※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

デジタルエンターテインメントの世界で新たな価値創造に挑む、グリーエンターテインメント株式会社。「日本発のIP(※1)とゲームで、世界を熱狂させる。」をミッションに掲げ、アニメやゲーム、新規事業へと領域を広げている。その舵取りを担うのは、2023年7月に代表取締役社長に就任した柿沼洋平氏だ。グリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)入社後、多くのファンに支持されている『ヘブンバーンズレッド』のプロデューサーを務めるなどIP立ち上げに尽力してきた柿沼氏の軌跡と、同社が目指す「IP Growth Company」の未来に迫る。

(※1)IP:Intellectual Property(知的財産)の略

急成長企業への挑戦がキャリアの原点

ーーこれまで歩んでこられたキャリアについて、お聞かせいただけますか。

柿沼洋平:
2009年に新卒で楽天株式会社(現:楽天グループ株式会社)に入社し、楽天トラベル事業に配属されました。そこでやりがいを感じていたのですが、入社から2年足らずの2010年のことです。当時、急成長を遂げていたグリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)からお誘いをいただきました。

当時のグリーは事業の成長が著しく伸びており、周囲からも「どんな人たちが働いているのか」と注目されていました。そして、実際に当時の役員の方々と話す機会を得ました。彼らのものづくりへのこだわりや、GREE Platformにかける情熱に惹かれたと同時に、非常に物腰柔らかく、スマートな振る舞いをされていたところに惹かれ、転職を決意しました。

チームで掴んだV字回復と『ヘブンバーンズレッド』誕生秘話

ーーご自身の成長を強く感じられたエピソードを教えていただけますか。

柿沼洋平:
2012年〜2013年頃、ソーシャルゲーム業界において合弁会社の設立が活発に行われておりました。その中で、魅力的なゲーム開発・運営を目的として設立された株式会社サイバーエージェントとグリーとの合弁会社立ち上げに参加することになったのが貴重な経験になりました。

お互いが同じ業界に身を置いていた両社にも関わらず、社風が異なり、最初にリリースしたゲームがうまくいかず、当初の雰囲気は決して良いものではありませんでした。しかし、利害が異なるステークホルダーやクリエイターとの対話や調整を辛抱強く続け、多くの学びや気づきを得られました。具体的には、複数のゲーム制作からリソースを一つに集中させるなどの合理的決断をするために、現場メンバーと腹を割って丁寧に繰り返し話しをする必要がありましたが、これらの経験を通して、コミュニケーションの重要性を痛感しました。最初は思わしい結果を出せませんでしたが、同じ方向に向かいチーム一丸となって取り組んだ結果、最終的にはV字回復を達成できました。

この経験が、『ヘブンバーンズレッド』の成功に繋がりました。合弁会社のV字回復を達成した後、2016年夏にグリーに戻り、2017年末にはライトフライヤースタジオにて『ヘブンバーンズレッド』の立ち上げに着手しました。本プロジェクトは、株式会社ビジュアルアーツのゲームブランド「Key」と組んでオリジナルIPを立ち上げるものです。当初はブラウザゲームとして企画していましたが、スマートフォン向けRPGゲームへと方向転換しました。多くの関係者を巻き込みながら意思決定をすることは、まさに合弁会社での経験で得た学びを活かせたからこその決断でした。

ビジュアルアーツのシナリオやキャラクターと音楽。そして、ライトフライヤースタジオのRPG開発力を組み合わせました。そして5年間の開発期間を経て2022年にリリースし、大ヒットに至りました。

アニメ、ゲームの次に見据える新たな事業展開

ーー社長就任後、どのようなビジョンを掲げて事業を進めていらっしゃいますか。

柿沼洋平:
私が社長に就任してからは「IP Growth Company」というビジョンを掲げています。これは、コンテンツを短期的な売上だけで終わらせず、長く成長させていく会社を目指すものです。弊社のミッション「日本発のIPとゲームで、世界を熱狂させる。」を実現するには、IPを継続的に成長させる必要があります。

そのために、現在のアニメ事業とゲームライセンス事業(海外を含むIPライセンス)に加え、キャラクターグッズ販売をはじめとしたマーチャンダイジング事業や音楽レーベルなど、今後はIPを多角的に活用したIPプロデュース集団を目指します。

ーー貴社事業ならではの強みをお聞かせいただけますか。

柿沼洋平:
アニメ事業では、日本独自の「製作委員会方式」へ出資し、近年ではその中心となる「幹事会社」も務めています。スマートフォンゲームを主軸とする会社がアニメ製作の幹事を務めることは業界内でも珍しい取り組みです。

弊社の強みは、ゲーム開発や運営で培ってきたノウハウを、アニメ事業のマーケティングにも活かすことができます。具体的には、クリエイターへのリスペクトとデジタル分析・PDCAサイクルを両立させる「クリエイティブとビジネスのバランス」です。論理的な「左脳的アプローチ」とクリエイターの感性を尊重する「右脳的アプローチ」を組み合わせる弊社のカルチャーを評価いただき、「ここまで詳しく数字で根拠立てて説明してくれたのはグリーエンターテインメントさんが初めて」といったお声もいただきます。

ゲームライセンス事業では、自社開発ではなく、保有IPをもとに外部開発会社と協業するプロデュース事業を展開しています。ライセンス調整、配信、マーケティング、プロモーションなど、ゲームを世に届ける役割を担っています。製作委員会に直接出資する作品では、委員会や原作者とのスムーズな連携により、コンテンツにとって最適なタイミングで提供が可能です。加えて近年では、出資していない他社保有IPにも携わり、日本の版元と海外デベロッパー間の共同プロデュースに関与するケースも増加しています。このような海外デベロッパーとの意思疎通が難しいケースにおいては、グリーエンターテインメントの実績やPDCAサイクルの経験知が信頼となり、継続的な取り組みを生み出せるようになっています。

ーー今後の事業展開において、特に注力されるテーマについてお聞かせください。

柿沼洋平:
今後は、大きく「新商品開発」「EC強化」「海外展開」の3つを連動させて、注力します。

まず新商品開発では、IPを最大限に活かしたマーチャンダイジング事業の立ち上げを考えています。アクリルキーホルダーや、ぬいぐるみなどの定番商品に加え、我々独自の商品も少しづつですが取り揃えることにより、多様なグッズ展開を模索し、作品の広がりに寄与しつつ、ファンの方々にも楽しんでいただけるようなグッズをお届けできる形を探っています。

EC強化では、自社ECサイトを立ち上げます。受注生産などを活用し、お客さまの需要に合わせて丁寧な販売をコントロールしていきます。

そして海外展開については、現在、アニメ市場全体の売上の半分を占める海外をターゲットとするものです。この市場を捉えるべく、アニメ事業やゲームライセンス事業で培った海外企業との関係を活かし、マーチャンダイジング事業でも海外へと展開していくことを目指しています。

これらのテーマに注力し事業を拡大していくためには、中核を担う人材の採用が不可欠です。グッズ業界の経験者を外部から招き入れ、共に事業を立ち上げたいと考えています。弊社が大切にするのは、「チャレンジ精神」と「スピード感」を持つ方です。また、新規事業はリスクを伴いますが、検証ポイントを明確化した上で、小規模で早めに失敗と成功を繰り返し、次のPDCAに活かす考え方を重視します。

そして、「これは絶対にうまくいく」という強いパッションと、それを周囲に理解させる対話力を持つ方を歓迎します。自ら考え行動し、周りを巻き込む。そんな方々と共に日本のIPで世界を熱狂させたいですね。

編集後記

柿沼社長の言葉からは、IPとコンテンツへの深い愛情、そしてそれを世界に届ける揺るぎない覚悟が伝わってきた。新卒からのキャリアチェンジや合弁事業のV字回復。その学びを『ヘブンバーンズレッド』の大ヒットにつなげた経験は、困難を乗り越え成長の糧とする姿勢を体現しているのだろう。クリエイティブへの深い理解とリスペクトを持ちながら、データに基づいたビジネスロジックで事業を推進する姿。それは、グリーエンターテインメントが「IP Growth Company」として、世界を熱狂させる未来が近いことを感じさせてくれた。

柿沼洋平/楽天株式会社を経て、2010年、グリー株式会社(現:グリーホールディングス株式会社)に入社し、GREE Platformの営業を担当。2013年にサイバーエージェントとの合弁会社グリフォンの設立に参画し、取締役に就任。2018年より、グリーグループの子会社である株式会社WFSへ異動し、2021年に同社のBusiness Development本部 本部長に就任。『ヘブンバーンズレッド』プロデューサーを務める。2023年7月、グリーエンターテインメント株式会社代表取締役社長に就任。