
2015年、経済産業省は「健康経営」の普及促進をスタートさせ、厚生労働省は50人超の事業所全てに「ストレスチェック」を義務づけた。国が労働者のヘルスケア対策に動き出したこの節目の年に、プライマリー・アシスト株式会社は誕生した。
産業医・保健師など産業医療職向け人材サービスや健康経営コンサルティングを手がける同社の生みの親が、代表取締役社長・石山知良氏だ。この事業を立ち上げた経緯や、設立10周年を迎えた同社が「次の10年」で目指すものについて話をうかがった。
長時間労働による体調不良、人手不足の問題に取り組む
ーー石山社長の経歴を教えてください。
石山知良:
新卒でメーカーに入社し、営業に約8年、その後企画職にて7年従事しました。その後30代後半に外資系人材ビジネスで経営責任を持つポジションに就いたことをきっかけに、会社経営に対して興味を持つようになったのです。そこで、経営者育成を掲げる株式会社ミスミ(現・株式会社ミスミグループ本社)に転職しました。
事業統括ディレクターとして約5年間在籍し、30億円規模と3億円規模の2つの事業部を任され、予算・利益・調達先の管理などの実務を担いました。さらに業務以外に月1回・1時間半の勉強会が行われるなど、実務と学びが一体となった環境で、経営の現場を体感できたことは大きな財産です。
その後、プライベートで父の介護を経験したことから医療に関心を持ち、医療系の人材ビジネスに執行役員として参画。医療の知識がつき、産業医、保健師、看護師について理解ができるようになったのです。
ーー起業のきっかけを教えてください。
石山知良:
国が2015年から「健康経営」を推進し始めたことが大きなきっかけです。長時間労働による体調不良や人手不足を目の当たりにし、これは社会が本格的に取り組むべき課題だと実感。「健康経営」を企業に広める役割を自分で担おうと決意し、弊社を起業しました。
産業医療職を育成し、全国47都道府県で供給できる強み
ーー貴社の事業内容を教えてください。
石山知良:
弊社は産業医や保健師、看護師などの産業医療職を企業に供給し、健康診断後のメンタル対応、ストレスチェック、経営者・管理職への教育サービス、従業員満足度調査をワンストップで提供しています。1000名以上の大手企業と比べてリソースが限られている中小企業に対しては、制度設計から人材育成まで積極的に支援を行っています。
ーー導入している企業からの評価はいかがですか。
石山知良:
「従業員アンケートで満足度が高い」「コミュニケーションが活性化した」といった声を多数いただいています。ただし、メンタル不調者が対前年比で何%減ったかという定量的な評価は難しいため、継続的な支援を心がけているところです。
ーー貴社の事業の強みを教えてください。
石山知良:
健康経営関連サービスを包括的に提供し、全国47都道府県で産業医療職を供給できる点です。また、企業に勤めた経験がない保健師・看護師に対して教育プログラムを提供し、セカンドキャリアの充実に貢献しています。学会への参加支援を通じ、保健師の知識向上やネットワーク構築を支援している点も強みといえるでしょう。
次の10年で中小企業への普及を進める

ーー今後の展望について教えてください。
石山知良:
設立から10年、大手企業における健康経営の認知度は高まってきましたが、中小企業にはまだ浸透しているとはいえません。次の10年で、特に中小企業への普及を進めることが最大のテーマです。
そのテーマに取り組むために強化する点は3つあります。約600社におよぶ既存のお客さまとの関係、営業の育成、そして人材採用です。お客さまとの関係を強化するには、弊社のサービスがしっかり成果を出す必要があります。成果を出すには、お客さまと接点を持つ優秀な営業の育成が欠かせません。そのためには、ポテンシャルの高い人材の採用が必要不可欠であり、すべてが密接につながっているのです。
ーーどのような人材を求めていますか。
石山知良:
新しい知識を積極的に吸収し、リーダーシップを発揮してくれる方です。弊社には医療知識を習得する機会が豊富にあり、国や企業の最前線の動きや課題を身近に感じられる環境も整っています。この環境下で身につけた知識をもとに、拡大する弊社の組織の中でリーダーとして活躍してくれる方が必要です。
社員が長く働ける環境をつくることが「健康経営」
ーー最後に、貴社はどのような健康経営を実践していますか。
石山知良:
まず、日本の企業で5.7%しか導入していない(※)「勤務間インターバル制度」を2018年に導入しました。退社後、次の出社まで14時間のインターバルをとってもらうことで社員の健康・生活バランスを重視しています。夏季休暇は平日5日間連続で取ることが必須で、土・日を含めると9連休を取得できます。そのほかにも有給休暇は1時間単位で取得が可能です。
また、6月・11月の年2回「健康休暇」をとってもらっています。その際には弊社から5000円を支給し、ブルーライトカットの眼鏡、筋膜ローラー、薬膳料理など、社員が「健康促進に必要」と考えたものを自由に購入してもらっています。
このような制度を通じて社員が楽しく、長く健康に活躍できる環境をつくり、今後も社員と一緒に社会的意義のある取り組みに挑戦していきたいですね。
(※)厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」より
編集後記
起業前、連日のハードワークで体調を崩した経験を持つ石山氏。「誰もがこんな働き方をしていたら、人口が減り続ける日本はもたない」という実感が同社設立の原動力になっている。お客さまの健康経営はもちろん、自社の健康経営にも取り組み続ける同社の「次の10年」に期待したい。

石山知良/埼玉県生まれ、1989年大学卒業後、上場企業メーカー・商社で、営業から企画・開発職、事業責任者まで幅広く経験。株式会社ミスミ(現・株式会社ミスミグループ本社)で経営者としての基礎を学び、その後医療人材会社の執行役員として従事。身内の介護を体験し、健康で長く働けること、また性別・年齢・学歴を問わず活躍できる職場環境づくりの重要性を実感。「自らが健康経営を実践し、それを世の中に普及させる」を掲げ、2015年プライマリー・アシスト株式会社を設立。