当に価値のある場所を選んでほしいと思います。

編集後記

学生起業、事業失敗、そして震災という試練を乗り越えてきた稲葉氏。彼の言葉には困難を力に変えてきた経営者の重みと未来への視線が感じられた。「成功するまでやめなければ失敗はない」という信念は多くの人に勇気を与えるだろう。試験運営という人々の人生の岐路に関わる事業への真摯な姿勢、社員の幸福と社会貢献を追求する同社の挑戦に今後も注目したい。

稲葉太郎/1984年埼玉県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒業(上海交通大学留学)。大学在学中に起業。現在、株式会社NieV代表取締役として、試験運営事業の革新と新たな社会価値創造に情熱を注いでいる。