
若者文化の象徴として、常に時代の中心に存在し続けるSHIBUYA109。その運営を担う株式会社SHIBUYA109エンタテイメントは今、単なる商業施設の枠を超え、「若者ソリューションカンパニー」への進化を加速させている。この変革を率いるのが、代表取締役社長の石川あゆみ氏だ。通信、出版、鉄道という多彩な業界で培った視点。そして、いかなる環境でも揺るがなかった仕事への信念は、現在の経営にどう活かされているのか。その軌跡とSHIBUYA109が描く未来に迫る。
異業種での経験が導いた「パートナーと共創する」経営哲学
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
石川あゆみ:
大学卒業後は通信キャリアに入社しました。法人営業やモバイルインターネットサービスのコンテンツ開拓を担当しました。その後、雑誌が好きだったことから出版社のIT部門へ転職し、デジタルコンテンツの企画に携わっています。
2008年に東急電鉄(現・東急株式会社)に入社し、共通ポイント事業やリテール事業の戦略立案などを担当した後、弊社の社長に就任したという経緯です。
通信や出版の会社で担当していたのは、いずれもプラットフォーム(仕組み)をつくる仕事でした。良い仕組みを整えると、多くのパートナー企業が集まり、共に事業を大きくすることができます。この考え方は、商業施設の運営と全く同じです。テナント様は、場所を貸し借りする関係ではなく、共に価値を創造する対等なパートナーと捉えています。このように、単独ではなくパートナー企業とともに事業をスケールさせていく考え方は、これまでのキャリアで得た大きな財産です。
ーー大切にされている信条は何ですか。
石川あゆみ:
「周囲の人々とは対等なパートナーである」という意識を常に持っています。上司やメンバーという立場に関わらず、互いに助け合っている。だからこそ、自分の役割はきちんと果たそうという気持ちになります。
また、仕事でもプライベートでも「やめることを先に決める」ことを心がけています。すべてを完璧にこなすことはできないので、自分にとって本当に大切なことを見極め、それ以外は手放す勇気を持つことで、やるべきことに集中できると考えています。
「若者文化共創拠点」へ SHIBUYA109が描く未来

ーー貴社の事業内容と、その強みについて教えてください。
石川あゆみ:
事業の基軸は「SHIBUYA109」などの商業施設運営です。それに加え、IP(キャラクターなどの知的財産)コンテンツのポップアップストア運営や、若者をターゲットにした企業向けソリューション事業などを展開しています。特に企業向けソリューション事業では、社内の若者特化の研究機関「SHIBUYA109 lab.」を基盤としながら、私たちが培ったリアルなマーケティングノウハウを外部の企業様にご提供できる点が強みです。
私たちは、「Making You SHINE! 〜新しい世代の“今”を輝かせ、夢や願いを叶える〜」という理念を掲げています。その理念のもと、若者と一緒に新しい文化を創り出す「若者文化共創拠点」を目指しています。そして、「若者ソリューションカンパニー」として、私たちの知見を活かし、若者と企業の皆様との架け橋になる。それによって、より多くの楽しいことを社会に広げていきたいです。
ーー今後の事業展望についてお聞かせください。
石川あゆみ:
企業向けソリューション事業を拡大するためにも、象徴的な商業施設であるSHIBUYA109が圧倒的な「若者文化共創拠点」へと進化することが不可欠です。今の若者の変化を的確に捉え、「自分たちのことを一番わかってくれる場所」であり続ける必要があります。
また、社員やお客様、若者を応援する存在として、彼らが生き生きと過ごせる場所づくりを大切にしています。若者が抱える課題なども、企業様と連携して取り上げ、彼らの一歩を後押ししていきたいです。
若者の情熱が会社を動かす 未来を担う人材への期待
ーー貴社で活躍されている社員の方々にはどんな共通点がありますか。
石川あゆみ:
自分の軸を持ち、「これがいい」という情熱を素直に表現できる人ですね。弊社は一人ひとりの裁量が大きいので、自発的にアイデアを出し、変化を恐れずに挑戦できる柔軟性を持った人が活躍しています。
ーー若手社員の方々は、どのように活躍されているのでしょうか。
石川あゆみ:
弊社は年齢や役職にかかわらず、大きな裁量を持って働くことができます。若手社員が自身のリアルな感覚を活かした企画を展開し、お客様が楽しんでいただけている姿を直接感じることができる。そのダイレクトな反応は、大きなやりがいと成長につながる、弊社ならではの経験だと思います。
今後、若手の人材には、やりたいことを臆せず積極的に発信してほしいです。社員自身が満たされていなければ、お客様に良いサービスを提供できるはずがありません。「これが絶対いいんだ」という情熱を、私たち経営陣に教えてほしい。その熱い思いを事業として形にするのが私たちの役割です。若手のプライドと情熱が、会社をさらに進化させる原動力になると信じています。
ーー目指している会社の姿をお聞かせください。
石川あゆみ:
過去に評された「若者の聖地」という評価に留まらず、今の若者たちに「自分たちのことを一番わかってくれるブランドだ」と心から思ってもらえる、圧倒的なブランド価値を確立したいです。その独自性を基盤に、企業向けソリューション事業でも「若者マーケティングの第一人者」として、企業の皆様に確かな成果をお届けすること。それが、近い未来に目指す姿です。
編集後記
通信、出版、鉄道という多彩なキャリアで培われた「プラットフォーム思考」。それは、単に場を提供するのではなく、集うパートナーと共に価値を「共創」する姿勢だ。この哲学こそ、SHIBUYA109を文化の発信地から、若者と社会をつなぐソリューションカンパニーへと進化させる原動力なのだろう。若者の情熱を信じ、未来を切り拓こうとする同社の挑戦から目が離せない。

石川あゆみ/1977年愛知県生まれ。名古屋大学卒業。通信事業や出版系企業などを経て、2008年に東急電鉄(現・東急株式会社)に入社。2021年に株式会社SHIBUYA109エンタテイメントの代表取締役社長に就任。企業理念「Making You SHINE! 〜新しい世代の“今”を輝かせ、夢や願いを叶える〜」に基づき、商業施設運営を基軸に様々な事業を展開している。