
千葉県に拠点を置く株式会社三和テレムは、NTTの電話工事会社として創業し、55期を迎える安定した基盤を持つ。しかし、成熟産業となった通信業界の現状に危機感を抱き、代表取締役社長の小白悟氏は事業の多角化を推進。特にIoT技術を駆使したスマートホーム事業では、入退室管理のスマート化から自動温度管理システムまで、利用者の「安心安全な生活」を追求している。通信と不動産、ITを融合させた独自のビジネスモデルで、日本の住宅市場に新たな価値を創出し続ける小白社長に、その事業戦略と未来への展望を聞いた。
社長の歩みと事業継承への思い
ーー社長のこれまでの経歴をお聞かせください。
小白悟:
1966年生まれの私は、大学卒業後に大手通信機器メーカーの資材部でバイヤーとして4年間勤務しました。その後、いつも強気な父が体調を崩し、父から会社に戻らないかという話があり、父が築き上げてきた弊社を継ぐことを決意し、家業に入ったのです。
しかし、正直なところ、工事は得意ではありませんでした。現場では手先が器用でないと難しく、当時の社員からは私に対して否定的な意見もありました。しかし、だからこそ「管理」の重要性を深く考えるようになりました。もし工事が得意だったら、同業者と同じプレイヤーのままだったかもしれません。
ーー大手メーカーでのバイヤー経験は、貴社の経営においてどのように活かされたと感じますか?
小白悟:
メーカーで徹底的に叩き込まれたのは数値管理、特にコスト削減の重要性です。売上よりも利益が重要だと教え込まれました。1円のものを90銭にすることで10%の利益を確保できるという考え方は、私の経営の根幹です。売上を上げるだけでなく全体的観点からコストを抑えることの大切さを学んだ経験は、PL脳ではなくBS脳(長期的な視点での事業経営)を重視する私の考え方の土台になっています。
ーー2005年に社長に就任した際は、どのような心境でしたか?
小白悟:
社長就任時は、父の体調不良にくわえ、活況で仕事も多い時期でした。そのため、何かを変えるよりも、これまでの体制をどう維持・継続していくかということへのプレッシャーが大きかったです。二代目特有の状況で、周囲からは「やって当たり前」という見方でしたので、最初の5年間は父の経営方針を踏襲しようと決めました。変にハンドルを切らず、出来高制で働く社員に次のステージが開けるような勉強会を行うなど、父の仕事を継続させることに尽力しました。
多角化の軌跡とスマートホーム事業への挑戦

ーー事業を多角化しようと考えたきっかけは何でしょうか?
小白悟:
私には娘が二人いるのですが、2011年頃、この男性社会の通信建設業を娘たちが継ぐのは難しいと感じました。工事だけでは娘たちの時代には通用しないという危機感から、新しいマネタイズの必要性を強く意識し、不動産事業に乗り出したのです。
不動産事業で建物管理を行うなかで、工事よりも単価が安く、価格競争に陥りやすいという壁に直面しました。そこで差別化が必要だと考え、2020年にIoTを導入した建物の開発プロジェクトを開始しました。これは、wi-fiなどの通信環境が「あって当たり前」の時代になったからこそ、次の価値としてIoTが必要だと考えたからです。
ちょうどその頃、義母が熱中症になりそうになった経験から、自動温度管理ができるスマートホームが高齢者の安心安全な生活に貢献できると確信し、スマートホーム事業に最も力を入れています。
ーー貴社のスマートホームについて教えてください。
小白悟:
一般的なスマートホームのイメージは、スマホで鍵を開けたり、電気やクーラーをつけたりする程度かもしれません。オンラインストアなどで手軽に買える製品と同じだと誤解されることもあります。しかし、弊社では、顔認証や指紋認証による入退室管理から取り組み、「鍵のいらない生活」を実現しました。
2020年に土地から建築まで手掛けたプロジェクトを経て、2021年には初めてIoTを搭載した建物を完成させました。現在では100棟ほどに導入されており、その物件が大手ファンドに売却され、大きなキャピタルゲインを得られたことで、家賃収入と高付加価値化によるキャピタルゲインの両方を追求する重要性を再認識しましたね。
「人」を活かす経営哲学と未来への展望
ーー社員の能力を引き出すための具体的な取り組みをお聞かせください。
小白悟:
私は「人こそが最大の財産」だと考えています。社員はそれぞれ個性や強みを持つ「小さな石」のようなものです。4番バッターばかりではチームは成り立ちません。それぞれの個性を活かし、チームで勝つことを重視しています。
私の役割は、みんなの能力を引き出し、力を上げてあげることだと考えています。社員が「物心ともに達成感と収入」を得られるよう、人事評価制度の見直しも進めています。
ーー競合他社が多い電気通信工事において、貴社の特徴は何でしょうか?
小白悟:
長年培った通信・電気工事の技術に加え、多種多様なIoTデバイスのラインナップが最大の特徴です。一つのメーカー製品に限定せず、各国のパートナーから最適なデバイスを組み合わせることが可能です。また、日本市場に特化したきめ細やかなホスピタリティも強みです。
海外製品の取扱説明書が不十分な場合でも、弊社が日本語に翻訳し、お客様に丁寧なサポートを提供します。電気、通信、IoT、そして不動産という全ての要素をワンストップで包括的にサポートできる企業は日本では稀です。私自身が不動産オーナーであるため、オーナー視点での具体的な提案ができる点も差別化に繋がっているといえるでしょう。
ーー今後、新規開拓、営業部門の強化、人材採用強化にどのように取り組んでいきますか?
小白悟:
今後は、インターネット環境が未整備の、特に築年数の古い綺麗なマンションへの新規開拓に注力します。配管工事の費用負担がオーナー様のネックになっているため、分割払いなどの提案で課題解決を図ります。
将来的には、国やNTTとの連携で費用負担が軽減されれば、より多くの物件で通信環境が整備されるでしょう。営業部門は現在強化中で、私がモデルルームを活用してスマートホームの魅力を直接伝え、導入を促しています。人材採用は中途が中心ですが、有資格者や営業、施工管理を中心に紹介で採用することが多いです。今後は高卒のICT人材育成も視野に入れ、組織力を高めていきます。
編集後記
小白社長は、父から受け継いだ通信工事の安定基盤に安住せず、時代の変化を捉え、不動産、そしてIoTへと事業の軸を広げてきた。特にスマートホーム事業においては、利用者の「安心安全豊かな生活」という本質的な価値を追求する姿勢が印象的だった。社員の個性を尊重し、チームで成長を目指す経営哲学は、今後の人材育成や組織強化において重要な指針となるだろう。日本の市場が抱える通信インフラの課題にも向き合いながら、高付加価値なスマートホームで未来の暮らしを豊かにしていく同社の挑戦に、今後も注目したい。

小白悟/1966年生まれ。千葉県出身。東海大学工学部経営工学科卒業後、大手通信機器メーカーを経て、父の経営する小白通信建設(現・株式会社三和テレム)に入社。2005年、代表取締役社長に就任。通信・電気・建物管理の技術を活かし、スマートホーム事業を推進している。