※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

塗料の専門商社として、全国規模で事業を展開している小柳商事株式会社。同社は約3万アイテムと独自の調色技術を強みに、お客様の品質向上に貢献してきた。野村證券での営業経験を活かし、33歳の若さで父の跡を継ぎ取締役社長に就任した小栁英樹氏に、社長就任までの道のりや、経営理念、今後の展望についてうかがった。

厳しい環境で鍛えた営業経験が、経営者としての礎に

ーー最初に野村證券に入社された理由を教えてください。

小栁英樹:
社長の息子という立場に甘えず、厳しい環境で鍛えたいと考えていたため、父の会社や塗料メーカーではなく、まったく関係のない会社を希望していました。そこで目を付けたのが、当時厳しい営業環境で知られていた野村證券です。入社後は、顧客リストを一から作成し、そのリストを手に、毎日ひたすら飛び込み営業に奔走していましたね。毎日のように断られ続け、時には目の前で名刺を破られることもありました。しかし、この経験で、どんな困難にも立ち向かえる強さを身に付けられたと感じています。

ーー貴社に入社し、社長に就任するまでの経緯について聞かせてください。

小栁英樹:
当初は副社長として経営に携わりましたが、父からの経営指導はほとんどなく「自分の力でやってみなさい」という方針でした。その後、父が癌を患ったことや専務の急死などが重なったため、33歳のとき社長に就任し、手探りで経営を担うことになりました。

信頼と人材育成を軸に、挑戦し続ける組織へ

ーー貴社の事業内容と、他社にはない強みについて教えてください。

小栁英樹:
弊社は、塗料やそれに関連する製品を扱う商社です。その上で、商社にもかかわらず建設業の許可を取得している点が大きな強みになっています。建設業許可は都道府県知事許可と国土交通大臣許可の2種類あり、弊社は国土交通大臣の許可を得ているため、全国規模で工事に携われるのが特徴です。特に、機械器具設置工事業の許可を持つ塗料商社は少なく、圧倒的な差別化が図れていると自負しております。

また、オーダーメイドの調色が自社で対応できる点も強みです。短期間での納品や小ロットの注文が可能で、お客様のコスト削減や環境対策にもつながっています。メーカーと共同開発をしながら、約3万アイテムもの塗料や資材を取り扱い、お客様の品質向上に寄与しています。

ーー社長に就任されてから行った社内改革は具体的にどのようなことでしょうか?

小栁英樹:
まず行ったのが、営業日報の導入です。当時は営業日報がなく、営業の記録や履歴が残されていませんでした。導入に対し反対意見もある中、会社の発展や人材育成のために不可欠と説得し、自らフォーマットを作成しました。現在では、新入社員でも上司の日報を見られるようにし、情報共有を徹底することで、社員の成長につなげています。

また、社員研修にも力を入れ、KNG(コヤナギ・ネクスト・ジェネレーション)研修という独自のプログラムをつくりました。優秀な社員は社歴問わず営業所長に抜擢するなど、思い切った人事も行い、社員のモチベーション向上や、組織全体に良い刺激を与えていると感じています。

ーー研修プログラムで、社員に一番伝えたいことは何ですか?

小栁英樹:
「企業の目的は、新しいお客様をつくり、つくり続けること」です。これは、経営学者のピーター・ドラッカーの著書「マネジメント」にある「企業の目的はたった1つ、顧客創造である」という言葉に大きな影響を受けています。そのため、営業では新規開拓を重視し、常に新しい顧客との関係を築いていくことを意識させています。

圧倒的な強みで「営業の弱体化」を防ぎ、新たな市場の挑戦へ

ーー社長として大切にされている価値観を教えてください。

小栁英樹:
大切にしているのは、社員やお客様との信頼関係です。何かを形にするためには、1人の力ではできません。弊社の事業は、お客様が操業を続ける限り、継続的に取引が発生する特性があります。しかし、信頼を失えば取引が途絶えてしまうでしょう。だからこそ、お客様との信頼関係を何よりも大切にしています。

ーー今後のビジョンについて聞かせてください。

小栁英樹:
AIを活用した業務効率化を本格的に進めていくつもりです。社員が、より業務に集中できる環境を整えるために、まずは受発注業務などの効率化に取り組んでいきたいですね。業務負担が軽減することで、戦略的な業務に注力できる体制を構築していきます。

また、今まで取引のなかった業界にも積極的にアプローチしていきたいと考えています。弊社の売上の95%は既存取引先によるものです。この現状は安定的である一方で、新規開拓の機会が減るため、営業の弱体化を招きやすいと感じています。企業にとって最も大切なのは、顧客創造です。そのため、弊社はこれからも安住せずに、常にチャレンジし続けていきます。

編集後記

小栁社長のキャリアは、挑戦と試行錯誤の連続だった。野村證券での営業経験から学んだことを、社長として独自の経営改革に推進してきた。特に、新規開拓の重要性を説く姿勢が印象的で、「安定は営業の弱体化を招く」という言葉が示すように、変化を恐れず挑戦し続ける姿勢こそが、小柳商事の成長を支えているのだろう。

小栁英樹/1959年生まれ、東京都育ち。慶應義塾大学経済学部卒業。野村證券株式会社に入社し、国内営業と国際金融部門を経験する。途中、コロンビア大学ビジネススクールに留学し、経営学修士(MBA)を取得。1989年に小柳商事株式会社へ入社し、1993年に取締役社長に就任。