
セールスとHRの領域で「10年後の未来を創造する」をテーマに、AIを活用した自社プロダクト開発を手掛けるインキュベーター株式会社。同社は顧客の現場に寄り添うことで得た知見を活かし、AIを活用しBtoB営業の商談準備を効率化・高度化する新サービス「アカマネサーチ(※特許申請中)」を強みとしている。上場企業の役員という安定したキャリアを捨て、再び起業家として挑戦の道を選んだ代表取締役、八並嶺一氏。本記事では、同社が新たにリリースしたBtoB営業の商談前分析AI「アカマネサーチ」の全貌と、事業の根底に流れる八並氏の揺るぎない経営哲学、そして仲間と共に描く未来像に迫る。
安定を捨て再び起業家の道へ。社名に込めた「生み出し続ける」覚悟
ーー上場企業の役員というご経歴を経て、起業に至った経緯をお聞かせください。
八並嶺一:
前職は人材系のベンチャー企業で役員を務め、9年ほど在籍している間に上場も経験しました。グループ会社の社長という安定した環境で挑戦できる道もありましたが、心のどこかで「このままで良いのか」という思いが常にありました。そして「起業家としてもう一度再チャレンジしたい」「今まで培ってきたものを活かして0ベースでスタートしたい」という強い思いが湧き上がってきたんです。そして2022年に改めて起業の道を選びました。
ーー起業当初から、事業の方向性は明確だったのでしょうか。
八並嶺一:
いえ。具体的に何をやるかまでは明確に定まっていませんでした。起業した当初もやりたいテーマはあったものの、具体的なプロダクトが決まっていたわけではありません。だからこそ、社名を「インキュベーター」と名付けました。これは「インキュベーション(新しいものを生み出す)」という言葉から来ています。世の中に新しい価値を生み出し、提供し続ける。そういった事業活動を何十年も続けられる会社をつくりたい、という思いがこの会社の背景にあります。
ーー起業されてから最も大変だったのは、どのようなことでしたか。
八並嶺一:
事業の方向性、つまり「どの山に登るか」を定められずにいた時期が精神的に最も大変でした。ソフトバンクの孫正義さんの言葉に「どの山を登るかで仕事の50%は決まる」とありますが、その言葉が当時の私には非常に重く響いたのです。いままでやってきた事業をして目先の利益を追求するのか、それとも時間や困難が伴っても新しい市場を創造する事業にチャレンジするのか、ずっと悩み続けていました。最終的に自分は新しい価値を創造していくチームをつくりたいのだと覚悟を決め、セールスとHRの領域で実現しようと決断するまでに約3年ほどかかりました。
営業の常識を変える。未来を創造するBtoB営業の商談前分析AI「アカマネサーチ」の衝撃
ーー事業の軸足を自社プロダクト開発へと移されましたが、その経緯を教えてください。
八並嶺一:
これまで私たちはお客様の新規事業をご支援してきました。その中で得た知見やナレッジを活かし、これからは自分たち自身で新しいサービスをつくりだす活動に注力すべきだと考えたのです。特に、これまでの支援で深い課題認識のあったHRとセールスの2分野に領域を定めました。10年後の当たり前になる業務プロセスをAIで再構築し、自社プロダクトとして提供することで、社会の「未来創造」に貢献していく。これが私たちの目指す姿です。
ーーその第一弾が「アカマネサーチ」なのですね。
八並嶺一:
そうですね。アカマネサーチは商談前分析AIツールで、まさにお客様の課題解決に取り組んだのを起点に生まれました。従来では多くの営業担当者が顧客理解に十分な時間をかけられず、本質的な価値提案ができていない、という課題がありました。アカマネサーチはその非効率なリサーチ業務をなくし、営業担当者が顧客と向き合う時間に集中できるようにするものです。AIの力で未来を創造する営業活動を支援します。
ーー具体的に、営業の現場はどのように変わるのでしょうか。
八並嶺一:
これまで何時間もかけて行っていた企業情報の検索や業界動向の調査が、社名を入力するだけで一瞬で完了します。国内約500万社の法人データベースを構築し、常に情報を最新化しています。これにより、リサーチにかけていた時間を顧客への提供価値を考える戦略的な時間に変えることができます。企業情報やミッション、社長のプロフィール、さらにはアイスブレイクのネタまで出力されるため、質の高い提案と顧客との良好な関係構築に直結します。
ぶれない軸を磨き続ける。経営哲学「コマ理論」とは
ーーAIを活用したサービスが増える中で、御社の独自性や強みはどこにありますか。
八並嶺一:
私たちの最大の強みは、これまで数多くの企業の戦略立案から実行支援までを一貫して行い、顧客の現場に寄り添ってきた経験そのものです。また、そこで得たリアルな課題感と私たちが持つAIの知見、そしてプロダクト開発力を掛け合わせている点も強みです。AI技術そのものでの差別化が難しくなるこれからの時代、私たちは特定の専門領域に特化した「特化型AIエージェント」で価値を提供します。
ーー挑戦を続ける八並代表が、最も大切にされている価値観についてお聞かせください。
八並嶺一:
私は「コマ理論」と呼んでいるのですが、コマが安定して回り続けるためには中心にしっかりとした軸がなければならない、という考え方です。経営も同じで、この「軸」がなければどんなに優秀な仲間や潤沢な資金が集まってもすぐに倒れてしまいます。私のあらゆる言動の基準となっているのは、この「ぶれない1本の軸をどうつくるか」という点に尽きます。
ーーその「軸」は、どのようにしてつくられていくものなのでしょうか。
八並嶺一:
常に「自分はどんな人間でいたいのか」を考え、あらゆる観点で自分自身をブラッシュアップし続けることです。これは簡単なことではなく、本当に太く強い軸を築くには10年はかかると思っています。ぶれない軸をつくることはそれだけ覚悟の必要な終わりなき営みです。この軸が強ければ強いほど、周りを巻き込む力も大きくなると信じています。
未来創造カンパニーとして描く、2030年への道筋

ーー今後の事業展開と、その先に見据えるビジョンについて教えてください。
八並嶺一:
私たちは「未来創造カンパニー」として、常に新しい現場目線でサービスを考えています。小手先の機能ではなく、とにかく「今、ユーザーが使いやすく価値を感じられるか」を大事にしています。その上で、まずは「アカマネサーチ」を市場に浸透させ、次にアカウントセールスに特化したセールスツール、そして来年に向けてHR領域のサービスをリリースする計画です。
ーー目標を達成する上での、現在の課題は何でしょうか。
八並嶺一:
事業には「プロダクトをつくる難しさ」、それを「市場に売っていく難しさ」、さらに「何十倍にも成長させていく難しさ」という大きく3つの壁があると考えています。私たちは現在、つくったものを市場のニーズに合わせて調整しながら、マーケティングを強化していく第二の壁に挑んでいる最中です。少人数のチームでこの難易度の高い挑戦をしているのが、今一番大変なことですね。
ーー最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。
八並嶺一:
私たちは、セールスとHRの領域で「10年後の未来を創造する」という、非常にエキサイティングな挑戦をしています。このビジョンに共感して「困難なプロセスも楽しみながら、未来を創る当事者でありたい」という強い思いを持った方とぜひ一緒に働きたいです。また、「アカマネサーチ」は無料トライアルを実施しています。ご自身のビジネスがどう変わるか、ぜひ一度体験してみてください。
編集後記
上場企業の役員というキャリアをリセットし、「0ベース」から再び荒波へと漕ぎ出した八並氏。その根底には「新しい価値を生み出し続けたい」という純粋で力強い衝動があった。同氏が語る「コマ理論」は、10年かけて磨き続けるという覚悟に裏打ちされた、経営者としての生き様そのものだ。
「アカマネサーチ」は、単なる業務効率化ツールではない。営業担当者を「物売り」から解放し、顧客の未来を共に創る「パートナー」へと変革させる可能性を秘めている。未来創造カンパニーの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

八並嶺一/インキュベーター株式会社 CEO。エンタープライズセールスやAIを活用した事業開発、新規事業、企業成長を支援するエキスパート。株式会社エージェントでは、新規事業開発、人事、海外法人取締役を歴任。CHRO/COOとして経営を牽引し、2020年に上場を実現。2021年グループ会社代表取締役CEOに就任。2022年にインキュベーター株式会社、2023年に株式会社HeRosを創業。