
SNSやECの発展によりファッション業界は転換期を迎えている。若年層を中心に価値観や個性を重視した購買行動が増え、中古品や個人間取引の市場が拡大。一方で、品質保証やブランディングといった課題も残る。こうした中、株式会社ピックユーはナノインフルエンサー(※)によるCtoCファッション市場を創出している。同社の代表取締役社長、冨田理央氏に、起業の経緯や事業の強み、今後の展望について話を聞いた。
(※)ナノインフルエンサー:フォロワー数が1,000〜10,000人程度のインフルエンサーのこと
ファッションへの情熱と課題意識から生まれた創業の道
ーー起業を考えた理由を教えてください。
冨田理央:
大学時代のアルバイト代のほとんどを洋服代につぎ込み、フリーマーケットやオンライン上で購入するくらい、自分自身の洋服への強いこだわりをもっていました。特に、好きな人からもらったお下がりや、インフルエンサーから直接購入したアイテムに、デザイン以上の付加価値を感じ、強く惹かれていました。その反面、取引を通して参加できないフリマイベントがあったり、発送までに時間がかかったりする不便さも経験し、より良い仕組みが必要だと感じていました。
起業する気があったわけではないのですが、当時アルバイトしていたグルメバーガー店には経営者やアーティストの方が多く訪れており、事業を生み出す姿に憧れたことが起業の後押しとなりました。
ーー着想を生かし、どのように起業したのでしょうか?
冨田理央:
大学時代に事業の構想を思いつき、自分で形にしたいと思うようになった頃、ペイトナー株式会社(※)の阪井さんと出会い、事業の進め方や必要な知識を教えていただきました。
一番最初に出資と伴走を決めてくれたのがスタートアップスタジオ「combo」でした。仮説検証を進めながら出品者や購入者と対話を重ね、生の声から課題を学び、2022年に設立に至りました。多くの方の支えがあったからこそ、今の事業があると思っています。
(※)ペイトナー株式会社:融資や借入が難しいフリーランスの資金繰り改善をサポートする、請求書前払いサービス「ペイトナー」を提供しています。
インフルエンサーとZ世代をつなぐ次世代ファッションフリマ

ーー貴社の事業内容を教えてください。
冨田理央:
弊社では、日本で唯一のインフルエンサー特化型ファッションフリマプラットフォーム「Pickyou(ピックユー)」を展開しています。SNS上でフォロワー数1,000人から1万人規模のナノインフルエンサーが出品者として参加し、そのフォロワーを中心に購買サイクルが生まれる仕組みです。
出品者には出品キットを送付し、商品をお送りいただければ、弊社が採寸・撮影・掲載作業を代行します。出品者はInstagram感覚でコメント、着用写真、価格を入力するだけで簡単に出品でき、購入者は複数の商品をカートでまとめ買いできます。14時までの注文で最短で翌日の午前中に商品が届くスピード感も特徴です。
ーー事業展開の際、注力したのはどのような点でしょうか?
冨田理央:
通常のフリマアプリは販売手数料やキャンペーンなどの経済的メリットの訴求が中心ですが、弊社では「ピックユーで出品すること自体がクール」という世界観の構築を目指しました。共同創業者の河合はブランディングや見せ方に長けており、私たちのコンテンツがファッションブランドや企業に引用されるなど、高い注目を集めています。
また、情報と購買の即時性を求める消費行動に応えるためにも、スピード感と独自の価値提供にこだわっています。サービスを利用しているのは、主にZ世代(※)のユーザー。Z世代の特徴として、情報のスピード感や、「この人が選んだものなら間違いない」という価値観を重視している点が挙げられます。特に、動画視聴においてはその傾向が顕著で、テレビ番組や長尺動画よりもTikTokなどの縦型短尺動画を好むなど、タイムパフォーマンスを意識します。そのため、スピード感と独自の価値提供は不可欠です。
(※)Z世代:1990年代中盤から2010年代序盤に生まれた世代
日本発ファッションプラットフォームとして価値と影響力の拡大を目指す

ーー今後の事業ビジョンについて教えてください。
冨田理央:
日本のファッション業界の存在感や影響力を高めたいと考えています。そのためにも、プロダクトの品質向上と顧客満足度の向上を目指したいです。現状では約9割をノーコードで運用していますが、今後は裏側のシステム基盤やプロダクト設計からしっかりと構築するべく、プロダクトづくりに深く関わるエンジニアの採用を進める予定です。
現在「Pickyou」のブランド自体がIP化、知的財産として確立しつつあり、これまでにもMeta、PARCO、阪急、三井不動産といった企業とのコラボレーションを実現してきました。
今後もファッション業界の各企業と連携しながら、サービスの価値と影響力をさらに広げていきたいです。
編集後記
冨田社長が手がける事業モデルに対する考えに触れ、その熱量とスピード感に驚いた。学生時代から事業構想を練り、卒業と同時に資金調達に挑んだ行動力や、物流・出品・販売までを一括代行する仕組みとブランディングへのこだわりには、戦略性と実行力が明確に表れている。ファッション業界において新たな価値を築こうとする構想は、次世代のビジネスモデルの可能性を感じさせた。今後の成長と挑戦に注目していきたい。

冨田理央/1998年生まれ。大学在学中にナノインフルエンサーのCtoC取引に着目し、独自のフリマプラットフォーム構想をスタート。卒業後すぐに事業化を進め、2022年に株式会社ピックユーを設立。