
帝国データバンクの2019年の発表によれば、接骨院や整骨院、マッサージ業者の2018年度の倒産件数は85件と、2015年の38件から約2.24倍となり、多くの事業所が姿を消している。そのような中、九州で最大規模の鍼灸整骨院グループを運営しているのが、株式会社ONE FOR ALLだ。
同社の強みや集客の取り組み、従業員の独立支援制度、さらなる事業拡大の目標などについて、代表取締役の十亀誠治氏にうかがった。
柔道整復師になったきっかけと、業界改革の必要性を痛感した出来事
ーー十亀代表の経歴を教えてください。
十亀誠治:
小学生の頃に柔道を始め、中学は全寮制の学校に入学し、柔道一筋の生活を送っていました。ただ、柔道で生活していくのは厳しいと思い、体育大学や実業団に行くことは諦めました。
そこで、けがをした際にお世話になった先生のようになりたいと思って選んだのが、柔道整復師の仕事です。専門学校に進学し、学校に通いながら整骨院で働き始めました。
ーー独立を考えるようになったきっかけは、何だったのですか。
十亀誠治:
働き始めた頃は、仕事を終えてから22時頃まで学校で勉強する日々を送っていました。資格の取得前だったので、朝から夕方まで働いても、月給は4~5万円程度でした。理不尽な労働環境でしたが、他所の状況を知らなかった私は、この環境について疑いもしませんでしたね。
ところが、学校を卒業し、数年働いても月給は15~16万円で留まっていました。そのため、腕の良い先生が次々と辞めてしまいます。独立した方が高い収入を得られるというのが当時、整骨院業界の通説となっていました。
24歳のときに結婚して子どもができたため、社長に昇給について相談しました。しかし、「40歳くらいまで修業してからだ」と、あっさり却下されてしまいました。整骨院が事業として成立していない現状を見て、「自分が業界を根本から変えていこう」と決意し、独立を決めました。
成長を遂げてきたONE FOR ALLの、強みと経営力強化の秘訣
ーー改めて、貴社の強みについて、お聞かせいただけますか。
十亀誠治:
弊社の強みのひとつが、属人的にならない施術方法を確立している点です。機器を導入し、マニュアルに沿った施術を行うことで、誰でも同じレベルの技術を提供できるようにしています。
また、科学的根拠に基づいた治療を行っているため、患者さんにも、なぜこの治療が必要なのかを具体的に説明しています。それに加え、患者さんとのコミュニケーションを重視し、深い信頼関係を構築しています。
長年にわたって通い続けてくださる方が多く、現在の経営陣の一部は、もともとお客様で学生の頃から治療を受けてくださっていました。元患者が社員となり、経営に携わっているからこそ、施術を受ける側の気持ちがわかり、より良いサービスにつながっていると思います。
なお、整骨院にとって重要な技術力を従業員に身につけさせるため、著名な先生方を招いたセミナーを開いたり、社外セミナーにも参加して幅広い知識や技術を習得してもらったりしています。さらに、眼鏡チェーン店や美容室チェーン店など、他業種で急成長を遂げた企業をベンチマークとし、それらの経営手法を取り入れています。
転換点となったオンライン集客。従業員の独立支援制度がもたらすメリット

ーー起業してからこれまでの歩みについて教えてください。
十亀誠治:
私が勤めていた整骨院から独立した先輩や、起業支援を行っている業者に相談し、家族にも協力してもらいながら、資金調達に奔走しました。そして開業できたものの、最初の6~7年は本当に大変でしたね。店舗を拡大していく途中で従業員の退職が相次ぎ、結局、前の職場と同じ道をたどっていました。
さらに年商が10億円までいったところで、経理・総務・人事などのバックオフィス機能の整備が追いつかなくなっていったのです。そこからは10億円の壁をなかなか越えられず、これは自分ひとりでは回せないと気づき、各部門を組織化していきました。
こうして業務を回せるようになった頃、今度はコロナ禍に突入し、毎月4000~5000万円の赤字が出るようになってしまいました。この現状を改善するために取り組んだのが、Webサイトの強化です。マーケティング会社を買収し、オンライン集客に切り替えてから、集客力が一気に向上しました。
ーーオンライン集客では具体的に、どのような取り組みをしているのですか。
十亀誠治:
Webマーケティングに力を入れ、Googleで検索上位に来るようにSEO対策を強化していきました。最近では生成AIでもヒットするようにプログラムを組み、検索エンジンやSNSにWebページの情報を知らせるmetaタグも使っています。
またブログやInstagram、YouTube、TikTokなど、さまざまなプラットフォームで情報を発信しています。TikTokは若い世代の集客に効果的で、今では重要な集客チャネルのひとつになっていますね。
ーー従業員の独立開業支援について教えてください。
十亀誠治:
これは弊社独自の制度です。まずは集客やマーケティングなど、経営に必要なノウハウをレクチャーし、その後、資金調達や会社設立に伴う各種手続きのサポートを行います。特に特徴的なのが、独立後に財務や経理などのバックオフィス機能を提供するなど、継続的なサポートを提供している点です。
従業員が開業してからは、目の前のお客様に向き合い、さらにその整骨院に勤める従業員の育成に集中できる環境を整えられるようにしています。また、他社では嫌がられますが、弊社の店舗に在籍していたときの患者さんを自分の店舗で診ることも許可しています。そのため、独立後も良好な関係を維持できているのです。
独立を目標にすることで現在の従業員たちのモチベーションアップにもつながり、弊社にとってもメリットになっています。さらにフランチャイズ化が着実に進み、今ではFC店が27店舗となり、直営店を含めると57店舗となりました(※2023年10月時点)。
このように従業員の独立開業を支援することで、互いにWin-Winの関係を構築しています。
M&Aを強化し、2030年までに300店舗、年商100億円を目指す

ーー今後の目標について、お聞かせください。
十亀誠治:
現在は鍼灸整骨院・リラクゼーション・美容サロンで150店舗ほどですが、今後はM&Aに注力し、大型合併も視野に入れながら2030年までに300店舗まで増やすことと、年商100億円を目指しています。この業界を発展させ、日本一の鍼灸整骨院グループになるという長年の夢の実現に向けて、これからも尽力していきます。
ーー最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
十亀誠治:
私自身、人を喜ばせたいという思いでここまで頑張ってきました。そのため、私と同じように、お客様に喜んでもらうことを自分の喜びとして感じられる人を求めています。
弊社では、新卒採用に力を入れており、年間で80名を採用しています。自社の研修所で200時間の新人研修プログラムを受けられるため、しっかり実力をつけてから、現場デビューができます。柔道整復師としてのスキルを高めたい、多くの方を笑顔にする仕事がしたいという方をお待ちしています。
編集後記
頑張って働いても給与が上がらない、能力のある人が次々と辞めていく業界の状況に危機感を持ち、新たな道を切り拓いてきた十亀代表。教育環境を整え、独立をサポートする同社は、柔道整復師の労働環境を改善し、業界の発展に大きく貢献している。今後の株式会社ONE FOR ALLのさらなる活躍に期待だ。

十亀誠治/1980年、福岡県生まれ。福岡柔道専門学校を卒業。2004年に24歳でむさし鍼灸整骨院を開業。2005年に有限会社ONE FOR ALLを設立し、代表取締役に就任。2015年に株式会社ONE FOR ALLに社名を変更。