
朝日電装株式会社は、1995年の設立以来、屋外広告やサイネージ分野で業界をリードしてきた企業だ。特に大阪・道頓堀のグリコ看板やさっぽろテレビ塔の電光時計やイルミネーションをはじめとする街のランドマーク的存在となる大型看板を数多く手がけ、その卓越した技術力と豊富な実績に高い評価が寄せられている。
設計から製作、設置、メンテナンスまでを一貫して提供する体制は、他社にはない強みだ。今回は、2023年に代表取締役に就任した樋宮直明氏に、これまでのキャリアや同社の取り組み、そして未来への展望についてうかがった。
業界の匠へと至る経緯と挑戦
ーー貴社に入社した経緯と、その後のキャリアについてお聞かせください。
樋宮直明:
就職活動をしているときに、就職情報誌でグリコの看板写真が載っている朝日電装の求人を見つけ、興味を持ったのがきっかけでした。それから面接を受け、採用が決まりましたが、今思えば良い選択だったと思います。
入社後、比較的早い段階で経営者としての可能性を漠然と意識するようになりました。特に根拠があったわけではないのですが、何となく自分にはその可能性があると思っていたのです。ただ、実際にその道を歩むためには多くの経験を積む必要があり、入社直後は業界特有の厳しい環境や、得意先からの厳しい要望など、数々の困難に直面しました。それでも、経験を重ねる中で少しずつ自信を得ることができたのだと思います。
ーー現場での経験について、特に印象に残っていることはありますか?
樋宮直明:
入社当時は、今のようにネット環境が整っておらず、全ての作業が手作業で、見積りも電卓で計算していました。看板業界の専門用語や知識を覚えることから始まり、連続徹夜の看板取付作業や複雑な行政手続きなど、さまざまな苦労の記憶があります。若かったからこそ乗り越えられた部分もありますが、今振り返ると本当に厳しい環境でしたね。
たとえば、看板設置に至るには、地元の行政や警察との綿密な調整が必要で、一つの作業を進めるのにも多くの人の協力と時間が必要でした。こうした経験を通じて、現場の厳しさだけでなく、柔軟に対応する力や忍耐力を自然と身につけることができたと感じています。
確かな技術と実績が築く圧倒的な強み

ーー貴社の強みは何だとお考えですか?
樋宮直明:
弊社の最大の強みは、設計から製作、設置、メンテナンスまでを一貫して提供できるワンストップサービスにあります。このサービスは全国で対応でき、特に大阪や東京のような都市部では、複雑な行政手続きや規制に対して、長年の経験と蓄積したノウハウによって迅速かつ的確な対応が可能です。お客様にとって信頼できるパートナーであることを常に目指しており、その姿勢が弊社の競争力を支えているのだと思います。
さらに、大型案件における独自の技術力も弊社の強みです。たとえば、道頓堀のグリコ看板のようなプロジェクトでは、視認性や耐久性を最重視し、素材選びから設計段階に至るまで徹底的に品質にこだわって取り組みます。このような細部への配慮と高い技術力が、業界内での高い評価に繋がっていると自負しています。
ーー差別化戦略の核となる要素についてお聞かせください。
樋宮直明:
弊社は「人が集まる場所」に特化した看板製作と施工を強みとしており、特に訪日旅行客の多い街や繁華街において、人目を引く独創的なデザインと確かな施工力が際立っていると考えています。また、複雑な行政手続きや現場環境に柔軟に対応できる点も、長年培ってきた経験の賜物です。こうした取り組みによって他社との差別化を図りながら、常に新たな価値を提供し続けています。
次世代を担う人材育成と組織改革
ーー人材戦略について、具体的にはどのような取り組みをしていますか?
樋宮直明:
デジタルサイネージや大型ビジョン案件の増加に伴い、現場管理、営業、設計など、幅広い分野で人材が不足しており、経験者の中途採用と新卒採用の両方で積極的な採用活動を行っています。
また、経営陣の高齢化が進む中で、幹部候補の育成にも注力しており、特に30代の社員には早い段階でマネジメント経験を積ませ、次期経営陣としての成長を促しています。このように、即戦力となる人材の確保と並行して、組織の新陳代謝を促進し、持続的な成長を支える次世代リーダーの育成に力を注ぐことで、将来を見据えた人材戦略を展開しています。
ーー人事評価制度についても教えてください。
樋宮直明:
従来の年功序列型から、成果や成長度合いを重視する評価制度に刷新し、社員一人ひとりが公正に評価される仕組みを整え、モチベーションの向上を図っています。また、公平性と柔軟性を重視しながら、組織全体のパフォーマンス向上を目指しています。
未来をつくる価値創造への果敢な挑戦
ーー最後に、今後の展望やビジョンについてお聞かせください。
樋宮直明:
大型サイネージやデジタルビジョンといった戦略的分野での事業拡大を進める所存です。今まで以上に公共的なスタジアム、アリーナ等での大型サイネージの多数設置を目指しています。
加えて、社員一人ひとりが働きやすい環境の整備に注力していきます。「この会社で働いて良かった」と心から思える職場文化を築き、社員のやる気と成長を支える基盤を整えたいと考えています。また、地域に根ざした看板づくりで「街の顔」をつくり、街の景観を彩りより良くする使命を胸に挑戦していきたいですね。
編集後記
樋宮代表の言葉からは、厳しい環境を乗り越えた経験が、現在の経営に深い洞察と確かな自信を与えていることが伝わってきた。社員への思いやりと地域社会への貢献を大切にしながらも、大型サイネージや看板のデジタル化といった新たな挑戦に果敢に挑む姿勢から、力強いリーダーシップが感じられる。

樋宮直明/1973年兵庫県生まれ。桃山学院大学卒業後、1995年に朝日電装株式会社に入社。2014年から2019年まで東京支社長を務め、2023年に代表取締役に就任。設計から製作、設置、メンテナンスまでを手がける看板製作業のリーディングカンパニーを率いる。