※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

ロールケーキ「堂島ロール」で広く知られる株式会社Moncher。同社は洋菓子の製造販売をメインに事業を展開しており、定番商品のロールケーキから焼き菓子、チョコレート、紅茶まで、多彩な商品を提供している。現在、国内27店舗、海外46店舗を展開し、洋菓子で人々に幸せを届け続ける同社の代表取締役、金美花氏に話をうかがった。

新たな人生を求めて出会った洋菓子の魅力

ーーこれまでのご経歴をうかがえますか。

金美花:
大学卒業後、小学校教師を経て、2003年に大阪・堂島にパティシェリーモンシュシュ(現パティスリーモンシェール)をオープンさせました。

29歳まで小学校教師として過ごしてきましたが、子どもたちに「夢に向かって頑張れば願いは叶う!」と教えてきた分、自分自身も社会でどれだけ通用するのかチャレンジしたくなり、職を離れました。そして、“自分の夏休み”として幼い頃から憧れていたヨーロッパを旅行し、優雅なパティスリーでケーキが心豊かな幸せなひとときを運んでくれると感動。子どものころから料理やお菓子づくりが好きで、家族や友人に喜んでもらえることに喜びを感じていたことも影響し、新しい人生としてパティスリー開業を目指すことにしました。

ーーご自身のお店を持つ決め手となったエピソードをお聞かせください。

金美花:
こ゚縁あって堂島ホテルの通路を間借りしてお店をオープンすることになりました。細長い空間にショーケース1台とテーブル5台だけを並べた、小さなお店でしたが私にとってはキラキラ輝くお城でした。

しかし、創業初期は苦労の連続で、売れない原因を商品や人のせいと捉えていた時期もありました。そんな折、福岡で繁盛している人気洋菓子店のシェフに弱音を吐くなと叱咤されて深く反省することに。「最初からうまくいっている経営者なんていないんだ」と気付かされました。そして、自分自身がただただ、華やかな世界に憧れていただけの意識を深く反省し、努力不足を痛感しました。

そこで私は、心構えを変え、「20年分の修行を、人の10倍努力して2年でやり遂げよう」と決意。それまでも朝8時半出勤して夜1時半まで働くというように、仕事に時間を割いてはいましたが、心構えを変えたことを機に、徐々にスタッフたちに認められるようになり、お客様も増えたような気がします。

「信頼70、ときめき30」で挑む、顧客に愛される商品開発

ーー貴社の事業内容や、展開している商品について教えてください。

金美花:
弊社は「パティスリーモンシェール」というブランド名で洋菓子の製造販売を行っています。主力商品はロールケーキ「堂島ロール」で、これまでの常識を覆したシンプルな“ひと巻き”のロールケーキが多くのメディアに取り上げられ、今日の成長の礎となりました。現在は国内に27店舗、海外(上海・香港・韓国)に46店舗を展開しています。

商品は、定番の「堂島ロール」だけでなく、特注のアニバーサリーケーキから焼菓子、チョコレート、紅茶まで商品ラインナップを拡充。その中で、江戸をテーマにした「サヴール ドゥ ジャポン」というチョコレートは、パリで開催される世界的なショコラの祭典「サロン・デュ・ショコラ・パリ2024」の品評会「C.C.C」で初出場ながら金賞を受賞しています。

ーー商品開発の際にはどのようなことを大切にしていますか?

金美花:
商品開発においては既存商品をブラッシュアップしながら積極的に開発に取り組んでいます。ただ企画開発チームが開発するのではなく、エリアマネージャーも企画会議に参加し、札幌から博多まで全店舗で最前線に立つ販売スタッフから集めたお客様の何気ないお言葉や、自身が体験して「これはいい!」と感じたことを活かしています。

最近注力しているのはサロンでの軽食やデザート、そして紅茶やコーヒー。紅茶とコーヒーは、「堂島ロールとのマリアージュを楽しんでほしい」という思いから生まれたものです。さらに、百貨店での催事では「日本の四季」をテーマにした季節限定のロールケーキも提供しており、生産者や生産地への敬意を持ち、お菓子づくりになくてはならない「素材」からもっとこだわることを重要視しています。

これらのきめ細やかな取り組みが、多くのお客様に支持される理由になっていると考えています。

環境配慮型の自社牧場を通じて、酪農業界の活性化も目指す

ーー現在、注力している取り組みについても教えてください。

金美花:
現在最も注力しているのは弊社の強みでもある生クリームを磨き上げることです。「堂島ロール」の命とも言えるクリームの品質を徹底的に追求するため、北海道中標津に自社牧場「モンシェール・ファーム」を構えました。乳牛の受精から出産、仔牛の牧草の栽培、クリームの製造までを一貫して行っているうえに、環境に配慮し、ふんなどの排泄物もバイオ燃料への転換をする「循環型牧場」です。

こうした取り組みは弊社の商品価値を高めるだけでなく、日本の酪農業界全体を盛り上げることにもつながると考えています。このプロジェクトでは、「乳製品をもっと食べて、日本の酪農を元気にする」という大きな目標を掲げ、これからも品質と環境、そして地域貢献の三位一体で事業を推進する予定です。

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。

金美花:
私の目標は、弊社を《子どもの代まで選んでいただける企業》にすることです。そのために、現在働いてくれている社員の子どもたちが「私もここで働きたい」と思えるような職場環境と企業文化を築くことが、最も重要だと考えています。

ともすれば家族より長い時間を共に過ごす同僚なのだから、職場は「人生の幸せ」ととても密着していると思います。昨今、「AIに仕事が奪われる」など耳にするからこそ、ご縁あってモンシェールに集まり一緒に頑張っているすべてのスタッフたちが、心からやり甲斐あって働き甲斐ある職場、日々幸せだと思える会社を築き、HOW MUCHよりHOW LONGの精神で、息の長い会社にしたいと思ってます。

編集後記

教師として子どもたちに「努力すれば夢は叶う」と伝えていた金氏が、自らその言葉を体現している姿が印象的だった。ヨーロッパ旅行で感じた「幸せなひとときを届けたい」という思いから始まった事業は、今や牧場経営にまで及び、日本の酪農業の活性化という大きなビジョンにもつながっている。「堂島ロール」という“ひと巻き”の幸せの輪は、これからも多くの人に幸せをもたらしていくのだろう。

金美花/1972年、福岡県生まれ。大学卒業後、小学校教師を経てヨーロッパ旅行に出かけた際、人々の心を豊かにする洋菓子文化に魅了され、2003年に大阪府の堂島に「パティスリーモンシェール」を開業。これまでのロールケーキの常識を覆した“ひと巻き”の「堂島ロール」が人気を呼び、多数のメディアに取り上げられる。現在、国内27店舗、海外(上海・香港・韓国)で46店舗を展開。