
「全国、全ての中小企業を黒字にする」をビジョンに掲げ、AI技術で経営支援を行う株式会社ライトアップ。リーマンショックなどの社会的な危機さえも好機に変え、成長を続けてきた。そんな同社を率いるのは、株式会社サイバーエージェントのコンテンツ部門責任者から、周囲の後押しを受けて独立した代表取締役社長、白石崇氏だ。「人に依存しない経営モデル」をAIで確立した同氏に、その軌跡と描く未来について話を聞いた。
周囲に後押しされ、サイバーエージェントから独立
ーーどのような経緯でライトアップを創業されたのですか?
白石崇:
もともと、起業願望が強くあったわけではありません。私はサイバーエージェントでコンテンツ部門の立ち上げ責任者を務めていましたが、会社の方針転換があり、事業を続けられなくなってしまったのです。当時の部下たちから「起業しないんですか」と1カ月ほど毎日言われ続けまして、最後は「ついて行きますから」と背中を押されて創業を決意しました。
当時、そのコンテンツ部門の事業自体はなかなか軌道に乗らなかったのですが、サイバーエージェントを円満に退社したため、独立後も同社からお仕事をいただいていました。おかげで最低限の売上は確保できており、事業が潰れることはないという安心感があったのです。このことには今でも非常に感謝しています。
ーー社会的な危機を乗り越えてこられたそうですね。
白石崇:
通常は危機的状況に陥ると会社の利益は下がるものです。しかし、弊社はリーマンショックや震災、コロナ禍など、時代が大きく変化するたびに過去最高益を更新してきました。たとえばリーマンショックの際は、受託ビジネスが大きな打撃を受けました。そこで、顧客に言われてから商材をつくるのではなく、つくってから売るという発想に転換し、クラウドサービスの開発・提供へ本格的に展開したのです。
ーーAIの活用でどのような変化がありましたか?
白石崇:
この1年で、人に依存しないビジネスモデルへと大きく変化しました。AIの活用により、社員数を変えることなく売上高は1.5倍、利益は2.5倍に増加しています。2022年末にChatGPTが登場したとき「今度こそ、企業にとって必要不可欠となるサービスを立ち上げられる」と確信しましたね。AI関連のサービスを次々と投入し、今では受注の7割がAI関連になっています。
「全国、全ての中小企業を黒字に」企画力と機動力から生まれるAI

ーー全ての中小企業を黒字にするというビジョンについてお聞かせください。
白石崇:
頑張っているにもかかわらず、日本の中小企業の約7割が赤字だといわれています。困っている人を助けたいという思いから、ITやAIの力で業務を自動化し、もっと楽に経営できる状況をつくりたい。全企業が黒字になれば、日本の国力はさらに大きく成長し、多くの社会問題が解決できると考えています。
ーーなぜ他社にはないAIサービスを次々と生み出せるのですか?
白石崇:
企画力と機動力、そして小規模でニッチな点を掛け合わせているからです。赤字の中小企業は高価なサービスは購入できません。そのため、比較的単機能で安価なサービスを数多くつくって提供しています。5名から10名ほどのユニットを多数つくる組織体制で、時代の変化の波にいち早く乗ることができています。
現在、弊社には100個近いサービスがあります。たとえば「毎朝9時に出勤し、上司の指示書を見て500社のリストをつくり、営業メールを送って1時間で業務を終えるAI」や「要望に応じて大学生を集めて一次面接を行い、有望な学生を二次面接に進ませるAI」などです。これらで、企業にとって重要な営業や採用、育成の自動化を目指します。
AIが経営する未来で見いだす新たな価値
ーー数年後、どのような会社を目指していますか?
白石崇:
正直なところ、2026年の末までしか予想できていません。そこまではAIと人間のハイブリッドで業務を分担して進めると思います。しかし、その後はAIが会社経営の全てを担う時代が来るでしょう。2027年1月からは、AGI(汎用人工知能:人間の知能を再現するAI)も登場するため、その先の世の中がどうなるか、もはや想像がつかないのが本音です。
AIは包丁のように、使い方次第で世の中が良くも悪くもなります。だからこそ「できるだけ良いAIの使い方」を定義して、世の中にスピーディーに広めていく。それが弊社の存在価値だと考えています。今後もAIを駆使して企業の利益を創出し、働く社員がゆとりを持てる社会の実現に貢献します。
ーー変化の激しい時代に、どのような人材を求めていますか?
白石崇:
今の時代に唯一求められるのは学ぶ意欲、ラーナビリティ(学び続ける力)だと考えています。毎日新しいサービスが生まれるため、それを学ぶ習慣がある人でなければついていけません。時代の最先端に身を置いてみたいという意欲のある方に、経験を問わず、ぜひ来ていただきたいですね。
編集後記
「2026年の末までしか予想できない」という言葉に、変化の激しさに対する白石社長の率直な認識が表れている。多くの企業がAIの進化に漠然とした不安を抱く中、同社はそれを「中小企業を黒字にする」ための具体的な力に変え、前進し続ける。「人に依存しない経営モデル」をAIで確立し、次の時代における「良いAIの使い方」を定義しようとする同社の挑戦は、未来の働き方を考える上で大きな示唆を与えてくれるだろう。

白石崇/茨城県出身。筑波大学卒業後、NTTに入社。その後、サイバーエージェントにて同社初のコンテンツ部門を立ち上げる。同部署メンバーと2002年に株式会社ライトアップを創業。企業のメールマーケティングの企画制作からメディア運営、ITツールの開発提供などを実施する。2018年6月東証グロース市場に新規上場。「全国、全ての中小企業を黒字にする」をビジョンに掲げ、現在は、AIエージェントパッケージやAI SaaSサービスを開発・提供している。