※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

自然豊かな北海道札幌市で創業したサンマルコ食品株式会社。自身の経験に基づいて研究開発した医学的根拠のある健康管理食の加工・冷凍・包装を一貫して自社で行い、全国に北海道の味を届けているほか、近年は健康管理食の宅配サービスも開始した。代表取締役社長の藤井幸大氏に、注力する事業や今後の展開についてうかがった。

食品に携わる者としてーー社会課題である日本の食習慣を解決するという決意

ーー藤井社長のご経歴をお聞かせください。

藤井幸大:
高校卒業後、約10年間にわたり海外で生活しました。カリフォルニア州のアカデミー・オブ・アート大学で広告を専攻していた在学中、父である先代と話すなかで事業を継ぐ決意を固め、帰国。その後、総合食品商社での勤務を経て、サンマルコ食品に入社しました。

2012年に日本コロッケ協会を設立し、会長として「コロッケの付加価値向上」や「食卓での権威復権」を掲げた活動にも力を入れています。

ーー社長に就任してからはどのような取り組みを行っていますか?

藤井幸大:
コロナや人手不足の影響で日本の食品流通も大きな変化があり、弊社にも急速な対応が求められています。弊社では、私が3代目を引き継ぐタイミングで「第3創業期」として、3つの柱を立てて、社内改革を行なっています。創業からの事業が中心となるフローズン事業、弊社の主力商品であるコロッケの魅力を伝える「店舗事業」、社会課題に立ち向かうメディカルフード事業の3軸です。

フローズン事業は、冷凍食品メーカーとして既存事業のコロッケ・グラタン・春巻をさらに展開していく取り組みです。コロッケは何年も安売りの象徴となってしまっていたため、美味しいコロッケが絶滅しかけています。弊社では、”四次元官能設計”という「味の設計図」を作成し、「解釈ベースの議論をテーブルに載せない」感覚ではなく数値で“おいしさ”を可視化しています。これは、X(素材の味)、Y(スパイスやハーブなどの表面的な風味)、Z(うま味やコクなどの深みの風味)という3軸と咀嚼中の時間ごとの印象で構成され、商品ごとに最適なバランスを設計しています。

また「味の濃さ」=「味覚そのもの」をコントロールするために、食品が舌の上に接地する“面積”や“時間”に注目しています。個人の好みに依存しない調整が可能です。

北海道の土壌の恵みを生かした独自の研究開発で香りと旨みにこだわり、「今まで食べたコロッケで一番美味しいコロッケ」を目指しています。

また、2軸目の「店舗事業」では、「コロモア」を展開しながらコロッケの魅力と感動を伝えていき、コロッケの食文化を確立していきたいです。

健康管理食のメリットを広めたい――口腔内挙動で味覚の変革を起こす

ーーメディカルフード事業について教えてください。

藤井幸大:
医療従事者と連携し、健康を管理できる冷凍宅配食「Dr.Dish(ドクターディッシュ)」を提供しています。事業化にあたり着目したのは、日本人の死因の約6割を占める「生活習慣病」という社会課題です。私は、この問題の根底に、現代の食品設計そのものに課題があると考えています。安さを追求するあまり、多くの加工食品に塩分などの表面的な調味料が使用されています。そして、塩辛いなど刺激が強い味はすぐに飲み込んでしまうため、血糖値の急上昇にもつながります。これは単なる添加物の話ではなく、日本の食文化そのものを壊しかねない大きな問題だと感じているのです。

ーー社長ご自身の問題意識が事業の出発点なのですね。

藤井幸大:
私自身も以前105キロに到達してしまい、健康診断では”G判定(要医療)”を受けましたが、あるきっかけで食生活を見直したことで体調が大きく改善し、人生がより楽しくなりました。同じように病気やコンプレックスなど体の悩みを抱える人に、健康管理食のメリットや正しい知識を伝えたいと考えたことが「Dr.Dish」開発の経緯です。

厚生労働省が推奨する食事の指針はあるものの、なかなかその通りの食事をするのは難しいものです。「Dr.Dish」はその指針をクリアしているので、安心して召し上がっていただけます。

ーー健康管理食の開発における強みを教えてください。

藤井幸大:
前談の”四次元官能設計”と”口腔内挙動”による「味の設計図」をつくって薄味などの美味しさの課題を解決しました。咀嚼時間が自然と長くなるように設計されており薄味と感じにくく、血糖値スパイクも起きにくくなる技術の開発に成功し、医療機関にもお墨付きをいただきました。また、クラウドファンディングでご支援いただいた資金をもとに、臨床試験を実施し、「Dr.Dish」によってHbA1cが下がっていく立証も取れました。

「Dr.Dish」は糖尿病患者向けに開発した商品ですが、高血圧症・心筋梗塞のリスクがある生活習慣病患者や、妊娠中の方の中性脂肪コントロールにも良い影響を及ぼすと分かりました。

「食」に対する新たな価値観で医療の世界までサポート

ーー今後の展望をお聞かせください。

藤井幸大:
食事の医学的データをとっていることは食品メーカーとしての弊社の個性です。食事による健康づくりが続かないケースについては課題を徹底的にこなし、今後も医学的根拠を持った「Dr.Dish」であらゆる病気やコンプレックスに向き合っていきます。

生活習慣病向けのBtoC事業を皮切りに、調理スタッフ不足の医療現場へ業務用フードを展開していく予定です。弊社だけではごくわずかな患者にしか提供できないため、社会課題解決のためには、多くの食品メーカーの参入が必要です。各食品メーカーが切磋琢磨していけば、本当の意味での健康で安心・安全な食品が増えていくでしょう。

編集後記

コストの安さや加工のしやすさを優先した結果、多くの加工食品が塩分過多につながる設計になっているという問題提起は、まさに食の本質を突いている。わかりやすいおいしさを求めがちな日頃の食生活を見直す良い機会となった。社長の体験から生まれた「食」への強い思いは、強く芯のある企業づくりにも効果的に作用していくことだろう。

藤井幸大/1981年生まれ、北海道出身。2010年、サンマルコ食品株式会社入社。2023年に「Dr.Dish」のECサイトをオープン。2024年に代表取締役社長に就任。