※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

兵庫県に拠点を構え、精密板金加工や製缶加工を手がける新栄製工株式会社。富士電機株式会社をはじめとする顧客から品質面で高い評価を受け、30年以上にわたる信頼を築いてきた。2022年、代表取締役に就任した中西勇太氏は、10年以上にわたる現場経験と、自身の家庭を持った経験から、旧来の慣習を打破する働き方改革を推進。社員一人ひとりの人生を尊重しつつ、今後は自社製品開発という新たな挑戦も見据えている。同氏の経営哲学と会社の未来像に迫る。

現場での経験が、経営判断を支える

ーー中西社長のこれまでの経歴をお聞かせください。

中西勇太:
もともと実家の会社を継ぐ予定はなく、別の道を考えていました。しかし、早くに亡くした母のこともあり、父を支えたいという気持ちから入社を決めたのです。

「社長の息子」として見られることへのプレッシャーもあり、弱音を吐かずに頑張らなアカンと思ってたところがあったかもしれません。

入社後、現場で長く経験を積み、作業の大変さや工程にかかる時間が肌感覚でわかるようになりました。その時の経験があるからこそ、納期やコストについてお客様と交渉する際も、現場の実情を踏まえた対応につながり、現在の経営にも直接活きています。

“社員第一”を貫く働き方改革と、その根底にある思い

ーー社長就任後、特に働き方改革に力を入れているそうですが、その原点と具体的な取り組みについて教えてください。

中西勇太:
私が入社した当時は、深夜までの残業が当たり前でした。このままではいけないと身をもって感じた危機感が働き方改革の原点です。社員には仕事だけでなく、自分の人生も大切にしてほしい。その思いから、有給休暇を取得しやすい雰囲気づくりや、「ノー残業デー」の導入も始めました。

特に、私にとって大きな転機は、結婚して子どもが生まれたことです。家庭を持ち、小さな子どもがいる中で、仕事と家庭のバランスの重要性を痛感しました。私が幼い頃、両親が仕事で家にいないことが多く、寂しい思いをした記憶があります。だから、休日出勤もできるだけ無くしました。「家族の存在」が経営の礎にもなっています。

ーー社長が大切にしている理念についてもお聞かせください。

中西勇太:
私が大事にしているのは、「感謝と思いやり、誇りと責任」という理念です。そして、小さい頃から言われてきた「お天道様は見ているよ」という言葉も大切にしています。誰かが見ていなくても、善い行いを続けていれば、いつか返ってくる。社員を大切にすることも、そうした信念に基づいた、私にとってはごく自然なことなのです。

この考えを浸透させるため、朝礼で伝えるだけでなく、不定期で外部講師による研修も実施しています。最近ではハラスメント研修や、男性の育児休業についての研修も行いました。

精密板金加工を軸に、顧客の信頼に応えるものづくり

ーー事業内容について教えていただけますか。

中西勇太:
弊社は、精密板金加工や製缶加工を主軸に、鉄やステンレス、アルミといったさまざまな金属を加工している会社です。主な取引先である富士電機株式会社向けの配電盤や装置関連部品のほか、近年では太陽光の制御装置に使われる筐体なども多数製造しています。その他にも鉄道・船舶関係の部品を手がけるなど、業界を問わず多様な製品に対応しています。

ーー長年にわたり顧客から高い評価を得ている品質の秘訣は何ですか。

中西勇太:
社内で一貫して加工を行える体制と、何よりも「人の力」が強みです。設備はもちろんですが、生産管理システム以上に、現場の社員たちが自ら考えて工程を組む主体性こそが、私たちの品質の源泉です。これは先代からずっと言われてきたことで、社員の中に品質に対する意識の高さが根付いています。常にレベルを上げていこうという姿勢が、お客様からの信頼に繋がっているのだと思います。

会社の未来を、新たな仲間と共に創る

ーー今後の事業展開について、どのようなビジョンを描いていますか。

中西勇太:
5年後には、ここから1時間圏内にもう一つ拠点を増やしたいです。そのために、現在は私と専務の2人で医療系や産業機械といった新規分野の開拓にも動き出しています。そして将来的には、自社製品を開発するという夢があります。ECサイトのアカウントだけは以前開設しました。私たちの技術で、日常のちょっとした不便を解消するような面白いものがつくれたら最高ですね。

ーー未経験からでも、入社後に成長できる環境はありますか。

中西勇太:
はい。基本的にはOJTで、先輩社員がマンツーマンで仕事を教えます。また、業務に必要な資格の取得も推奨しており、その費用は会社が全額負担しますので、意欲次第でどんどんスキルアップできる環境です。現在、動画マニュアルの作成にも取り組んでおり、さらに教育体制を充実させていきたいと考えています。

ーーその未来を共につくる仲間へ、メッセージをお願いします。

中西勇太:
会社の将来を一緒に考え、今私たちにない視点を与えてくれる方とぜひ一緒に働きたいと考えています。たとえば、コミュニケーションが得意で、SNSなどを使って広報的なことをやってみたいという方も歓迎します。大企業には安定性があるかもしれませんが、中小企業には、自分の頑張り次第で会社を動かせる、自分が主役になれるという大きな魅力があります。その面白さを感じ、私たちの仲間になってくれる方が現れたら、何より嬉しいです。

編集後記

「社長の息子」という立場に甘えることなく、自ら現場に立ち続けた中西社長。その経験は、顧客との交渉に活きるだけでなく、長時間労働が当たり前だった業界の慣習を変え、社員の人生を尊重する働き方改革へと繋がった。技術力を武器に新たな市場へ、そして自社製品開発へ。新栄製工の次なる挑戦から目が離せない。

中西勇太/1981年、兵庫県生まれ。神戸学院大学を卒業後、2002年に新栄製工株式会社に入社。10年以上にわたり溶接工程を中心に、製造現場のさまざまな工程を経験する。自身の経験から旧来の労働環境に疑問を抱き、2022年4月、代表取締役に就任してからは社員が働きやすい環境づくりを積極的に推進。「感謝と思いやり、誇りと責任」を信条に、会社の新たな未来を切り拓いている。