※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

一人の内定者が内定を辞退すると約90万円の損失、一人の社員が退職すると約700万円の損失が出るといわれている。社員をいかに定着させ、活躍させるかということは企業にとって大きな課題である。その課題に対し、離職防止とエンゲージメント向上を支援する組織開発サービスを提供しているのがバヅクリ株式会社だ。ユニークな発想で次々と新規事業を展開する同社の強みと展望を、代表取締役社長の佐藤太一氏にうかがった。

自身の原点である「遊び」をビジネスに

ーー佐藤社長のご経歴をお聞かせください。

佐藤太一:
大学院卒業後、株式会社チェンジに入社し、業務組織コンサルティングや組織開発、人材育成を担当しました。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに転職し、経営企画として戦略策定や事業再編に携わりました。

当時から「30歳くらいで起業するだろうな」と思っていました。学生時代から起業していましたし、父や祖父から経営者としての遺伝子を受け継いでいる部分もあるかもしれません。

「起業前にビジネススキルを極めたい」と考え、コンサルティング企業アクセンチュアで大手企業の事業戦略を担当しました。しかし、クセンチュア時代に激務が原因で、自殺未遂を経験したのです。死ぬ直前に見ると言われる走馬灯で、私が思い出したのは小学2年生で秘密基地をつくっていた記憶でした。この時、自分の原点は「遊び」だと気づきました。

この経験から、「遊び」の体験を共有できるプラットフォーム「プレイライフ」を立ち上げました。ユーザーが体験した思い出をモデルコースとして投稿し、遊びのノウハウを共有できるサービスです。途中からは大手企業にも広告を出稿していただき、サービスを拡大。ユーザーは月間400万人以上、モデルコースは2万本以上に達しました。

「遊び」を法人向けサービスへ展開

ーー貴社の主要サービスについて教えてください。

佐藤太一:
遊びをつくることに自信がありましたが、SNSにはさらに面白いことをしている人が大勢いることを知り、自分の力不足を痛感しました。そこで、ターゲットを個人から法人に切り替え、「遊び」とBtoBをかけ合わせたビジネスとして考えたのが、オンライン研修サービス「バヅクリ」です。

「バヅクリ」は組織開発をお手伝いするサービスで、参加者同士がオンラインでコミュニケーションを取りながら学べるプログラムを用意しています。

たとえば「ムキアイ」は遊びの要素を取り入れた対話型の実践研修です。年の離れた相手や会社と従業員の関係性など、難しいと感じられるコミュニケーションのスキルを楽しみながら学べます。研修後は、社員同士で目標を共有しながらチームビルディングに取り組んだり、社員同士の関係性を深めたりすることも可能です。

離職や内定辞退を防ぐため、従業員の会社に対する貢献意欲(エンゲージメント)の向上を目的としたサービス「らくらくエンゲージメント」も提供しています。離職の理由は人間関係とコミュニケーションに起因することが大半です。そのため、相手との距離の縮め方や人間関係の構築方法から始め、やりがいを感じてもらうための対話法などを伝えています。

クライアント企業を働きたい組織に変える「企業変革請負人」

ーー貴社の最大の強みは何でしょうか。

佐藤太一:
人材育成、組織開発、制度設計の3つの領域でアプローチできる点です。一般的な研修会社は研修のみ、コンサルティング会社は制度設計のみと、提供範囲が限定的です。弊社ではこれら全てに対応でき、さらに「遊び」が大切な組織開発は得意分野といえます。

また、弊社が提供するのは教科書のような研修ではありません。実践しながら学ぶワークショップ型の研修です。心理学やエンゲージメント理論(従業員の貢献意欲に関する理論)に基づき、遊びの要素も取り入れているため、本音で話せる関係性を構築できます。

ーー過去ご苦労されたことはどんなことですか。

佐藤太一:
2年前、私の経営手腕や人材育成の力が足りず、経営危機に陥りました。事業再生のため7人の役員に退職してもらい、私も役員報酬を半分にしました。CFOと株主には「半年後につぶれる」といわれましたが、2.2億の赤字から半年後には黒字に転換しました。

今期は前期比で5〜6倍に伸びています。将来のIPO(株式上場)も目指しているので、来期はさらに売上を伸ばしたいです。

「定着と活躍といえばバヅクリ」へ

ーー今後の事業戦略をお聞かせください。

佐藤太一:
既存の事業では、コンサルティングと研修の領域を伸ばしていく方針です。そのために、現在、月100件ほどのお問い合わせを、月間300件まで増やしたいと考えています。

同時に、既存のお客様に対するより付加価値のあるサービスの提案や関連サービスの追加提案の仕組みも構築しています。また、大企業だけでなく中小企業にも販路を広げていきたいです。

キャリア採用で入社した社員向けのオンボーディング(定着支援)代行の新規事業もリリース予定です。社内交流のワークショップから採用コンサルティングまで、一貫して関わる体制を整えていく計画を立てています。

ーー将来的にはどのような姿を目指しているのでしょうか。

佐藤太一:
人や組織にとって「遊び」が大切だということを証明していきたいです。たとえば今、「病院✕遊び」というビジネスを考えています。「病気」や「死」という暗いイメージがつきまとう病院に遊びの要素をプラスして、病院をプロデュースしたいと考えています。

そして最終的には、この世から孤独をなくしたいです。物理的な孤独ではなく、「隣同士で仕事をしているのに上司が全然向き合ってくれない」というような、精神的な孤独感です。それがなくなれば離職は減り、成長意欲が湧くはずです。「企業変革請負人」として、大手コンサルティング会社や研修会社ができないことを成し遂げ、「定着と活躍といえばバヅクリ」といわれるポジションを目指します。

編集後記

大手企業の圧倒的なスピード感やスケール感の中で経験を積んだ佐藤氏のビジネスセンスと説得力は卓越している。「遊び」を軸に据えたビジネスもユニークだ。言葉の端々から「こんな企業にしたい」「こんな世の中にしたい」という熱い思いが伝わってきた。明確なビジョンを持つ同氏なら、どんな困難も乗り越えていくだろう。

佐藤太一/2007年、早稲田大学大学院国際情報通信研究科修了。同年、株式会社チェンジ入社。大手通信・IT会社のコミュニケーションプランニング、業務改革、内部統制対応、新規事業策定を経験。2010年より株式会社DeNA経営企画本部にて業務改革、事業戦略策定に従事したのち、2011年よりアクセンチュア株式会社にて事業戦略に従事。2012年、株式会社みんなのウェディングにて経営企画部長兼IPO室長として事業戦略、ファイナンス、コーポレートガバナンスに従事し、2013年にマザーズ上場を果たす。2013年にPLAYLIFE株式会社(現・バヅクリ株式会社)を創業。2020年に人事コンサル/研修/制度設計サービス「バヅクリ」をリリース。