※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

授乳室やおむつ交換台がある施設を探せる地図アプリ「mamaro GO(ママロ・ゴー)」の運営や、完全個室のベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」の設置などの事業を手がけるTrim株式会社。

2017年に販売が開始された「mamaro」の導入実績は、2025年3月には800台にものぼり、商業施設や駅、観光施設を中心に設置が進んでいる。一体どのようにして同社は誕生したのか、創業の経緯や事業の詳細などを代表取締役の長谷川裕介氏に聞いた。

母の他界をきっかけに医療ベンチャーへ転職し、起業の道へ

ーー起業の経緯を聞かせてください。

長谷川裕介:
特に大きな影響を受けたのが、母を癌で亡くしたことです。僕が28歳のときのことです。このとき、「もう母に親孝行はできないんだ」と強く実感しました。そのときの経験が、お母さんたちを支える現在の事業へとつながっています。

その後、ある医療系ベンチャー企業の社長と出会い、当時勤めていた広告代理店からその会社へ転職することにしました。転職を決めたのは、社長もまた高校生の頃に父を亡くしており「父の死をきっかけに、日本の医療を変えたくて起業した」という話に共感したからです。

同社へ入社後は、「mamaro GO」の前身となる授乳室がある施設を探せるアプリ「Baby map」の運営事業などを担当し、ユーザー数などを順調に増やすことができました。

ただ、事業を手がける中で気になったのが、授乳室の数が全く足りていないことです。当時、90万を超える出生数に対して、授乳室がある施設は1万8000室ほどしかありませんでした。

いくら授乳室の情報を提供しても、そもそも授乳室の数が足りなければ、子育てをする母親たちを救うことはできません。この現実を知り、「まずは授乳室をつくることが必要だ」と感じて、Trimを立ち上げたのです。

利用者と施設の両方が満足するベビーケアルームを導入

ーー事業や会社の特徴について教えてください。

長谷川裕介:
先ほどの「mamaro GO」に加えて、ベビーケアルーム「mamaro」の設置が主な事業です。

授乳室の設置には高額な費用がかかることが多く、また実際に設置されたとしてもお母さん、お父さんたちのニーズを十分に満たす性能や設計になっていないケースも少なくありません。

弊社では、ユーザーのニーズを満たす授乳室を手がけていることに加えて、安価な価格で提供しているなど、施設とお母さん、お父さんたちの両方に貢献できるバランス感覚を意識しています。

創業当時は授乳室の設置に力を入れている施設が非常に少なく、施設側から「授乳室より喫煙所をつくってほしい」と言われることも多々ありました。そうした中でも着実に「mamaro」の数を増やすなど、この市場を切り開いてきた自負が弊社にはあります。

私たちは、今後もこの市場のリーダーであり続けたいと考えています。そしてこれからも、現場の課題を解決するためのプロダクトを積極的に展開していくつもりです。

また、会社としては創業時から「Pay It Forward」というミッションを掲げ、自分が受けた恩を次につなげるという考えを意識し、前に進んできました。

ーーサービスや事業の強みはどういった点にありますか。

長谷川裕介:
「mamaro」の大きな強みは、工事不要で設置でき、設置後に移動もできることです。完全個室でセキュリティサービスも付いているため、施設側は授乳室を監視する人員を配置しなくて良いですし、母親側は安心して利用できます。

また、授乳室の導入による費用対効果を測定している企業は少ないですが、弊社は利用者の数や滞在時間などの顧客データをもとに、お客様へ運営のフィードバックができる点も大きな特徴です。

そのほか「すでに大きな授乳室を持っているけれど、あまり利用されていない」という課題を抱える施設に対しては、その授乳室はテナントに貸し出してもらい、代わりに「mamaro」を使うことで売上アップにつなげてもらうといった提案もしています。

「ローカライズされたベビーケアルーム」で海外展開を目指す

ーー今後のテーマを聞かせてください。

長谷川裕介:
国内に「mamaro」を2万台設置するという目標に加えて、今後は海外展開が大きなテーマになってきます。日本だけでなく、海外にも授乳室の問題で困っているお母さんたちはいますし、世界向けにもプロダクトを展開していきたいです。

実際、すでにアジアやヨーロッパ、中東の企業からも声がかかっており、どの国からスタートさせるべきか検討しているところです。

海外で展開するのであれば「グローバリゼーション」を意識しつつ、その国の宗教や文化、生活習慣に合った形でプロダクトを展開する「ローカライゼーション」が重要です。今後は、国の垣根を越えて、世界中により良い子育て環境を提供できるよう取り組んでいきます。

編集後記

長谷川社長の「母にもっと親孝行すれば良かった」という思いから始まった、Trimのベビーケアルーム設置事業。同氏の思いが込められた事業は、国内で急速に広がり、そしてもうすぐ海外へ飛び出そうとしている。授乳室の設置を通して母親たちの生活をより便利にし、世界の子育て環境を良い方向に変える。使命感にあふれる同社なら、そんな世界を実現してくれる日もきっと近いはずだ。

長谷川裕介/1983年神奈川県生まれ。大手広告代理店に入社し、約10年間クリエイティブ職に従事。2013年に医療系ベンチャーに転職し、新規事業責任者/CIOを務める。2015年11月にTrim株式会社を創業し、代表取締役社長を務める。