
クラウドの普及やDXの進展により、企業のITインフラに求められる役割が大きく変わりつつある。常時変化する事業環境に合わせ、ITインフラの継続的な運用・改善を行うことが、企業の競争力やリスクへの対応力の向上に直結する時代になってきているのだ。そうした中、クラウド、サイバーセキュリティ、システムマネジメントの三領域をワンストップで支援するアイティーエム株式会社は、「構築」だけでなく「運用」の価値を見つめ直し、着実に成長を遂げてきた。代表取締役社長である河本剛志氏に、これまでの歩みと、変化の時代における事業の在り方について話をうかがった。
システムは「つくって終わり」ではない
ーーこれまでの経歴についてお聞かせください。
河本剛志:
私は子どもの頃からプログラミングに親しみ、高校・大学でも独学でコードを書き続けました。当時「IT」という言葉は今ほど一般的ではなかったのですが、「コンピューター関連は将来性がある」と漠然と感じていました。
そこで就職した上場企業のメーカーでは、アプリケーションソフトの開発を担当しました。アセンブラ言語、FORTRAN、C言語など多くの開発言語や、Windows 1.0や2.0といった黎明期のOSに触れるなど、時代の最先端を走る環境でした。その後、通信キャリアの研究開発部門へ移り、より技術的な側面に深く関わりました。
20代中盤で通信キャリアにいた頃の経験は、とても印象に残っています。まったく知識のない分野で150人規模の大プロジェクトに配属され、議事録や調整業務に四苦八苦しました。毎日3〜6時間の会議に出ては、何十ページもの記録を取る日々。当時はついていくだけで精一杯でしたが、「これはいつか自分の力になる」と信じて取り組みました。結果として視野が大きく広がり、今の自分を形づくる貴重な経験になっています。
ーー起業のきっかけを教えてください。
河本剛志:
メーカーを経て通信キャリア業務経験後、公共性の高い第三セクター(※1)に転職し、ここでの経験が起業の決定打となりました。
当時はIT業界全体が盛り上がり始めており、次から次へとシステムがつくられていました。その結果、きちんと面倒を見てもらえないシステムが出てきてしまったのです。お客様が困っている姿をたくさん見ました。そこで「つくるだけではなく、使い続けられる形で提供する」という発想が自分の中に芽生えたことが起業のきっかけの1つです。
もう1つは、第三セクター特有の難しさ。意思決定に時間がかかる上に、携わる案件の傾向が変調になったり、チャレンジがしにくい環境であったり、自分の意見がなかなか反映されない事もありました。「それなら自分たちでやってみよう」と仲間で立ち上げたのが弊社の始まりです。ITシステムの運用や管理を、外部から支援・代行するMSP(Managed Service Provider)の草分けとして事業を開始し、スタートアップの会社を支えるべく、コンピューター通信のアドレス変換に関する技術が特許を取得でき、経営基盤を支えてくれたことも幸運でした。
(※1)第三セクター:行政(公的機関)と民間企業が共同で出資・運営する事業体
「2プラス1」の事業でお客様を継続的に支援

ーー貴社の事業内容を教えてください。
河本剛志:
弊社の事業は「2プラス1」、具体的には「クラウド」「サイバーセキュリティ」、そしてそれらを支える「マネジメント」の3つの柱で成り立っています。クラウドではAWS、Azure、さくらクラウドなどを組み合わせた導入・移行支援、サイバーセキュリティでは脆弱性診断やホワイトハッキングなどに幅広く対応。この2つをお客様が継続して使い続けられるよう支えるのがマネジメントサービスです。特に複数のクラウドサービスを組み合わせて利用するマルチクラウドや、クラウド&オンプレミスのハイブリッド環境への対応は、そのセキュリティ対策も含め弊社の真骨頂です。
中でも弊社の強みは、システムを「つくって終わり」ではなく「動かし続ける」視点で捉えてきた点です。お客様のシステムを動かし続けるため、弊社は1997年の設立以来あらゆるベンダーのサービスを活用してきました。この運用経験は、他社にはなかなか真似できないでしょう。2017年にさくらインターネットと提携し、提供できる幅も広がりました。クラウド、セキュリティ、マネジメントをワンストップで支援できる体制を築いています。
ーーさくらインターネットとの連携について具体的な取り組みをお聞かせください。
河本剛志:
たとえば、さくらインターネットは「さくらのクラウド」というサービスを提供しています。このサービスを使うお客様に対し、弊社がオンプレミスからクラウドへのマイグレーション(移行)支援やセキュリティサービスを提供することで、システム全体の信頼性を高めています。ガバメントクラウド(※2)への対応支援もその一つです。同時にクラウドの特性上特に重要なセキュリティ対策も提供しています。全国のお客様への展開も進み、グループ間連携による売上が目に見えて伸びています。
(※2)ガバメントクラウド:デジタル庁が整備する国や地方公共団体等が利用する共通のクラウドサービス利用環境
ーー今後の注力テーマを教えてください。
河本剛志:
現在の3本柱を強化しつつ、社内外でのセキュリティ教育にも注力します。クラウド時代のセキュリティリスクはより複雑化しており、社員全員が一定のリテラシーを持つことが不可欠だからです。また、クラウドとサイバーセキュリティを中心とした営業活動にフォーカスし、積極的なマーケティングと新規のお客様への価値提供を進めて行きます。
お客様、取引先、社員、関わるすべての人を笑顔にしたい
ーー社員の働き方について、どのような取り組みをされていますか。
河本剛志:
私自身もリモートワークを基本としながら、月1回の全社交流会を大切にしています。柔軟な働き方を整えたことで、プライベートの時間活用や子育てや介護との両立も可能になり、家族と触れ合う時間も多くなりました。また、多くの仲間が入社していますが、結果的に女性の社員も増加しました。組織としての一体感や柔軟性、社員一人ひとりの成功を大切にしています。
採用においては、スキルよりも、挑戦する姿勢と行動の速さを重視しています。また、会社の文化をともに築こうとする姿勢や、自ら「こうしたい」と意思表示できる方を求めています。スキルは後からいくらでも身につけられますから。
ーー最後に、貴社のビジョンについてお聞かせください。
河本剛志:
弊社は「技術力と誠実さで社員とお客様の成功を実現する」をビジョンに掲げています。そして、「ITで関わるすべての人を笑顔にしたい」これは創業以来の変わらぬ思いです。ITをマネージするアイティーエムは、お客様、取引先、社員など、弊社に関わるすべての人が「この会社に関わってよかった」と寄り添っていただける場所と価値を提供し続けます。
また、今はITに関する技術進歩がかなり早く、自社、自分で技術をすべて網羅するのが難しい時代と考えています。だからこそ、「誰が、どの会社が何をできるか」を知っていることが大切だと考えており、協働もポイントだと考えています。役割とスキルを共有し合える信頼関係を土台に、最適なチーム編成で課題解決に挑む会社であり続けたいです。
編集後記
河本氏が現場で培った経験を軸に、実直にIT運用の価値を磨き続けてきた同社は、派手さよりも確実性を重んじる。「つくって終わりではなく、動かし続ける」という河本氏の言葉からは、確実性に対する強いこだわりが伝わってきた。また、技術を網羅できない時代だからこそ、「誰が、どの会社が何をできるか」を知るという視点にも共感を覚える。お客様や社員との信頼関係を土台とする経営は、これからのIT業界における一つの理想形だと感じた。

河本剛志/1968年神奈川県出身。1990年に東証一部メーカーに入社、アプリケーション開発と特許開発、新規事業開発に従事。通信キャリア研究開発業務や通信系第三セクターの業務経験を重ねた後、1997年株式会社ネットエンズ(現・アイティーエム株式会社)を設立。2017年よりさくらインターネットのグループ会社となる。2020年、同社代表取締役社長に就任。クラウド、サイバーセキュリティにマネジメントを加えた「2プラス1」事業を展開中。