※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

特殊印刷技術を核に、試作品製作から撮影事業、独自開発の膜厚管理装置まで、「彩り」のプロとして貢献する株式会社SANYO-CYP。2014年に代表取締役社長に就任した山村健司氏は入社後、職業性胆管がん問題という危機を社員と共に乗り越え、『この会社で働いてよかった』というパーパスを掲げた。健康経営や「GIFT」の精神を重んじる同氏に、その歩みと事業、未来への展望を聞いた。

苦難を乗り越え、社長就任へ

ーー社長のこれまでの経歴をお聞かせください。

山村健司:
大学卒業後、株式会社大塚商会に入社しました。大阪での生活は充実していましたが、父が創業したSANYO-CYPの東京進出時に声がかかり、業績が芳しくないこともあり、2002年に家業に入ることを決意しました。

入社と同時に新サービスを立ち上げ、勤務しながら2012年にグロービス経営大学院に入学し、2014年に卒業しました。ちょうど2012年から、印刷工場の洗浄剤が原因とされる職業性胆管がんの発症者が相次ぎ、そのマスコミ対応や発症された方々への対応などに奔走しました。

連日マスコミに囲まれ、情報が錯綜しました。社員には正直に状況を伝えましたが、8割が会社に残り、「何とか乗り切りましょう」と手紙をくれた社員もいました。彼らの支えには本当に感謝しています。問題が一段落した2014年秋、父の退任に伴い社長に就任しました。

「三方よし」を実現する企業文化

ーー社長就任後、どのような思いで経営にあたっていますか。

山村健司:
残ってくれた社員のため、『この会社で働いてよかった』、というパーパスを掲げました。これは永遠に追い続ける目標です。

職業性胆管がん問題を機に、経営理念と行動規範を刷新しました。全社員の言葉を繋ぎ合わせ経営理念「わたしたちは彩りのプロフェッショナル集団として豊かな生活を創造します」を策定。行動規範は「GIFT(ギフト)」とし、仕事も製品もプレゼントを贈るように接すれば、皆が「三方よし」になれると考えています。

そのように、社員が働きやすい環境づくりを進めた結果、「健康経営優良法人(中小規模法人部門)ブライト500」に4年連続で認定されました。治療と仕事の両立支援にも力を入れ、職場復帰率はほぼ100%です。

「彩り」を追求する事業展開

ーー現在の主力事業について教えてください。

山村健司:
復帰当初、業績は芳しくありませんでしたが、当時珍しかった「紫外線硬化型インキ」の営業が大手との取引拡大に繋がり、業績が回復しました。現在、化粧品やお土産物の箱、POPなどの「試作」が本業の一つです。

商品撮影の依頼増を受け、撮影事業も本格化しました。量産前段階の「試作」と「撮影」が現在の主力です。多くの製品試作に関わっています。

ーー独自開発の装置もあると伺いました。

山村健司:
「膜厚管理装置」です。大手メーカーのテレビ部品加飾印刷開発時、透明インキの膜厚を数値管理する必要から大阪府立大学と共同開発しました。この装置で全世界向けパネル生産を一手に担い、後に外販も開始。昨年は行政機関にも導入されました。

未来を彩る新たな挑戦と求める人物像

ーー今後の事業展望をお聞かせください。

山村健司:
「彩り」に関わる新サービスを展開していきます。ネット通販では、見本画像の色が実物と異なってしまうという課題を解決するため、ファッション業界企業と共同で「True Coler」を設立し、特許技術を開発。印刷業界向け遠隔色校正サービスも開始しました。

また、採用担当の経験を活かした採用支援コンサルティングも開始し、これも新たな柱に育てたいです。拠点も、名古屋支社に続き、今年12月には大阪本社の新社屋が完成予定です。社員が快適に働ける環境を整備し、事業規模も拡大していきます。

ーーどのような人材を求めていますか。

山村健司:
弊社では、「仕事に強い興味関心を持ち、主体的に行動し、周りを巻き込める方。そして既存の考え方に囚われず、新しいことに挑戦する柔軟性のある方」を求めています。経験以上にマインドが重要です。最終面接では弊社のパーパスに心から賛同してくれるかを重視しています。

絶望を乗り越えた希望の光

ーー最後に、特に伝えたいメッセージはありますか。

山村健司:
弊社は職業性胆管がん問題の発端となり、多くの方にご迷惑をおかけしました。その中で、胆管がんを再発し絶望的な状況になった患者に対し、「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」が劇的な効果を示し、寛解するという奇跡が起こりました。

この治療法がきっかけで、製薬会社様のご厚意により、職業性胆管がん患者さんへのオプジーボ治験提供が実現し、多くの方が救われています。この記事を通じて、今も病と闘う方々やご家族に、新しい治療の選択肢があるという希望が届けばと願っています。

編集後記

創業家へのUターン、そして職業性胆管がん問題という逆境。山村社長の歩みは平坦ではなかったが、その中で「この会社で働いてよかった」というパーパスと「GIFT」の精神を見出した。印刷の枠を超え「彩り」を軸に多角的な事業を展開し、常に挑戦を続ける姿は理念を体現している。そして、困難な病に対する希望の光となったエピソードは、私たちに勇気を与える。株式会社SANYO-CYPのさらなる飛躍に注目したい。

山村健司/大学卒業後、株式会社大塚商会へ新卒入社。2002年、父親が経営する株式会社SANYO-CYPに入社。勤務の傍らグロービス経営大学院で学び、2014年にMBAを取得。同年、株式会社SANYO-CYPの代表取締役社長に就任。職業性胆管がん問題という困難を乗り越え、社員が定年退職時に「この会社で働いてよかった」と思える会社づくりを目指し、「パーパス」経営と健康経営を推進。