
エナジーウィズは、昭和電工マテリアルズ株式会社(現・株式会社レゾナック)の蓄電デバイス・システム事業部門から蓄電池専業メーカーとして独立し、2021年に新たに誕生した会社だ。環境意識の高まりにより蓄電池事業が注目を集める中、確かな技術力と品質が評価され、躍進を続けている。今回、代表取締役 社長執行役員の吉田誠人氏に、研究者時代に直面した大きな失敗からの学びや今度の展望などについて話をうかがった。
ビジネスとして大切なことを学んだ研究者時代の失敗
ーーまず吉田社長のご経歴についてお聞かせください。
吉田誠人:
大学では理工学研究科に進み、遷移金属硫化物の研究をしていました。そうした中、水素を吸蔵する水素吸蔵合金に興味を持ち、研究者として開発に携わりたいと思い、当時の日立化成工業に入社しました。
ただ、メインに取り扱っていたのはプラスチック製品などに使われるポリマー素材だったため、入社してしばらくは自分が取り組みたい研究ができずにいました。そこで上司に相談し、ニッケル水素電池の製造をしていた新神戸電機(弊社の前身)で基礎を学ぶ機会を与えてもらい、スイスにあるジュネーブ大学にも留学し、研究にのめり込みました。
ーー研究に携わる中で印象的だった出来事を教えていただけますか。
吉田誠人:
その後、新神戸電機でニッケル水素電池の開発プロジェクトに参加することになりました。会社は多額の予算をかけ、新しい工場や設備を導入したのです。ところが、アメリカの会社からITC(米国国際貿易委員会)に提訴され、やむなく撤退することになってしまいました。この失敗から、技術者も知財で自社の技術を守ることの大切さを身をもって学びました。
他社との差別化を意識した製品開発
ーー改めて貴社の事業内容についてご説明いただけますか。
吉田誠人:
弊社は、創業(日本蓄電池製造株式会社)の大正5年より、109年にわたって鉛蓄電池製品の開発・製造・販売を行っています。製品は主に、自動車バッテリーと産業用鉛蓄電池に分かれます。自動車バッテリーはエンジンの始動や、ライト・セキュリティシステムを動かすための補機用途に使われていて、新車用は国産自動車メーカーに多数搭載されているほか、自社ブランドの補修用バッテリーも手がけています。
産業用鉛蓄電池は、データセンターや原子力発電所などの非常用バックアップ電源や、風力発電の系統用蓄電池、フォークリフト用の大型電池などを製造しています。また、国内シェアの約10%を占めるゴルフカートも手がけています。
さらに、蓄電にまつわるサービスやソリューション事業を展開しています。蓄電池や電源システムの設置工事はもちろん、電池の状態を測定して異常が起きていないか確認したり、電池の使用状況を監視してデータ化することで寿命を長持ちさせる使い方を提案したりしています。また、自社グループで定期的なメンテナンスや、使用済み製品と新品の交換を行うなど、導入からアフターサービス、廃棄までを自社グループ一貫で提供できるのが強みです。
ーー貴社の製品のアピールポイントをお聞かせください。
吉田誠人:
鉛蓄電池はほぼ100%リサイクルが可能なため、廃棄物の削減につながり、資源の循環ができるのが大きなメリットです。鉛は新しいバッテリーに使うことができますし、本体に使われるプラスチックも再生利用が可能です。また、一度フォークリフト用蓄電池として役目を終えたものを再度工場で充電し、今度は再エネ用途として出荷するなど、リユースもすることができます。
そのため脱炭素や循環型社会の実現が重視されている現代で、弊社の製品価値のアピールにつながっています。また、こうした環境にやさしい製品を使用することは、お客様にとっても企業価値を高める要因の一つとなります。弊社では、再生鉛を使用した製品をお使いいただいているお客様に対して「リサイクル証明書」を発行するなどして、お客様側のPRにもつながる施策を進めることで、ステークホルダーの皆様といっしょに循環型社会に貢献しようと取り組んでいます。
製品の付加価値となる品質の追求
ーー鉛蓄電池メーカーとして特に意識している点を教えていただけますか。
吉田誠人:
弊社は企業理念に掲げるほど、品質に徹底的にこだわっています。従業員の意識としても、品質に対する思い入れが強いと感じることが多いです。また、過去に私が日立化成(現在のレゾナック)で再生医療事業に携わった際、同じ部署にいた欧米のビジネスパーソンは皆、口を揃えて「Quality is No.1」、つまり「品質こそ利益の源泉」だと言っていました。
このときの印象が強く残っていたこともあり、企業理念を決める際、最初に「品質へのこだわり」を盛り込みました。これからも質の高い製品をお届けし、弊社の鉛蓄電池を世界へ届けていきます。
ーー今後の注力テーマについてお聞かせください。
吉田誠人:
今後、最も力を入れていくのは、蓄電にまつわるサービスやソリューション事業の拡充です。現在は電池を販売するだけでなく、施工から保守・点検、交換までトータルにお客様のニーズに応えるサービスを展開していますが、さらにソリューションを強化します。社会全体として脱炭素化を推し進めるなか、リサイクルを通じて環境にもお客様にもやさしいビジネスモデルを提案し、より環境負荷が少ない新製品の開発に努めていきます。
また、現在の監視システムに加え、省エネ・コストカットをさらに加速させるエネルギーマネジメントシステムなど新事業も展開していく予定です。これらのソリューションは、弊社が100年以上、質の高い蓄電池を提供してきたからこそチャレンジできると思っています。
また、海外展開も強化していきたいと考えています。グループ会社である台湾のCSB Energy Technology社は、売上の大半が海外で、ヨーロッパ、米国、中国、オーストラリアに商品を供給しています。タイのThai Energy Storage Technology社は、東南アジアと中東を中心に販売を行っています。こうしたすでに諸外国との取引実績がある海外拠点とのシナジーを活かし、グループとして力を最大化していく方針です。
さらにもう一つ取り組みたいのが、技術、営業、コーポレート部門のDX推進です。具体的には実験データの統計解析を自動化し、検査頻度を大幅に削減しました。さらに営業部門でのDX活用も進めており、顧客ターゲティングや需要予測などに取り組んでいます。
今は業務の効率化を中心に進めていますが、最終的にはDXを活用した新しいビジネスモデルの構築を目指しています。
一人ひとりの能力を重視した組織づくり

ーー社内の雰囲気についてお聞かせいただけますか
吉田誠人:
真面目で、コツコツと愚直に仕事に向き合う人が多いです。これは弊社の文化が影響していると感じています。大学名や学歴を重視せず、一人ひとりのポテンシャルを見極め、社員が会社にどれだけ貢献しているかで判断する姿勢を大切にしている結果だと思います。
そのため自然と良い人間が集まり、自分だけ手柄を得ようと考えるような人はいません。新しい価値観を取り入れつつ、各自の能力を評価する文化はこれからも守り続けていきたいと思っています。
ーー貴社が求める人物像について教えてください。
吉田誠人:
将来のことを意識しながら、自分たちは何をすべきか考え、行動できる人に来ていただきたいです。昨今では環境破壊が進み、ビジネスでも環境保護の意識が高まっています。そのため、「どうすれば脱炭素につながるか」、「循環型社会の実現に貢献できるか」を軸に、営業や企画・製品開発に取り組んでもらいたいです。柔軟な発想力を発揮してもらい、弊社の成長の一翼を担ってもらえればと思っています。
編集後記
研究者として次世代の蓄電池開発に心血を注ぐ中、特許の問題でプロジェクトがすべて白紙となった苦い経験をした吉田社長。その失敗をバネとし、今は経営者として自分たちの技術を守りながら、社会に役立つ製品を生み出し続けている。同社はこれからも環境に配慮したものづくりを進め、持続可能で便利な社会の実現に貢献していくことだろう。

吉田誠人/千葉県出身。1987年、当時の日立化成工業株式会社に入社。研究開発者としてニッケル水素電池の材料開発に携わり、1996年に博士号を取得。筑波研究所長、昭和電工マテリアルズ株式会社(現・株式会社レゾナック)で執行役員兼エネルギー事業本部副本部長などを経て、2021年にエナジーウィズ株式会社の代表取締役社長に就任。