※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

「人と地球と家計に優しい家」をコンセプトに、独自のWB工法を用いて住宅の長寿命化と資産価値の向上に取り組む、平松建築株式会社。同社は「消費型」から「資産型」への家づくりの転換を提唱し、YouTubeでの情報発信を軸に驚異的な成長を遂げる。率いるのは、大工職人から経営者へとキャリアを歩んできた代表取締役の平松明展氏だ。職人時代の経験から独立、そして日本の住宅業界の未来を見据える壮大なビジョンまで、その軌跡と哲学に迫る。

職人としての苦労と経営者への転機

ーー大工を志した経緯と、独立までの道のりをお聞かせください。

平松明展:
もともと、ものづくりが本当に好きでした。大工の専門学校に進学し、実習で仲間と家1軒を実際に建てる経験をしました。それが非常に楽しく、「こんなに面白いことを仕事にできるなら最高だ」と感じ、迷わず大工の道へ進んだのです。

しかし、現実はそう甘くありませんでした。「図工が好き」というレベルでは全く通用しない、昔ながらの気質の職人の世界。最初の2、3年は毎日怒鳴られ、「いつ辞めようか」とばかり考えていました。

最初はつらいこともたくさんありましたが、一つひとつ仕事を覚え、できることが増えていきました。やっていくうちに、家づくりが心から面白いと思えるようになり、5年ほどで家1軒を任されるまでになりました。初めて担当したお客様から最後に「ありがとう」と笑顔で言われた瞬間、この仕事の素晴らしさを実感しました。そして、「いつか自分が思う家づくりで、お客様に喜んでもらいたい」と独立を強く意識するようになったのです。そこから資格取得などの準備を進め、29歳で独立を果たしました。

ーー独立当初、特にご苦労された点は何ですか。

平松明展:
最初の3年間は、経営者とは名ばかりで、親方として家づくりだけをしている状態でした。経営の知識は全くなく、見積書の作り方から集客の方法まで、何も分かっていませんでした。

「このままではいけない。既にうまくいっている人から学ばなければ駄目だ」と気づきました。そこで、コンサルティング会社と契約して経営の基本を学んだのが、大きな転機です。2012年頃には「家づくりで日本を元気に!」という会社のミッションを定め、ようやく経営者としてのスタートラインに立てました。

独自のWB工法こそ家の資産価値を保つカギ

ーー貴社の事業の核となるWB工法とは、どのようなものでしょうか。

平松明展:
WB工法は、壁の中に通気層を二重に作ることが特徴です。これにより、湿気や化学物質などを換気扇に頼らず、自然に排出できます。壁の中の結露も防ぐため、家が傷みにくく長持ちします。以前勤めていた会社で、通気性のある家が10年、15年経ってもほとんど劣化しないのを目の当たりにしました。この経験から、100年もつ家には「通気」と「透湿」が不可欠だと確信したのです。この性能の高さが他社との大きな差別化となり、お客様から選ばれる理由になっています。

ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。

平松明展:
弊社では、家を建てるときの初期費用だけでなく、100年という長い視点でかかる総額、「ライフサイクルコスト」で考えることの重要性を伝えています。一般的な家を30年後に建て替えるより、初期費用が少し高くても100年もつ家の方が、トータルコストははるかに安くなります。

日本の住宅は、30年経つと建物の価値がほぼゼロになってしまうのが現状です。しかし、弊社が作るような高性能な住宅は、30年後も十分に価値が残り、実際に高く売却できています。この「消費型の家づくり」から「資産型の家づくり」への転換こそ、私たちが目指すものです。

YouTubeを武器に描く住宅業界の未来図

ーー事業拡大のきっかけについて教えてください。

平松明展:
2021年頃、「100億企業を目指そう」と決めました。AIなどが発達していく社会で、小規模なままでは生き残れないと感じたからです。そこで、2022年の終わりに腹をくくってYouTubeの毎日投稿を本格的に開始しました。これが起爆剤となり、売上は飛躍的に伸びたのです。今ではチャンネル登録者数が20万人を超え、多くの方に弊社の家づくりを知っていただくきっかけになっています。

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。

平松明展:
「資産型の家づくり」という考えを日本中に広めるため、弊社の理念に共感してくれる工務店の仲間を全国に増やす「SUMMUT(すむっと)」というプロジェクトを立ち上げました。これは、信頼できる工務店との出合いをサポートするコミュニティサービスです。家づくりを検討している方の、様々な悩みを解決します。そして、安心して家づくりに臨める状態を目指しています。具体的には、「家づくり相談広場」や「家づくりガイド」の提供、認定工務店の紹介などを行っています。これらのサービスを通じて、家づくりのプロセスを支援します。

さらに、本社のある静岡県磐田市では、住宅の魅力を発信するテーマパークを構想中です。ここでは、高性能な住宅の良さを体感できる場を提供し、家づくりの意識を変えるきっかけにしたいと思っています。

日本の職人の技術レベルは、間違いなく世界一です。この素晴らしい技術と知見を業界全体で共有し、野球の大谷翔平選手のように、住宅業界で世界一を目指したい。年商100億円はそのための通過点です。変化を恐れず、どこよりも早く時代を先取りしていく企業でありたいと思っています。

編集後記

単に良い家を作るのではない。「資産」として次世代に継承し、日本の住宅問題にまで挑もうとする姿勢は、まさに革命的だ。「家づくりは人生づくり」という言葉の裏には、顧客への深い愛情と、業界の未来に対する強い責任感が宿っている。同社の挑戦が日本の住まいの常識を変える日は、そう遠くないのかもしれない。

平松明展/1980年、静岡県磐田市生まれ。19歳から大工として10年間、数々の現場を経験する中で丈夫な家と壊れる家の特徴を学び、29歳で平松建築を創業。32歳で法人化を果たす。ドイツで省エネ建築を学ぶなど、地域の気候風土に合った家づくりを日々研究中。その傍ら、全国の同業者に向けた講演やコンサルティングも多数行う。『住まい大全』『住んでよかった家』(KADOKAWA)は累計4万5000部のベストセラーに。YouTubeチャンネル「職人社長の家づくり工務店」は登録者20万人を誇り、現在は「SUMMUT(すむっと)」を通じて全国に74社を超える加盟店ネットワークを構築している。