
1984年に設立されたサンノート株式会社。ノートなどの紙製品をはじめ、文具や事務用品の企画・製造・販売を一貫して手がけるメーカーだ。企業の特徴ともいえる主要な販売ルートは、大手100円ショップを展開する複数の小売企業。代表取締役社長の野口智史氏に、入社後の取り組みや人材の育成方針、今後の展望をうかがった。
父が経営するサンノートで海外勤務と組織づくりを経験
ーー入社の経緯やキャリアについてお話しいただけますか。
野口智史:
大学時代に、剣道の代表選手としてフィンランドへ行って以来、海外での活動を夢見るようになりました。サンノートは父の経営する会社であり、海外拠点で働ける可能性があったため、入社を志望しました。
入社前に修業として、中国で2年間無給で働きました。日本から月5万円の仕送りと現地での成果報酬でやりくりする生活でしたが、自ら望んだチャンスを掴めた喜びが大きく、中国語も身につきました。
私が滞在した2010年前後の中国は、高度成長期でもありました。どの企業も勢いがあり、生活レベルの上昇スピードも未知の体験で、2011年に帰国した時は日本人の活力のなさに驚いたものです。働ける幸せの噛み締め方や仕事への向き合い方、すべてが違ったと言えます。
ーー入社後の取り組みもうかがえますか?
野口智史:
時代に合った組織づくりとして、付き合い残業が発生するような働き方を廃止し、それまで社員が複数業務を兼任していた体制から営業・企画・デザイン・物流などの専門部署を新設して役割を明確化し、評価システムも一新しました。社内で意見が衝突した時は、問題の核心を捉え、互いが真っ先にメリットを感じられる意見交換や提案を通して、お互いの声を聞ける信頼関係の構築に努めました。
メモ書きの記号化やトランシーバーの導入で出荷作業を効率化するなど、さまざまな実績をグループや役員陣に認められたからこそ、社長業を任されたと自負しています。単に経営者の息子というだけでは社長になれない組織体制の中で、実力を評価していただけたと考えています。
若手が活躍できる環境で100円ショップ向け文具をスピード開発

ーー事業内容や貴社の強みを教えてください。
野口智史:
ノートやメモ帳、事務用品、折り紙などの紙製品をはじめ、文具を中心にさまざまな製品を開発・販売しています。主な卸先は、全国に展開する大手100円ショップや専門商社です。
100円台の身近なアイテムということで、メイン商材がダイレクトに消費者の手に届く点が当社の大きな魅力です。自分が開発した製品がお店に並んでいたり、隣に座った人が使っていたり、うれしいシーンに遭遇する確率が高く、BtoCにとても近いBtoB事業といえます。
数が出る代わりに、入れ替わりも激しいのが100円ショップ向けの製品です。年間で約130品目の採用がマストなので、最低でも400件ほど新製品を提案しなければいけません。
このスピード感を実現できる開発体制は、当社の大きな強みです。企画・開発と営業担当の一体化によって、営業先での反応をすぐに製品開発に反映しています。
ーー独自の社風や取り組みもあるのでしょうか?
野口智史:
当社では月に1回、「次世代会議」と「リーダー会議」を開催しています。次世代会議は30歳以下のメンバーを中心とした、財務関係の書類を読み、経営状況について議論する場であり、若手や幹部クラスの育成に役立っていますね。
私のもとに届く改善案は、積極的に社内改革に活かしており、年間でいうと無視できないコストを要していた段ボールを再利用する取り組みは、まさに次世代会議から生まれたアイディアで、物流部門の大幅なコスト削減を実現しました。リーダー会議では、より専門的かつ高次元な視点で経営方針を語り合います。私と社員が対話する研修の役割もありますね。
いずれの会議にも年齢制限はなく、社長室には誰がいつ来ても問題ありません。自分の思いを言語化できることが提案の第一条件とし、何事にもチャレンジできる環境を整えています。
ーー若手の育成に注力する理由もうかがえますか。
野口智史:
若手とベテランの最大の違いは、チャンスの差だと思っています。一般的に立場が上になるほど経験できることが増えますが、本当にチャンスが必要なのは若い世代ではないでしょうか。早いうちから重要な議論に参加できれば、年を重ねた頃には高い応用力を発揮できるはずです。
私自身が経営者の息子という立場を活用し、いろいろな機会を得てきた経験も大きいと言えます。世間から見ると若いとされる代表として、どう動くべきかを常に意識しているので、自分を成長させた「チャンスの多さ」を社員にも還元したいのです。
メーカー機能の底上げと自社ブランディングで会社を次のステージへ
ーー今後の展望をお聞かせください。
野口智史:
当社は、2019年に生活家電や日用雑貨を扱う電響社グループ(現:デンキョーグループ)に加わりました。その中で、サンノートは2030年までに売上高100億円を達成するという目標を掲げています。
サンノート単体で、生涯をかけて挑むつもりだった大きな目標が、グループ入り後は2030年までの達成目標へと変わり、当社は確実にステージアップしました。その一方で、主力商材である文具は、少子化や事務用品の個人購買化が進む中でマーケット拡大の限界を感じています。
今後の課題は、メーカー機能の強化によって100円製品への依存度を下げ、経営リスクを分散することです。グループの力も活用し、自社ブランドなど新しい軸をつくることで、コストの都合で日の目を見なかったアイデアも形にできると考えています。
私が現在30代であるため、会社を変えていく時間はたっぷりとあります。人材育成に関しても、20代以上の社員も幹部候補と捉えて、今から育てていくことで、末広がりに発展したいところです。
編集後記
デンキョーグループの一員となったことで、家庭用品・衛生用品を製造するなど、モノづくりの幅が広がったサンノート。そこに高価格帯を意識した自社ブランドが加われば、多様なニーズに応える商材と盤石な販売ルートを持つ、無敵のメーカーになるだろう。社長と若手人材が同じ目線に立てる特殊な職場環境も、会社の可能性を大いに広げている。

野口智史/1986年生まれ。大阪教育大学を卒業。2009年より2年間、中国企業にて修業。製造ラインや中国語を学んだのち、2011年にサンノート株式会社へ入社。製品開発(企画・営業)や社内改革に注力。2022年、代表取締役社長に就任。