※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

脱炭素社会、日本の農業事情など社会課題に正面から向き合い、次々と新規事業を生み出している株式会社イクト。社名の由来は、「育人=人を育てる」という思いであり、その名の通り仲間とともに成長し続けている会社だ。同社の代表取締役を務める平井辰憲氏に、学生時代の経験やこれまでのキャリア、そしてこれからの挑戦について話をうかがった。

「仲間と大きなことを成し遂げたい」という思いが社長を目指す原点に

ーー子ども時代、どのように過ごされていましたか?

平井辰憲:
幼稚園の頃はリーダーシップのある子どもでしたが、小学校に上がるとその積極性が仇となり、周囲との調和を難しく感じることがありました。中学・高校時代は周囲との関わり方について模索する日々が続き、次第に早く社会に出て実社会で学びたいという気持ちが強くなりました。

釣りが趣味で、釣った魚をさばくことや調理することが好きだったこともあり、2年制の調理専門学校へ進学。手先が器用なほうだったため、日本料理を専攻しました。

ーー専門学校時代、印象に残っているできごとはありますか。

平井辰憲:
「早く社会に出たい」と思い、専門学校での現況に励んでいましたが、入学して半年後、単独の交通事故を起こし、全身むち打ちで1週間ほど身動きが取れない状況になりました。一日中仰向けのまま、何もすることができない。眠りたくても寝すぎてこれ以上は眠れない。そんな日々が続き、そのとき、人生で初めて自分のこれまでを振り返る機会ができました。そして、「このままでいいのかな」と将来のことを考える良い機会になったのです。

子どものころから周りの人たちとの距離のつかみ方が分からず、孤立感を感じることもありましたが、将来は学生時代に叶わなかった「仲間と力を合わせ、何か大きなことを成し遂げたい」という思いが明確になりました。

「人を育てる会社であり続ける」理念の確立

ーー専門学校卒業後は、どのようなキャリアを積んだのでしょうか?

平井辰憲:
専門学校を卒業後、知り合いの社長が経営している人材派遣会社に入社しました。入社当時は、ほぼ事業を休止しているような状態でした。社長からは「君がやりたいようにやってみろ」と言われ、予想していなかった大きな裁量権が与えられることになりました。その環境がかえって私のやる気を刺激し、営業から事務、経理に至るまでさまざまな業務を実践を通して学ぶことができました。リーマン・ショックといった社会情勢の変化も経験しながら、約4年間で集中的に実務経験を積めたことで、独立への礎を築けたと思います。

ーー独立の際、電気設備工事業を選んだ経緯について教えてください。

平井辰憲:
人材派遣会社での経験を通して、「手に職をつけ、形に残る仕事で社会に貢献したい」という思いが強くなりました。そんな中、人材派遣会社で働いているときに知り合った電気工事の方に電気業務を教えてもらえることになり、そのときに最低限の技術を学びました。

その学びを活かし、電気設備工事業で独立。現在は、その技術を基盤にクリーンエネルギー事業を展開し、さらに次世代型農業などの新しい領域へも挑戦を続けています。

ーー社名の「イクト」にはどのような思いが込められていますか?

平井辰憲:
「人を育てる会社であり続けたい」との思いから、「育人」が社名の由来になっています。交通事故をきっかけに人生を見つめ直した経験や、人材派遣業を通して感じた人の成長を支援することの大切さから、「一人ひとりの能力を高めながら、ともに成長したい」という願いを持つようになり、創業理念の礎となりました。この理念に共感して入社してくれる社員も多く、今では50人規模の会社に成長しています。

エネルギー分野と農業を通じて新たな価値を産み出す企業へ

ーー現在の事業内容や、強みを教えてください。

平井辰憲:
現在の主力事業は、法人向けの太陽光発電所開発ですが、去年から農事業を始めました。実は過去に、農事業に参入したこともあるのですが、今回は過去の経験を活かしながら、土を使わずに栽培する新しい農法に取り組んでいます。

時代の変化を捉えた迅速な事業展開力と企画提案力、一貫体制でトータルソリューションの提供ができること、これは弊社の強みです。

ーー土を使わずに栽培する新しい農業手法について、詳しく教えてください。

平井辰憲:
無機質の人工培地を土の代わりに用いる高設栽培で、水はけが良く、病害虫にも強いことが特徴です。人工培地は、古着などを原料としたポリエステル繊維からつくられ、無機質の培地だから肥培管理が容易に行えます。病害虫にも強いことから、基本的には農薬を使用せず栽培することができ、肥料は有機肥料を使います。これにより、安心安全な野菜を安定的にたくさん生産できます。

現在、実証実験が終わった段階で、2025年5月末からは大規模なにんにく農場を着工しています。栽培は、灌水や施肥が自動化されているため管理が簡単で、人件費が軽減できます。スマート農業なので、高齢化する一次産業に新しい価値を提供できると考えています。

ーー近い将来、どのような会社にしていきたいですか?

平井辰憲:
弊社は上場を目指して、中期経営計画を進めています。現在のテーマは「革新と成長」。最近は、太陽光発電所開発や農業に加え、水素エネルギーの取り組みにも力を入れています。また、商品開発や海外展開も視野に入れているため、今後はCFO(最高財務責任者)やCTO(最高技術責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)といった経営幹部クラスの採用も強化していく予定です。成長意欲のある仲間とともに、新しい価値を生み出す挑戦を続けていきます。

編集後記

「仲間と大きなことを成し遂げたい」という平井社長の思いは、学生時代の苦い経験や交通事故を乗り越えた経験から生まれた強い信念である。その思いは、「人を育てる会社であり続ける」という理念となり、クリーンエネルギーや革新的なスマート農業など、多岐にわたる挑戦を力強く牽引している。独創的なアイデアと技術で社会に新しい価値を創造し、仲間とともに成長し続ける同社の未来が楽しみだ。

平井辰憲/浜松市出身。専門学校卒業後、人材派遣会社にて営業・事務・経理を経験し、23歳で個人事業主として独立、3年後に株式会社イクトを設立。電気設備工事事業からスタートし、現在はクリーンエネルギー事業・アグリ&フード事業など、多角的な事業を展開している。