
1934年に金物を中心とした家庭用品を扱う卸売りで創業した梶原産業株式会社。現在は100社を超えるメーカーと取引を行い信頼関係を築くなど、日用雑貨の商材を一手に扱う専門商社として成長を遂げてきた。
2009年には生活家電販売の株式会社電響社(現:株式会社デンキョーグループホールディングス)の傘下に入り、デンキョーグループの一員として市場のめまぐるしい変化に対応する。2024年に代表取締役社長に就任した中沢義博氏に、入社までの経緯や、営業活動における信念、会社の目指す未来像についてうかがった。
身近に起こったМ&Aに大きなショックを受けた
ーー貴社に入社した経緯を教えてください。
中沢義博:
私が入社した1995年はバブル経済が崩壊した直後で、ちょうど就職氷河期に突入した頃でした。就職が大変な中、採用面接では、とても親切にしていただき「これはなにかあるな」と縁を感じてこの会社に入社することに決めました。
ーー実際に入社してどのような印象を持ちましたか?
中沢義博:
入社後、最初にチラシに担当製品が載った時は嬉しかったですね。20代の頃は、相手が求めていることを探し、小売店に提案した製品が採用され、納品・陳列され売れていく喜びは格別でした。
また新店オープンセールの応援に、店舗へはっぴを着て参加したことも印象深いです。今はデータ分析で製品の売れ行きが瞬時に分かりますが、目の前でお客様が直接購入される姿を見る喜びには代えられません。
ーー苦労した経験もお聞かせください。
中沢義博:
私が京都で営業していた2000年頃は、М&Aが流行り始めた頃です。そんなある日、地元で有名な取引先のホームセンターが関東エリアで事業を展開してきたホームセンターに買収されることになりました。テレビなどマスコミで見聞きしていたМ&Aが自分の身近で起こったことに驚きましたし、大事な取引先を失った喪失感は非常に大きかったですね。
そして2009年、私が30代の頃に起こったM&Aは、なんと自分が勤める会社が買収される側だったのです。長い間同族経営を続けてきた会社でそういうことは起こらないだろうと思っていたので、「まさか自分の会社が…」とショックを受けたものです。
もちろん現在では、デンキョーグループの一員として家電製品と日用品の両方を扱える強みを生かし、お客様により幅広い提案ができるのは本当に有益なことだと思います。
消費者ニーズをもとにモノだけでなくストーリーを提供する
ーー営業活動で大切にしていることを教えてください。
中沢義博:
単に物品を納めるのではなく、生活シーンを変えるような提案をすることこそが私たちの存在価値だと思います。お客様も十人十色で、同じ製品でも求めていることが違います。パズルを1個ずつはめるようにその人の1ピースを探ることが重要なのです。
言い換えれば、製品の背景にある使用シーンや価値をストーリーとして伝える情報提供や提案を行うことで、消費者ニーズに応えることを目指しています。
ーー自社企画の製品開発も行っているとお聞きしました。
中沢義博:
あくまで小売企業への販売事業が主力ですが、ニーズを追求していく中で、仕入れメーカーにない製品については自社での企画販売を行っています。昨年発売した「ホットプレートの焦げ付き防止シート」は、ホットプレートの片づけの手間を省くことで少しの「便利」を提供するために生まれました。
時代の流れで必要とされるニッチな需要に応えるために、今後ともメーカー的な機能を高めることを視野に入れています。
元気な長寿企業を達成するために人材の意識改革を図る

ーー営業の体制強化についておうかがいします。
中沢義博:
現状、営業研修や教育の機会を設けるなど、人材の強化に取り組んでいます。それに加えて、もっと根本的な部分で意識の改革が必要でしょう。会社であっても極端な話、家計簿と同じようにシンプルな採算意識を持つべきだと呼びかけています。
たとえば1つの取引で赤字が2%あれば、このマイナスをどう対処するかが大事です。得意先に少し値上げして納めるのか、メーカーさんのご協力で下げてもらうのか、物流コストを見直すのかなど、さまざまな選択肢があります。
営業スタッフには数字と向き合い自分の損益をコントロールできるよう、実用的な社内教育に取り組んでいます。
ーー組織を運営するうえで社員に求めることはなんでしょうか。
中沢義博:
他の部署に興味と関心を持つことを求めています。弊社は中小企業ですから大企業のように部署で仕事がはっきり分かれているわけではありません。
別の仕事をしていても同じ企画やプロジェクトに参加しています。ですから隣の部署が困っていればサポートする姿勢が、スムーズな会社運営に必要だと考えています。
ーー今後の目標をお聞かせください。
中沢義博:
弊社は創業から今年で92年目に入りました。今後も会社としての存在価値を高め、社会にとって必要とされる組織となっていきたいです。そして元気で魅力ある企業体で創業100年を迎えたいと切に願っています。
編集後記
中沢社長は魅力を感じる人材像について次のように話している。「仕事の段取りについては伝えていますが、これは個人の感覚やセンスの部分もあり、そういうところで仕事ができるかどうかが出てきます。優秀な営業職は、仕事の重要度や緊急性を自ら見極めて行動していく感覚を自然と身に付けているものです」。長寿企業を念頭に、人材のさらなる意識向上を目指す意欲的なコメントだと感じた。

中沢義博/1973年大阪府生まれ、近畿大学卒業。1995年、梶原産業株式会社に入社。2019年、執行役員販売推進部長に就任。2023年、取締役営業本部長兼関東営業部長に就任。2024年、代表取締役社長に就任。