
インフラの老朽化や人財不足など、多くの課題に直面する道路建設業界。公共事業から民間開発、海外展開に至るまで、多岐にわたる対応力と持続可能な成長戦略が求められている。そのような状況下で、日本道路株式会社は「道からはじまる街づくり」というコーポレートスローガンを掲げ、長年にわたり培ってきた技術力と強固な組織力を武器に、新たな挑戦を続けている。同社の代表取締役社長である石井敏行氏に、これまでの歩みと現在の経営スタンス、そして創立100年を見据えた今後の展望について話を聞いた。
現場への強い思いが導いた沖縄での挑戦
ーー日本道路に入社を決められた経緯をお聞かせください。
石井敏行:
父親が建設業を営んでいたことも影響し、大学では道路工学を専攻していました。就職活動を進める中で、弊社で働く大学の先輩から話を聞き、興味を持ったのがきっかけです。先輩から話をうかがう中で、清水建設の系列企業という安心感に加え、道路づくりに特化している点が魅力だと感じました。そして、採用面接を通して温かくファミリー的な社風を感じ、「この会社で働きたい」と決意しました。
入社する前から「将来、社長になろう」と意気込んでいたわけではないですが、当時、研究室の仲間との間で、「それぞれが入社する会社できちんと活躍して、上の立場になったらいいね」と話していました。入社前から大きな夢を語り合えるくらい、弊社で働くことに期待感を持っていました。
ーー入社後はどのようなキャリアを築かれたのでしょうか?
石井敏行:
入社後、最初の配属先は福岡にある試験所でした。そこでは試験業務が中心でしたが、「現場でものづくりに携わりたい」という強い思いがあり、当時の副支店長に直談判し、沖縄へ異動することになりました。
沖縄では、念願だった現場での経験を積むことができ、与那国島での農地整備工事は特に印象に残っています。何もない牧場地に道路をつくる仕事で、時には1時間に80ミリの大雨が降る過酷な環境でしたが、ゼロから道路をつくり上げていくその過程で、改めてものづくりの醍醐味を実感することができました。
公共工事で培った技術と機動力が支える事業展開

ーー改めて貴社の事業内容を教えてください。
石井敏行:
弊社は主に道路建設および舗装工事を行う会社で、持続可能な道づくり、街づくりに取り組んでいます。弊社はもともと国土交通省や防衛省、高速道路関連といった中央官庁発注の公共工事を請け負っていました。そこで培った技術と経験が基盤となり、民間工事にも事業を広げていきました。以前は下請け受注が中心でしたが、現在は直接受注という形で案件に取り組んでいます。
ーー他社と比べた際の強みはどのような点でしょうか?
石井敏行:
技術力が高いのはもちろんですが、お客様と真摯に向き合う姿勢が高く評価されているように感じます。たとえば、公共工事で磨き上げた正確な図面の拾い出しや、緻密な数量算出による丁寧な見積もり提案は、不明瞭さ、曖昧さがないため、お客様が安心して弊社に任せてくださる要因の一つです。お客様からのご指摘やご要望にも真摯に対応する姿勢が信頼につながっているようです。
また、弊社では災害復旧といった緊急対応において「呼ばれたらすぐ動く」という意識が社内に浸透しており、その機動力とスピード感も高く評価していただき、「日本道路に頼めばすぐに対応してもらえる」という声もいただいています。
「道からはじまる街づくり」への挑戦と人財の多様化で未来を切り拓く
ーー今後の事業展望についてお聞かせください。
石井敏行:
最近特に意識しているのは、弊社のロゴでも掲げている「道からはじまる街づくり」です。道路工事にとどまらず、PPP/PFI事業(※)にも取り組み、そのための人員も増やしています。また、建築部や設計部も新たに立ち上げ、スポーツ施設や公園の整備、物流施設、さらにはスマートシティといった分野にも活動の場を広げることにより、街づくりの一翼を担う存在を目指しています。
海外展開においては、タイとマレーシアを拠点として、日本の高度な技術力とリサイクル資材を有効活用した事業を推進中です。今後は、現地の企業とも調整を進めながら、インドネシアなど近隣地域への展開も視野に入れています。
(※):PPP(Public Private Partnership)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を行政と民間が連携して行うことにより、民間の創意工夫等を活用し、財政資金の効率的使用や行政の効率化等を図るもので、指定管理者制度や包括的民間委託、PFI(Private Finance Initiative)など様々な方式を含む。
ーー貴社の採用、教育面ではどのようなことに力を入れていますか?
石井敏行:
従来の理系・文系や新卒・キャリアといった枠にとらわれず、幅広い人財を採用しています。新入社員に対しては約6か月間の研修期間を設け、基礎を学んだ上で早期から現場を経験してもらっています。また、配属後も個々の適性や希望に応じて職種変更できる制度を整えており、最適なキャリアを築けるよう支援しています。
教育面では、これまでの実績と信頼を未来へ引き継ぐために、社員研修施設・技術研究所・機械センターの3つの機能を統合した複合施設「土浦テクノBASE」を2024年4月に開設しました。施設内には実際の道路工事現場を再現したシミュレーション設備や、最新のICT機器を用いた実習など、実践的な技術習得が可能な環境を整えています。
弊社は2029年に創立100年を迎えますが、事業の多角化が進んでいる今だからこそ、多様な経験や視点を持つ人財に大いに活躍してもらいたいですね。
編集後記
取材を通じて特に印象に残ったのは、石井氏の「自然体でいること」を貫く姿勢だ。会社の強みとして語られた基礎力、技術力、スピード感はもちろんのこと、人との関係性を大切にし、役職や立場にとらわれず周囲と向き合う姿勢に強く共感した。「道をつくる」から「街を育てる」へと進化する今後の挑戦は、建設業界に新たな可能性をもたらすに違いない。

石井敏行/1958年東京都生まれ。日本大学理工学部土木工学科を卒業後、1982年に日本道路株式会社へ入社。沖縄営業所での勤務や関西支店長、生産技術本部長などの要職を歴任し、2022年に代表取締役社長に就任。