※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

2025年1月に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故により、下水インフラの安全性向上が改めて注目されている。事故の翌月、神奈川県海老名市・藤沢市の2市が下水管の緊急点検を実施。その業務を一手に引き受けたのが邦栄メンテナンス株式会社だ。今回は、証券会社から建設会社へ転身し、2002年に代表取締役に就任した鈴木健一郎氏に、自治体から寄せられる信頼の源泉や今後の事業展開について話をうかがった。

金融業界から建設業界へ転身した理由

ーー代表取締役就任までのご経歴を教えてください。

鈴木健一郎:
新卒で菱光証券株式会社(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)に入社しました。そこでは、個人向けの営業に従事していました。その会社で現在の妻と知り合い、結婚し、4年半後に退職。妻の実家が経営していた東邦建設株式会社に転職しました。配属先は前職と同様、営業職でした。

金融から建設という畑違いの分野に飛び込むことに、戸惑いがなかったわけではありません。ただ、それ以上に挑戦したいという気持ちが上回ったのです。知識ゼロからのスタートだったため、周囲の期待に応えられるかというプレッシャーは常に感じていました。そこで自分なりに営業ルートを開拓して実績を積み重ね、徐々に周囲からの信頼を得ていきました。

その後しばらくしてグループ会社である弊社の取締役となり、2002年に代表取締役に就任したのです。

DXと設備投資が生む圧倒的なスピード感

ーー貴社の事業を教えてください。

鈴木健一郎:
弊社は、19社で構成される横浜市下水道管理組合の一員です。横浜市より組合へ委託され、市内全域の下水道点検・清掃・調査をおこなっています。他都市においては点検・清掃・調査に加えて修繕も行っています。また、工場、動物園の排水関係の清掃や大雨のときに一時的に雨水を貯めて洪水を防ぐ調整池の清掃も手掛けています。業務の9割は自治体など公共関連の仕事です。

2018年には、同組合で導入した清掃しながら管内を確認できるノズルカメラを用いたスクリーニング調査をスタートしました。2021年には弊社単独で、詳細に確認できるTVカメラ調査を導入しています。一連の取り組みが評価され、詳細TVカメラについては2022年と2023年に横浜市下水道河川局より委託業務の成績上位として優先指名業者に選ばれました。そして、ノズルカメラにおいては2024年に国交省より「第7回インフラメンテナンス大賞」で優秀賞を受賞しました。その他、2019年に「横浜型地域貢献企業」を取得し、2022年には最上位認定を受けることが出来ました。

ーー貴社の強みを教えてください。

鈴木健一郎:
ひと言で表現すると「スピード感」です。まず、DXによって短い工期への対応を可能にしています。Excelでつくった工程管理表を巨大なモニターに映し出し、社員の配置を可視化しています。必要に応じてパズルのように配置を組み替え、すぐに全員で共有。これにより、フレキシブルに現場に向かう体制が整っています。

また、調査後に自治体に提出する報告書の入力をデジタル化しました。以前は帰社してから全項目を手入力していました。しかし今は、現場でコメントと画像を入力し、帰社後に端末を接続すれば自動的に報告書が生成されます。報告書の作成に時間をとられないため、短い工期でもまったく問題ありません。

鈴木太晴:
設備投資にもスピード感を持たせています。メーカーから機材などのデモを取り寄せ、私が現場で「良い」と判断すれば、導入を即決します。もちろん相談はしますが、ある程度は社長から一任させているのでこの相談から決断までの速さが弊社の強みです。

直近では埼玉県八潮市の陥没事故後、中大口径の調査需要を見込み、TVカメラ調査で適用管径がφ3000㎜まで対応できるものを導入し、様々な自治体での緊急点検や調査に役立ちました。細かいもので言えば現場に従事する社員の身体的な負担を減らすために、ヘルメットに装着できる無線機や洗浄ノズル等も絶えずトレンドのものを取り入れています。

期待を超える110パーセントの仕事にかける想い

ーー公共関連の仕事をどのような思いで受けていらっしゃいますか。

鈴木太晴:
受けた仕事は、常に付加価値をつけて応えようと意識しています。例えば、調査依頼でマンホールに入った際は、依頼箇所以外のつながる下水道管もくまなく調べます。もし異常を見つけて報告すれば、自治体の方々に感謝されます。それが、次の仕事の依頼にもつながる可能性もあるでしょう。ですから社員にも「100%ではなく、110%の力で仕事をしよう」と伝えています。

ーーなぜ付加価値をつけることにこだわっているのですか。

鈴木健一郎:
弊社の事業の原資は、もとを辿れば税金です。自治体のため、ひいては市民の方々のために期待以上の力を尽くすのは、当然の責任だと考えています。私個人としても、多くの方々の役に立っているという点にやりがいを感じています。これは、証券会社の営業時代とは大きく異なる点です。

下水道の未来を守るワンストップサービスを目指して

ーー今後のビジョンを教えてください。

鈴木太晴:
下水道をワンストップで維持管理できる会社を目指しています。清掃と調査はすべて自社で手がけられるようになりました。今後は工事そのものも請け負うことが目標です。

かつて下水道管は、老朽化などで異常が見つかれば掘り返し、新しい管を入れることが主流でした。しかし今は、入れ替え工事が難しい箇所や老朽化に対して耐震化が遅れているのでスピード感が求められています。周辺環境等も考慮して注目されているのが、掘らずに管をリニューアルする「管更生」という技術です。古くなった管の中に特殊なチューブなどを挿入し、新しい管を作って更生する手法で、弊社も工事を手がけたいと考えています。

鈴木健一郎:
管更生の領域は、弊社にとってまだ始めたばかりの仕事です。社内に前例があまりない分、工事経験者が少ない状況です。だからこそ、社歴はあまり関係ありません。その点では、これから入社する方にとっては、かなり面白い仕事になるのではないでしょうか。やはり強い会社というのは技術を自社で保持していると思いますから、下水道管の事なら何でも全て自社でできる、強い会社を目指していきたいです。

編集後記

「考えることは誰でもできる。大切なのは行動に移せるかどうか」これは、鈴木氏の座右の銘だ。DXで事業にスピード感を持たせて、自治体の信頼を勝ちとる。そして設備投資で、社員の技術力を社会貢献につなげる。常に行動し続ける鈴木氏が率いる同社はどこまで事業領域を拡大するのか。その動向に今後注目したい。

鈴木健一郎/1967年神奈川生まれ。国士舘大学卒業後、菱光証券株式会社(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)に入社。1995年に東邦建設株式会社入社。2002年に邦栄メンテナンス株式会社の代表取締役に就任し、現在に至る。

鈴木太晴/1994年神奈川生まれ。東京情報大学卒業後、管清工業株式会社に入社。2022年に邦栄メンテナンス株式会社入社し、2025年に専務取締役に就任。一級土木施工管理技士、下水道管路管理総合技士等を保持。