
引っ越し事業から始まった株式会社パパネッツ。同社は顧客の要望に応え、新たなサービスを生み出し社会のニーズに応え続けている。その根底には、代表取締役社長である伊藤裕昭氏の確固たる信念がある。「人が嫌がることも引き受け、常に前向きに挑戦し続ける」という信念だ。上場企業の信用力を背景に、社員が生き生きと働き、顧客と共に成長する未来を描く伊藤氏。その事業哲学と未来への展望を尋ねた。
苦労を乗り越え掴んだ「御用聴き」の神髄
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
伊藤裕昭:
16歳のときに始めた、引っ越し業者のアルバイトが最初のキャリアです。昼は引っ越し、夜は食品工場でソーセージ製造機械の洗浄と、二つのアルバイトを掛け持ちしながら高校に通いました。何事にも「自分で何とかしよう」という思いが強く、体を動かして働き、目に見える成果が出る仕事が好きでした。
高校卒業後に一度就職したものの、やはりアルバイト時代の会社が良いと感じ、株式会社三協運輸サービスに入社しました。
ーー引っ越し事業以外の新しい取り組みについてお聞かせください。
伊藤裕昭:
もともと弊社は引っ越し事業がメインでしたが、お客様から引っ越し以外の困りごとに関する相談が増えてきました。そこで2013年、引っ越し以外のさまざまな「御用聴き」を専門に行う会社として、株式会社パパネッツを分社化したのです。分社化して以降、運輸サービスという枠にとらわれず、お客様の要望に応える中で新たな事業を次々と生み出してきました。
たとえば、コロナ禍では療養施設の消毒作業を依頼され、売上の減少分を補いました。誰もやりたがらない危険な仕事でしたが、「困っている人がいるならやろう」という思いで取り組みました。
ーー貴社の社風について、その原点をお聞かせください。
伊藤裕昭:
私が入社した当初から、弊社は「こんなことが事業になる」と言われれば何でも試す、非常に柔軟な会社です。創業者が柔軟な考え方の持ち主で、あらゆる仕事を任せてもらえたので、毎日が本当に楽しかったです。現在のパパネッツもその文化を受け継いでいます。「お客様の困りごとを解決することが事業になる」という考えは、創業当時から変わっていません。
人が輝く組織と揺るぎない経営哲学

ーー社員の方々のために、特に大切にされている企業文化や制度はありますか。
伊藤裕昭:
私は「仕事が全てではない」と考えています。社員が「自分が休んだら仕事が進まない」などと思い悩むことがないよう、会社全体でサポートする体制を整えています。また、社内に年功序列という考え方はありません。社員の本質を見て、やりたい仕事があれば抜擢し、任せるようにしています。「人間関係さえしっかりしていれば、会社に行くのが楽しくなる」。この雰囲気を大切にしており、私自身が、人間関係の良さから楽しく働けた経験が基になっています。
ーー経営哲学や信念は、どのようなご経験から培われたのでしょうか。
伊藤裕昭:
多くの人との出会い、そしてさまざまな言葉に触れる中で、「人のためにしたことは、必ず自分に返ってくる」という因果応報の考えを強く持つようになりました。社長という立場に固執するつもりはなく、会社の規模が変われば、私自身も常に学び、成長しなければならないと考えています。現状に甘んじることなく、常に前を向いて挑戦する。そして、今ある状況が当たり前だとは思わないようにしています。
未来を創造する「御用聴き産業」への挑戦
ーー貴社の強みは何でしょうか。
伊藤裕昭:
弊社の強みは「人間でなければできないこと」を実践している点です。デジタル技術を活用し、不動産巡回管理システムの特許なども取得していますが、根底にあるのは現場力です。人が嫌がる仕事でも地道に、そして丁寧にやり遂げる力です。そして、営業戦略の中心は「御用聴き」にあります。営業担当者には「お客様がしてほしいこと、困っていることを聞いてきなさい」と常に伝えています。
弊社のサービスを一方的に売り込むことはしません。お客様の困りごとに耳を傾けることで、新規事業も数多く生まれています。コロナ禍で売上が落ち込んでも、売上を維持できました。療養施設の消毒作業など、世の中の困りごとを解決したからです。これは、まさにこの「御用聴き」の精神があったからです。
ーー今後、具体的にどのような展開を考えていますか。
伊藤裕昭:
「御用聴き」を一つの独立した産業として確立したいと考えています。弊社は「令和の時代だからこそ人と人とのつながりを大切にして丁寧に仕事をする」というスローガンを掲げておりますが、これはお客様のどんな小さな困りごとにも寄り添い、迅速に対応するという私たちの姿勢の表れです。将来的には、より多くの現場数を確保し、緊急対応ができる体制を整える必要があります。すでに複数の新規事業が動き出しており、それらは1年後、1年半後には売上として実を結ぶと見込んでいます。
ーー現在特に注力されている事業分野や、新たな挑戦についてお聞かせください。
伊藤裕昭:
現在の主力事業である管理会社サポート事業のさらなる成長に注力しています。これは、日本全国のアパートやマンションの巡回・点検サービスです。現在の市場シェアは1%未満ですが、これを2〜3%に拡大するだけで売上は倍以上になります。今ある事業を全国に水平展開していくことに力を入れています。
また、新たな挑戦として人財(※)採用の強化も進めています。現場で働く個人事業主のパートナーは、北海道から沖縄まで約300名に増えました。彼らは独立志向が強く、弊社での仕事を通じて、時間や場所に縛られない働き方を実現しています。さらに、シングルファミリー支援団体とも連携し、短時間でも高収入が得られる働き方を創出しています。
(※)当社では人材こそが最大の経営資源であるという考えから、人材を人財と表しております。
ーー採用活動において、どのような人材を求めていますか。
伊藤裕昭:
現場の担い手も、社内の人財も、新卒・経験者を問わず積極的に採用したいと考えています。特に学歴や知識よりも、約束を守り、お客様に喜んでいただけるような、人間性豊かな方を求めています。
また、失敗を恐れずに挑戦し、たとえ失敗してもそこから学び次に活かせる人財は大歓迎です。社員の成長が会社の成長に直結すると考えており、私たちは社員一人ひとりの「やりたい」という思いを大切にしています。
編集後記
伊藤氏の話からは、顧客の困りごとを解決することへの情熱と、社員を大切にする姿勢がうかがえる。自身の経験から培われた「人のためにすることが自分に返ってくる」という哲学は、同社の事業そのものに深く根ざしている。「御用聴き」という一見すると旧来的な手法が、実は時代を切り拓く先駆的な挑戦であることを感じさせた。

伊藤裕昭/1973年、栃木県出身。1991年7月に株式会社三協運輸サービスへ入社。2003年、子会社である株式会社パパサンの取締役に就任。翌2004年、株式会社三協運輸サービスの取締役を経て、2013年12月、株式会社パパネッツ代表取締役社長に就任。