※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

食材が料理人の愛と工夫次第で姿を変える料理への尽きない情熱と、お客様の笑顔を原動力にするために全店オープンキッチンを採用するなど、「料理人」としての顔。そして、19店舗の組織を率い、新事業を次々と生み出す「経営者」としての顔。この二面性こそ、株式会社イタリアンイノベーションクッチーナの創業者であり、代表取締役会長である四家公明氏が持つ最大の魅力である。

スパゲッティの名店で磨いた料理人としての腕と、経営者としての冷静な視座。その両輪で、四家氏は一代で独自のイタリアン業態を確立してきた。「愛がなければ飲食店はできない」と語る、同氏に、創業の原点と事業拡大の秘訣、そして今後の展望をうかがった。

ファミレスに見た夢と独立への道のり

ーー料理の世界を志した原点についてお聞かせください。

四家公明:
親が飲食店を営んでいたこと、そして私自身が勉強嫌いだったこともあり、「料理で生きていこう」と自然と決めていました。中学生の頃にファミリーレストランが登場し、そのチェーン展開という仕組みに感銘を受けましたね。「自分も将来は店舗展開をしたい」と夢見るようになったのを覚えています。

ーー独立までの経緯について教えていただけますか。

四家公明:
高校時代から喫茶店でアルバイトをし、卒業後はスパゲッティの名店「ハシヤ」で7年間働きました。実は、親が和食店を営んでいた影響で、一番やりたかったのは和食なんです。しかし、将来的なチェーン展開を考えたとき、仕事を覚えるのに時間がかかる和食では難しいと感じました。そこで、次に好きだったスパゲッティで繁盛店をつくろうと計画を立て、技術を磨くために「ハシヤ」の門を叩いたのです。修業中から「自分ならこう経営する」という視点を持ち、料理や経営に関する改善案をマニュアルにまとめて提案もしました。しかし、若かったこともあって、なかなか聞き入れてはもらえませんでしたね。

そして1992年、26歳の時に独立。バブル崩壊直後で、家賃や金利も非常に高い厳しい状況でしたが、2,400万円の資金を元手に、武蔵小山に自分の店をオープンしたのです。会社の社長になりたいというより、「自分の店を開きたい」「美味しいものをつくり、お客様の幸せそうな顔を見たい」という思いが強かったですね。

愛情の経営哲学と業態拡大の戦略

ーー飲食店経営で最も大切にしていることは何ですか。

四家公明:
「愛がなければ飲食店はできない」と常々思っています。一皿一皿に愛情を込めなければ、お客様に美味しいと思っていただけません。従業員にも、その愛情の込め方を教えることが非常に大切です。また、私たちの強みは、従業員がお客様をよく見ていて、食事を美味しく召し上がっていただくためのアドバイスができる点。その優しさや思いやり、おせっかいが、店の強みになっています。特に、弊社に新卒で入社し、2店舗の時から20年以上共に歩んできた青木社長と佐藤常務の存在は大きく、彼らのおかげで会社はここまで大きくなりました。新卒を採用するということは、親御さんや本人の人生を預かるという大きな責任を感じています。だからこそ、一から丁寧に教え、料理の技術だけでなく、お客様に喜んでいただくための「商人」としての心構えも育むことで、強い絆を作り、共に未来を築く経営を実践しています。

ーー多業態に展開されていますが、どのような戦略があったのですか。

四家公明:
もともと美味しいスパゲッティが出せるバーをやりたかったのですが、いきなりお酒の世界は難しいと感じました。そこで、まずは収益性の高いスパゲッティ専門店の経営で軍資金を貯め、それから好きな業態に挑戦しようと考えたのです。屋台骨となるスパゲッティがあったからこそ、イタリアンやピッツェリア、イタリアン酒場など、安心してカテゴリーを増やせました。

また、業態が複数あることで、出店の際にその土地の特性に合わせた店を選べるのが大きな強みでした。たとえば、「この場所は若者が多いからバル業態で」といった具合に、展開する店舗を柔軟に決めていましたね。

未来への展望 30店舗体制と世界への挑戦

ーー今後の事業展開について、どのような目標をお持ちですか?

四家公明:
まず、レストラン事業については、「3年後までに全体で30店舗にする」という目標を社長が掲げています。現在の店舗数から、あと11店舗増やすつもりです。

また、グループ会社である「イマジン・ジャパン」の事業にも注力しています。こちらでは、自社開発したパスタソースや生麺といった商品の卸売、飲食店の開業コンサルティングなどを手がけています。最近はスパゲッティ専門店の開業相談が特に増えていますね。和風スパゲッティは1,500円程度でお腹いっぱいになれ、イタリアン経営に比べて技術習得のハードルも低いため、参入したいと考える方が多いようです。私たちのノウハウを伝え、業界全体に役立つためにも、弊社PB商品を自社のためだけにとどまらず広くご活用いただくことで、人材不足解消や繁盛店開業などにも貢献していきたいと考えています。

さらに、あるセミナーで「世の中の不便を解決するのが仕事だ」という話に感銘を受けて以来、飲食の枠を超えた商品開発にも挑戦しています。たとえば、インドアゴルフで球拾いをする際の身体的な負担を軽減し、練習時間の効率化にも貢献する道具、その名も「アツ・メル」や、地方の新鮮な魚を活用したコンサルティング、そして調理技術がない方でもゴミを出さずに、簡単にお店の味と美しい盛り付けを再現できる加工食品「カルパッチョシート」を開発しました。

今後は、これまで蓄積してきた知識と技術を活かし、和風スパゲッティ専門店業態の根強い人気をお伝えし、開業コンサルティングに力を入れていきたいと考えています。羽田空港などのレストランからも依頼が来ており、日本の玄関口で海外の方々に「ジャパンクオリティ」の和風スパゲッティを届け、いずれはアメリカで和風スパゲッティの店を出すという夢への足がかりにしたいですね。

編集後記

「愛がないと飲食店はできない」という四家氏の言葉は、30年以上にわたりお客様と向き合い続けてきた経営者の哲学そのものだ。一杯のスパゲッティから始まった事業は、周到な戦略と人への愛情によって着実に拡大してきた。飲食店の経営に留まらず、コンサルティングや商品開発で業界全体の変革を目指すその視線は、日本の食の可能性を世界へ広げようとしている。今後の挑戦に大いに期待したい。

四家公明/株式会社イタリアンイノベーションクッチーナの創業者で、現在は代表取締役会長。料理人だった父の背中を見て育ち、高校在学中は喫茶店でアルバイトを経験。卒業後は大行列のできるスパゲッティ店「ハシヤ」に就職し、店長まで務める。7年後の26歳のとき、自身の店「スパゲッティ とすかーな」を武蔵小山にオープンする。現在、スパゲッティ専門店をはじめ、イタリアン業態19店舗を運営。グループ会社の株式会社イマジンジャパンの社長も務め、自社商品の卸売や開業コンサルティングも展開。パスタソースやコンビニパスタの監修、ゴルフ用品の開発まで、幅広く事業を手がけている。