
デジタルテクノロジーを活用し、戦略と実行をつなぐ再現性のあるオペレーションモデルを構築する株式会社パワー・インタラクティブ。29年目に突入した今もなお躍進し続ける、その原動力はどこにあるのだろうか。今回は、代表取締役の岡本充智氏から、これまでの経験や独立までの経緯、代表取締役としての考え方や今後の展望まで、幅広く話をうかがった。
マーケティングの世界に足を踏み入れ事業を立ち上げる決断をするまで
ーーなぜマーケティングに関わるようになったのですか。
岡本充智:
私は1978年に大学の理系学部を卒業しました。当時はオイルショックの影響による就職氷河期の真っ只中(ただなか)で、企業は採用活動をほぼ行っていませんでした。そんな中、3社が合併して新社名になったばかりの株式会社アシックスで若干名の1期生の募集があったのです。大学の同期が皆大学院に進学する中、私は「少しでも早く仕事をしたい」と考えて入社を決断し、マーケティング部門に配属されました。
この頃はマーケティングという概念がまだ浸透しておらず、情報も少ない時代でした。そのため、北海道から鹿児島まで奔走し、チームの選手にサンプルを配って意見を聞くことからスタートしました。その経験によって、大会の日程から逆算して準備をする効率的な手順が自然と身につきました。新卒で会社を検討する際には、知名度ではなく「どのような会社で、どのような仕事の進め方をするか」ということが非常に大事だと感じています。
同社では1期生ということもあり、商品開発やブランドのマネジメントなど、かなり自由にチャレンジさせていただきました。新しいことを始めるときに、社内にナレッジ(知識)がほとんどない場合は外に求めた方が良いということも学びましたね。今振り返ってみると、かなり恵まれた20代を過ごしたと思います。
ーーその後、コンサルティング会社に転職した経緯を教えてください。
岡本充智:
アシックスでの勤務の後半は、海外での業務が多かったのです。私は、そこで出会った米国の若者達の生き様に強く刺激を受けました。優秀な人材がスタートアップ企業に入って自由に未来を切り拓いていく米国の文化が自分のフィーリングにピッタリと合ったのです。
また、父が比較的若くして亡くなったことで人生の短さを感じ、日々を大切に生きようと考えるようになりました。そのうちに、業務を広げるだけでは満足できなくなり、一度自分をリセットしました。そこで、「コンサルティング会社に転職すれば、さまざまな事業の人に会えるのではないか」と考えるに至り、転職を決断したのです。
ーー事業を立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。
岡本充智:
1995年にインターネットが普及し、1996年8月には公益社団法人関西ニュービジネス協議会が主催するシリコンバレーでのミッションに参加する機会に恵まれました。在サンフランシスコ日本国総領事館が主催する米国ベンチャーとのパワーランチなどの企画もあり、私にとって非常に貴重な体験となりました。その時出会った人とは今も交流が続いています。
帰国後、「新しいフィールドをつくって、可能性を伸ばせる場をつくりたい」という強い思いから、子どもの保険まで解約して資金をかき集め、1997年2月にITとマーケティングを融合したパワー・インタラクティブを立ち上げたのです。
社員の成長を第一に自由と自律を促す革新的ビジョン

ーー社長が持つビジョンについてお聞かせください。
岡本充智:
起業当初から社員の成長が私にとってのキーワードでした。社員が自分から行動して、スキルを身につける必要はありますが、学校のクラスコミュニティのように、難しい課題に取り組む仲間を見ているうちに影響を受けて自然と互いを高め合える──そんなコミュニティが会社の中にあることが理想だと思いました。
同社では、キャリアの節目で社員が新たな挑戦に踏み出すことを前向きに応援し、卒業後もゆるやかなネットワークを通じて共創の機会を歓迎しています。
――「意志があれば成長できる」というバックボーンをつくるということですね。
岡本充智:
弊社では、基礎的なオンボーディング以外は“手取り足取り”の指導は行いません。社内ナレッジベースには、過去案件の設計書やマーケティング施策がインデックス付きで格納されており、メンバーはそこからヒントを得ながら自ら課題を解決します。入社からおよそ3か月で自分の得意領域が見えてくるので、その後は裁量を持ってプロジェクトをリードしてもらいます。自分で調べ、試し、学び直すサイクルこそが「自立性」と「自律性」を育み、変化の大きいDX時代に通用する力になると考えているからです。現在はリモートとオフィスを組み合わせたハイブリッド体制ですが、権限移譲の考え方は不変です。場所を問わず成果を出すために、データ分析基盤やドキュメント管理、AIツール等を活用してナレッジ共有を加速しています。
弊社にはヒエラルキーもありません。新入社員には課題を提出してもらい、私がコメントを返しています。ボストンコンサルティンググループで日本代表を務めた内田和成さんの「論点思考」という本を紹介し、物事をロジックで捉える重要性を理解してもらっています。ロジックができても論点を見誤るとうまくいかないことも知っておく必要がありますね。
さらに「パワーWAY」と称する3つの行動指針、「真摯な態度で挑む」「何事も共有する」「仕事に喜びを見出す」を掲げています。リモートワークや生成AI活用が当たり前になった今でも、このシンプルな原則は社員の“判断軸”として機能しています。Chatや社内wiki等のコラボレーション基盤で知見をオープンに共有し、AIツールで生まれた余力を学習や新企画に充てる──そんな日常の振る舞いこそが指針の体現です。自社のミッションと重ね合わせて仕事の意義を再確認することで、チーム全体が主体的に動き、変化の速いDX環境でも創造的な挑戦が自然に生まれると思っています。
データ時代を切り拓く人材戦略と未来展望
ーー今後、どのような会社と仕事をしていきたいですか?
岡本充智:
グローバル化が進み、世界的にマーケティングの重要度が高まっています。私たちは、マーケティングを経営の中心に据え、人材やテクノロジーへの投資をいとわない企業と肩を並べて歩みたいと考えています。データと顧客理解に基づいて意思決定を行い、新しいテクノロジー、たとえばAIなどを適切に取り入れながら、お互いに成長できる関係を築ける企業が理想です。
ーーマーケティングのコンサルティング業界ではどのような人材を必要としていると思われますか?
岡本充智:
これからの時代は、データに対する素朴な好奇心と論理的な思考力を兼ね備えた人材が欠かせません。大量のマーケティングデータを整理・分析し、その示唆を営業戦略や施策に結び付けて語れるアナリストやコンサルタントの需要は一段と高まるでしょう。AIや統計ツールは活用の幅を広げるための手段として歓迎されますが、最終的にはクライアントと柔軟に対話し、データの裏側にあるストーリーを描ける人こそが真価を発揮できると感じています。
編集後記
人材こそが全てと語る岡本社長。その眼差しの奥にはシリコンバレーで見た、未来を自由に切り拓く米国の若者たちの姿があった。会社で培った武器を手に羽ばたいていった社員たちとともに楽しさも苦しさも一緒に経験し語り合いたいと話す。今後、同社での経験を糧にさまざまな分野で活躍する社員たちの未来にも期待したい。

岡本充智/1956年、奈良県生まれ。京都⼯芸繊維⼤学繊維学部卒業後、株式会社アシックスに⼊社。アスレチック部⾨の商品開発・販売促進を担当。新規ブランドを⽴ち上げ、ブランドマネジャーを歴任。その後、住友ビジネスコンサルティング株式会社(現株式会社日本総合研究所)に転じ、マーケティング分野のコンサルタントとして戦略デザインの構築・実⾏⽀援に数多くの成果を上げる。1997年、株式会社パワー・インタラクティブ設⽴。代表取締役に就任。