※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

1896年の創業以来、約130年にわたり看板工事業を営んできた株式会社金星堂。手書きの看板と佃煮の販売から始まった同社は、現在日本各地に営業所を展開し、アメリカでも看板工事を推進している。看板の企画から設計・施工・管理までを一貫して提供する体制を強みとしながら、DX推進などの新たな挑戦にも積極的に取り組んでいる。

今回、代表取締役社長の小笠原貴行氏に、事業の強みや社員が働く環境の改善、今後の事業展開について話をうかがった。

経営者研修会で芽生えた経営者としての自覚

ーー小笠原社長の経歴を教えてください。

小笠原貴行:
弊社は曽祖父が1896年に創業した会社です。私は大学在学中から看板の制作や取り付けなど家業を手伝っていたため、自然とこの業界には親しみがありました。卒業後は家業を継ぐ前に修業として岐阜の建築会社に約5〜6年勤務し、営業と現場管理を経験。飛び込み営業を通じて行動力を磨き、建築に関する知識も習得しました。

金星堂に入社してからは営業課長、専務を経て代表取締役社長に就任しました。実を言うと、社長になることに強いこだわりはありませんでした。しかし、入社当初に参加した経営者研修会で、他の経営者たちに憧れや尊敬の念を抱くようになりました。その経験から自然と「自分がリーダーになるのだ」という意識に切り替わり、今の自分を形づくっています。

幅広いサービスをワンストップで提供し、大手企業と豊富な取引実績を持つ

ーー貴社の事業内容を教えてください。

小笠原貴行:
弊社は1896年創業の老舗看板会社で、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡に営業所、三重県桑名に工場を構えています。看板の企画、設計、施工、管理までをワンストップで提供しており、工場では鉄骨加工から印刷、板金まで一貫対応が可能です。

行政申請の代行や安全点検にも自社で対応しています。近年はアメリカに子会社を設立したほか、分譲住宅の販売も手掛けています。

ーー貴社の強みついて、どのようにお考えですか。

小笠原貴行:
弊社の強みは、自社で営業所と工場を保有し、お客様一人ひとりに細やかな対応ができる点にあります。全国展開中の大手流通、家電量販店、飲食店、ゼネコンなど、多くのお客様との取引実績も豊富です。

ーー現在注力している取り組みについて教えてください。

小笠原貴行:
「人と街に愛されるランドマークを創造する」というビジョンを掲げ、今後3〜5年でさまざまな変革に取り組んでいきます。

たとえば、DX推進も重要な戦略の一つです。具体的には、営業がタブレットを使い、AIが顧客の要望に応じた看板デザインを提案するシステムの導入を検討しています。加えて、複数のシステム導入も構想中です。たとえば、社内規定や商品情報をAIで検索できるナレッジベースの構築や、看板の安全点検や行政申請を顧客も確認できる管理システムの導入を考えています。さらには、プロジェクト別の実績と社員の行動をトータルに把握できる管理会計システムを構築。「行動したけれど実績に結びつかなかった」という場合でも適正に評価できる体制を整えるつもりです。

また、社員の声を吸い上げて経営に反映するよう意識しており、面談や会議を通じた社内のコミュニケーションも重視しています。

計画:行動:成果=1:4:5の比率で評価

ーー社員のためにどのような環境を整えていますか。

小笠原貴行:
社員が「楽しい」と感じられる職場であることが非常に大切だと考えています。そこで目標達成のプロセス自体も楽しめるよう、仕事の仕組みを見直しています。その一環として「社内間取引システム」を導入しました。営業担当が事務作業を経理に依頼し、その対価を支払うことで、各自が本来の業務に集中できるようにするためです。これは単なる作業の分担ではなく、各業務に対する「投資」として捉えています。

また、評価制度も改善しました。従来の評価制度には、「挨拶できる・できない」といった基本的な行動に対する評価が含まれていました。しかし挨拶はできて当たり前です。評価において大切な点は計画や目標の有無、それに対する行動、そして成果です。従来の制度ではこれらが十分に見えていなかったので、現在は「計画(1割)・行動(4割)・成果(5割)」の比率で評価しています。目標に向けた努力は必ず評価するようにし、社員が挑戦しやすい環境を整えています。

お客さまに選ばれるための「看板屋プラスアルファ」

ーー最後に、金星堂が描く今後の成長戦略についてお聞かせください。

小笠原貴行:
先述したビジョン「人と街に愛されるランドマーク」の実現に向けて「看板屋プラスアルファ」という取り組みを推進します。

これは、一人ひとりがさらに専門性を高めることにつながります。たとえば、現在行っている溶接作業に加え、薄い材料や厚い材料の難しい溶接にも対応できるようにします。また、既存のお客さまだけでなく、新規のお客さまを獲得し、関係を深めていくといった顧客接点の強化も含まれます。

こうした取り組みを通じて、お客さまに選ばれるための「価格、品質、納期、安心、安全」の5条件をブラッシュアップします。そして、お客さまの満足度を上げることで、未来に向けて「人と街に愛されるランドマーク」を次々に生み出せる企業を目指していきます。

編集後記

小笠原社長の話からは、ものづくりへの誠実な姿勢と、社員を尊重する柔軟な経営スタンスが強く伝わってきた。「楽しく働ける職場」や「挑戦を評価する制度」といった取り組みは、これからの企業に必要不可欠な要素である。伝統ある看板業やAIによるデザインの提案などさまざまな構想を掛け合わせる同社の今後が非常に楽しみである。

小笠原貴行/1972年生まれ。桐蔭横浜大学を卒業後、建築会社で営業と現場管理を経験し、株式会社金星堂に入社。営業課長、専務を経て代表取締役に就任。DXや人材育成を柱に事業の多角化を進め、「人と街に愛されるランドマークを創造する」を掲げた企業経営を実践している。