
キッチン家電から健康家電、理美容家電など、幅広いメーカーの家電製品・日用雑貨を小売店に卸している株式会社電響社。全国展開している家電量販店やホームセンターなども顧客に持つため、知らず知らずのうちに同社が関わった製品を見ている方も多いはずだ。
同社の代表取締役社長を務める山下俊治氏は、1979年に入社した大ベテランだ。目の前の仕事に正直に向き合うことをモットーに、長年の積み重ねを武器に2024年から組織をけん引している。同社はこれからどのような道を歩もうとしているのか、その展望を山下社長に聞いた。
入社から45年目に社長に就任。コツコツ積み重ねてきた社長の心構えとは
ーー山下社長の経歴をお聞かせください。
山下俊治:
私が電響社に入社したのは1979年のことです。最初は横浜の事業所に営業として配属され、長年営業を担当しました。当時は景気が良く、毎年のように売上が伸びる状況で、前年の自分の数字を超えられることに喜びや成長を感じていたことをよく覚えています。
その後も営業を続けましたが、50歳を迎えたタイミングで名古屋へ異動になり、その後も福岡や大阪などへ異動を繰り返しながらキャリアを重ねました。この経験は、地域ごとの市場の特徴や主要な取引先を学ぶ良い経験だったと思っています。おかげで、今でも全国の取引先を具体的にイメージできます。
社長に就任したのは2024年のことです。正直、昔は自分が社長になるとは思ってもいませんでした。私がここまでキャリアを積めたのは、成長を意識しながら仕事を続けてきた結果なのかもしれません。
ーー社長という役職に対して、どのような心構えを持っていますか?
山下俊治:
社長に指名されたときに強く感じた責任の重さをずっと大切にしています。社長とは、それまで務めてきた営業所や支店長などとは責任のレベルが違い、社員たちの生活も考えなければなりません。就任当時は、本当に自分で大丈夫なのかと不安になったこともありました。
この不安に打ち勝つために取り組んだのが「真摯に仕事に向き合う」という、自分の強みを活かすことでした。改めて自分の歩みを振り返ったところ、これまで重ねてきた実績こそが自分なりに組織を引っ張っていくカギだと感じたのです。
今では日々の仕事の中で問題を解決し、会社を前に進めていくことにやりがいを感じるようになりました。調子が良いときだけではなく、問題が起きたときも正面から向き合い、現実から目を背けずに積み重ね続ければ、結果として会社は成長していくはずです。
幅広いメーカーの製品を取り扱う家電商社が踏み出した次の一歩

ーー貴社の事業内容と独自の強みを教えてください。
山下俊治:
弊社の主な事業は、全国の家電量販店やホームセンター、ディスカウントストアなど大手小売業を対象とした、家電製品の販売事業です。取り扱っているメーカーの数は約200社にも及び、その圧倒的なラインナップが大きな強みです。
ただ、販売だけでは価格競争に巻き込まれて、利益率を確保できなくなる恐れがあります。そのため、数年前からメーカーとして、自社企画製品の開発・販売も行っています。
会社に価値を蓄積させ、新たな姿に成長させるための道筋を描く
ーー会社を成長させる上で、今後取り組みたいことは何ですか?
山下俊治:
これは、私が社長に就任して以来ずっと伝え続けていることですが、「仕事を最後までやり切る」文化をしっかり根付かせることが大切だと思っています。
仕事を中途半端に終えても、自分の成長にも会社の発展にもつながりません。社員一人ひとりが、結果の良し悪しに関係なく最後まで仕事に責任を持ち、本当の成長ができる組織にしていきたいです。
電響社はかつてグループの親会社としてのポジションでしたが、今では事業会社の一つとなり、稼ぐ力を求められる存在になりました。だからこそ、先輩方が築き上げた財産や信頼に甘えることなく、自らの力でグループをけん引していける存在へと成長する必要があるのです。
ーー注力テーマや長期的な将来像をお聞かせください。
山下俊治:
特に力を入れたいのが、全国規模での販売を可能にする新たなチャネルの開拓です。現在取り組んでいるのがテレビ通販で、実店舗だけでは実現できない全国への影響力を活用して、幅広い層にリーチしていければと考えています。
また、新たな事業分野として美容業界向けの商材提供への挑戦も検討しています。美容室で使われる材料や機器のディーラーと提携し、従来の家電市場とは異なる流通経路を開拓していきます。
そして、これからの弊社の成長戦略の柱になるのが、メーカー機能の強化です。現在、カセットテープや乾電池などを扱っていたマクセルブランドのコンシューマ向け国内販売の事業に力を入れており、ここをオリジナル製品開発の起点にしたいと考えています。いずれは美容業界向けの製品開発にも取り組んでいければと思っています。
ただ、同ブランドは35歳以下の世代になじみが薄いので、ここの層に積極的にアプローチしていくことが今後の課題になりそうです。
そのためには営業力の強化が不可欠であり、営業部門の再編成や人材の強化、幹部候補の育成などが必要です。2030年のグループ全体売上1,000億円を目標に、弊社だけでその50%を担う覚悟で、引き続き事業の成長に真摯に向き合っていく所存です。
編集後記
電響社はマクセルというかつて誰もが知る存在だったブランドを起点に、メーカーへの道を歩み始めている。美容業界への参入も見込んでいる姿勢はとても挑戦的だ。この挑戦が同社の歴史を変える分岐点になるのではないだろうか。山下社長が今後どのような道を描いていくのか、今後の動向に注目したい。

山下俊治/宮城県仙台市出身。1979年、電響社(現:デンキョーグループホールディングス)に入社。当時の横浜営業所を皮切りに、関東・名古屋・九州・関西・北日本・鹿児島と、全国の営業・物流拠点を経験。常務取締役営業本部長を経て、2024年に代表取締役社長に就任。