※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

人材不足が深刻化する建設業界。インフラ老朽化や災害対策が叫ばれる一方、現場を支える企業の持続性が問われている。そんな中、茨城県つくば市で70年以上にわたり地域に根ざしてきた北条工業株式会社は、確かな哲学と柔軟な変革で「100年企業」を目指す。父の逝去という逆境を乗り越え、24歳で事業を継承した同社の代表取締役である島崎崇氏に、これまでの歩みと未来への展望をうかがった。

覚悟を決め24歳で事業承継、会社の羅針盤となる経営理念を策定

ーー島崎社長が家業を継がれるまでの経緯についてお聞かせいただけますでしょうか。

島崎崇:
祖父が創業した建設業は、物心ついた頃から身近な存在でした。業界が活気に満ちていた当時、父はよく私を外に連れ出し、「あの学校も、あの橋も、うちがつくったんだぞ」と誇らしげに話してくれたんです。その姿を見て、いつか自分もこの仕事で人の役に立つんだと、自然と思うようになりました。

しかし、私が18歳のとき、その父が病気で急逝しました。会社は一時的に親戚に託し、私はまず修行に出ることを決意します。父と親交のあった建設会社の社長が温かく迎えてくださり、そこで約3年間、現場のイロハから社会人としての心構えまで、公私にわたって面倒を見ていただきました。

21歳で弊社に入社し、現場仕事や営業としてがむしゃらに働きました。当時は古参の社員からの厳しい視線も感じましたが、一つずつ実績を積み重ねることで、少しずつ信頼を得られたと感じています。そして入社から3年後、24歳で代表取締役に就任しました。

ーー代表取締役に就任後、どのようなことに取り組まれましたか。

島崎崇:
最初に取り組んだのは、会社の羅針盤となる経営理念の策定です。当時の弊社には、社員が同じ方向を向くための明確なビジョンがありませんでした。そこで「人との繋がりを重要視しすべての『こうじ』を通してお客様に喜んでもらう」という理念を掲げたのです。

この「こうじ」には、2つの意味が込められています。我々のしごとである「工事」を通じて、お客様に喜ばしい出来事、つまり「好事(こうじ)」をお届けしたい、と。この理念を月に2度あるミーティングで全員で唱和し、自分たちの仕事の意義を再確認しています。その結果、社内に一体感が生まれ、みんなが協力し合う文化が育まれていきました。

また、有限会社から株式会社への組織変更も決断しました。1954年の設立以来、地域に根差してきましたが、公共工事の入札制度では、会社の信用力やランク付けで株式会社が有利になる現実がありました。会社の未来を見据え、より大きな仕事に挑戦していくための戦略的な決断でした。

70年の信頼と、プロとしての提案力が揺るぎない強みに

ーー貴社の事業内容についてお聞かせいただけますか。

島崎崇:
弊社は公共工事と民間工事の2軸で事業を展開しています。地域のインフラ整備工事、たとえば道路や橋、工場、倉庫、学校といった大規模なものから、一般のご家庭の外構工事や駐車場まで、幅広く手掛けています。施工からメンテナンスまでをワンストップで提供しているのが特徴です。

ーー貴社の強みはどのような点にあるとお考えですか。

島崎崇:
弊社の強みは2つあります。1つは、70年以上にわたり、地元・つくば市で築き上げてきた「信頼」です。地域の方々は、私たちの仕事ぶりを長年見てくださっています。「北条工業さんなら安心だ」と思っていただけることが、何よりの強みです。この信頼を次世代につなぎ、弊社を「100年企業」に育てていくことが私の使命だと考えています。

もう1つは、お客様の期待を超える「提案力」です。私達は、お客様のご要望をただ形にするだけではありません。たとえば、お客様のご要望通りに進めると将来的に問題が起こりそうな場合、プロの視点から課題を先回りして指摘し、より良い代替案をご提案します。その結果、「あのときの提案のおかげで、本当に快適になったよ」と感謝の言葉をいただいたとき、この仕事の醍醐味を実感します。

社員一人ひとりが輝ける組織へ 業界の未来も見据えた挑戦

ーー貴社で一緒に働きたい人物像はどのような方でしょうか。

島崎崇:
自分のためだけでなく、「誰かのために」という思いを持って働ける方と、ぜひ一緒に働きたいです。建設業は、自分たちがつくったものが地図に残り、人々の生活を支える、非常にやりがいのある仕事です。「人の役に立ちたい」という思いを持つ人なら、大きな達成感を得られるはずです。

無論、人には得意・不得意があります。それを見極め、社員が最も輝ける場所で能力を発揮してもらうのが経営者の役目です。その成果を正当に評価する人事制度を構築し、社員が納得感を持って長く働ける環境づくりを進めています。社員やその家族が利用できる保養所や、地元のお店で使える割引チケットなども、日頃の感謝を形にした取り組みのひとつです。

さらに、自社だけでなく、建設業界全体の未来にも貢献したいと考えています。現在、補助金を活用し、建設業に特化した人材マッチングアプリの開発を進めています。まずは茨城県内の同業者が無料で利用できるプラットフォームを構築し、業界の人材不足解消の一助となれればと考えています。将来的には、このモデルを全国に広げていくのが夢です。

つくって、還す 地域と環境に貢献し、100年企業へ

ーー最後に、事業を通じて実現したい「地域社会の未来像」についてお聞かせください。

島崎崇:
弊社が100年企業を目指す上で、事業の継続と後継者の育成は最重要テーマです。私が後を託したいと思う社員に、「この会社を継ぎたい」と心から思ってもらえるような魅力ある企業であり続けなければなりません。

そのためにも、私の座右の銘である「真・愛・善・美」(誠実に、愛を持って、細部までこだわり、社会に必要とされる仕事をすること)を会社全体で実践していく覚悟です。

そしてもうひとつ、建設業は、自然に手を加える仕事です。だからこそ、これからは「壊し、つくる」だけでなく、「自然に還元していく」という視点が不可欠だと考えています。たとえば、開発で切り拓いた山に、それ以上の木を植えて緑を増やす。農業に挑戦し、土地を豊かにする。地域にも環境にも優しい循環を生み出すことこそ、次世代への責任です。

このつくばという地域社会の基盤を支え、社員とその家族、そして地域の人々との豊かな繋がりを育んでいく。それが弊社の使命です。

編集後記

地域に生き、地域とともに歩む企業の姿勢が、島崎氏の言葉の端々から伝わってきた。氏が語る「地域」には、顧客や社員だけでなく、同業他社、そして未来の環境までが含まれている。業界全体、地域全体を本気で豊かにしようという高い視座が、その力強い言葉の源なのだろう。100年企業を目指し、しなやかに成長を続ける貴社の未来に、引き続き注目したい。

島崎崇/1974年茨城県つくば市生まれ、51歳。高校を卒業後、地元の建設会社に就職し、家業を継ぐために現場での実務経験を積む。その後21歳で北条工業株式会社に入社。現場主任、営業などを経て24歳で代表取締役に就任。