※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

太陽光発電設備の遠隔監視サービス「エコめがね」を主力に、再生可能エネルギーの普及を支える株式会社NTTスマイルエナジー。全国約12万件の導入実績を誇り、再生可能エネルギーを誰もが安心してかしこく使える社会の実現を目指す。2025年6月、同社の代表取締役社長に就任したのが吉田誠氏だ。NTT入社後、国内外で転勤を繰り返しながら多様な経験を重ね、「発想力は移動距離に比例する」という信念を培ってきた。目の前の仕事をとことん楽しむ「働楽」の精神を胸に、同社をどう率いていくのか。その軌跡と展望に迫る。

絶え間ない異動と挑戦の連続 世界を舞台に身につけたビジネスの神髄

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。

吉田 誠:
大学院時代、学内のネットワーク構築プロジェクトに参加したことがきっかけで、通信が持つ可能性に強く惹かれ、NTTへの入社を決めました。しかし、最初に配属されたのは希望していた研究所ではなく、名古屋の現場部門でした。思い描いていたキャリアとは全く異なり辞意を考えたこともありましたが、通信の根幹を支える重要な仕事だと捉え直し、目の前の業務に全力で取り組みました。

ーーご自身の成長につながったと感じるエピソードはありますか。

吉田 誠:
海外の通信事業者とのやり取りやシリコンバレーでの拠点立ち上げが挙げられます。現場で3年働いた後、本社へ異動となり、初めて海外の通信事業者とやり取りを経験しました。そこでの経験が、グローバルな視点を意識するきっかけとなりました。

その後、ベンチャー企業への投資業務を担当したこともよい経験になっています。リスクを取って新しい事業に挑戦する方々と向き合う中で、世の中の広さと変化の速さを痛感させられました。また、アメリカのシリコンバレーでは拠点立ち上げを任され、現地のビジネスのスピード感や、働く人々の目標達成への高い意欲には目を見張るものがありました。これらの経験を通じて、常に広い視野を持つことの重要性を学んだと感じています。

予期せぬ社長就任と新たな決意 信条「働楽」に込めた仕事への想い

ーー貴社の社長就任後、どのような心境でしたか。

吉田 誠:
前職では現場寄りの仕事が中心で、再生可能エネルギーを専門とする弊社との接点はほとんどなかったため、社長就任の話をいただいたときは本当に驚きました。社員も全員が初対面で、ある意味、一社員として転職するような心境でした。しかし、新しい業界で、新しい仲間たちと何ができるだろうかという期待感の方が大きかったです。

ーー働く上で大切にされている信条はございますか。

吉田 誠:
「働楽(どうらく)」という言葉をモットーにしています。共に働くことを楽しむという意味ですが、私自身が楽しくなければ周りも楽しくないし、お客様によい仕事は提供できないと考えています。希望通りの配属でなかったときも、新しい部署に異動して不安だったときも、常にその状況の中に楽しさや可能性を見出すように心がけてきました。この姿勢が、どんな環境でも前向きに挑戦し続けるための原動力になっています。

ーー多様な勤務地でのご経験が、ご自身の考え方に与えた影響はありますか。

吉田 誠:
「発想力は移動距離に比例する」と強く感じています。私自身、国内外で10回以上引っ越しを経験し、さまざまな場所に出向き、現地で物を見たり、人に会ったりすることで、新たな発想を得てきました。社員にも、物理的であれ心理的であれ、自分の殻を破って遠くへ出かけてほしいと考えています。私も就任以来、全国のお取引先を訪問し、現場の声を聞くことを大切にしています。

約12万件の実績が築く確かな信頼 電力の未来を支える事業戦略

ーー貴社の主力事業について、改めてご紹介いただけますか。

吉田 誠:
弊社は2011年に創業し、太陽光発電設備を遠隔で見守る監視・保守サービス「エコめがね」を主力事業としています。発電量が正常かなどをスマートフォンやタブレットで手軽に確認でき、全国で約12万件の導入実績があります。特に小規模な太陽光発電設備の監視サービスにおいては、業界の第一人者であると自負しています。

また、主力事業以外では、「さるるコントロール」というエネルギーマネジメントサービスにも注力しています。これは、家庭などに設置された蓄電池の充電や放電を遠隔で制御する仕組みです。弊社ではDR事業の実証に2016年から取り組んで参りましたが、「さるるコントロール」はその長年の実証経験をもとに商用サービスとして今年度リリースしたものです。エコめがね事業、発電事業に次ぐビジネスの柱として今後も拡大に取り組みたいと考えています。

ーー貴社サービスの強みについて、どうお考えですか。

吉田 誠:
主力事業である「エコめがね」は、発電状況の可視化や、遠隔監視制御機能による出力抑制時の発電機会損失の最小化といったメリットにより、安心感を提供していることが強みです。設計通りに発電しているか、日々の発電量をいつでも確認できます。加えて、万が一の故障や発電量低下といった異常を検知した際には、全国約3000社の販売・施工・保守パートナー様と連携し、迅速な対応が可能です。何かあってもすぐに対応できるという安心感も、弊社が提供する重要な価値だと考えています。

全国約3000社との連携強化 地域課題に寄り添う未来への布石

ーー今後の事業展望についてお聞かせください。

吉田 誠:
まずは主軸である「エコめがね」のさらなる普及拡大です。まだ監視されていない太陽光発電所は国内に数多く存在するため、お客様との接点をさらに増やしていきたいと考えています。もう一つは、これまで蓄積してきた全国各地の発電量に関するビッグデータを活用した、新しいビジネスの創出です。パートナー様と共に、データの新たな活用法を模索しています。

具体的には、約3000社にのぼる既存のパートナー様との関係を再構築することが重要です。コロナ禍で少し疎遠になってしまったパートナー様もいらっしゃるため、改めて関係性を深めようと働きかけています。たとえば、出力制御の問題など、地域ごとの課題に寄り添った提案を持って訪問しています。こうした活動を通じて、パートナー様と共にお客様へ価値を届け、全国へサービスを拡げていきたいです。

ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。

吉田 誠:
弊社は、再生可能エネルギーをもっと身近に感じていただき、無駄なくかしこく使っていただく社会を目指しています。お客様一人ひとりに寄り添うことで、ひいてはカーボンニュートラルの実現に貢献していきたいです。失敗を恐れずに新しいことに挑戦し、その中に楽しさを見出すことが成長につながると信じています。私たちの今後の事業展開に、ぜひご期待ください。

編集後記

NTTという巨大組織の中で、国内外を渡り歩き、常に変化の最前線に身を置いてきた吉田氏。その原動力は、どんな環境でも仕事を楽しむ「働楽」の精神と、「発想力は移動距離に比例する」という確固たる信念だ。予期せぬ社長就任という大きな変化さえも、新たな挑戦の機会として前向きに捉える。そのしなやかな思考と行動力は、エネルギーという変化の激しい業界を牽引する上で、何よりの強みとなるだろう。

吉田 誠/1969年福岡県生まれ。早稲田大学大学院修了後、1994年日本電信電話株式会社(現・NTT株式会社)に入社。通信設備の工事・保守から技術開発、ベンチャー投資、地域のまちづくりなど、幅広い分野での業務に従事。米国シリコンバレー駐在時には、現地の技術動向調査や新規ビジネスの開発に携わる。2022年、NTTアノードエナジー株式会社の東海支店長を経て、2025年6月より株式会社NTTスマイルエナジー代表取締役社長に就任。