
企業が持つ人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出す経営手法である人的資本経営。これが注目される中、組織と個人の持続的成長を支える仕組みづくりに取り組むのが、株式会社アクティブ アンド カンパニーだ。2006年の創業以来、代表取締役社長の大野順也氏は、組織人事の分野で現場と経営のギャップ解消を追求してきた。近年は、奨学金返還支援サービス「奨学金バンク」を通じて社会課題にも挑戦。企業の役割を再定義し続けている。事業に込めた想いや将来の展望について話をうかがった。
社員と経営者の間のギャップを埋め、日本経済の発展につなげる
ーーこれまでのご経歴を教えてください。
大野順也:
大学卒業後、新卒で株式会社パソナ(現パソナグループ)に入社しました。就職活動では約400社を検討した結果、人材業界が最も成長するだろうと確信し、入社を決めました。入社後は3年間営業を担当し、その後は営業推進室で企画業務に携わりました。当時は最年少の26歳で責任者になり、部署内でトップの実績を上げていたことが評価されたのだと思います。
人材業に携わる中で、「働く人がよりやりがいを感じ、生産性を高めていくにはどうすればよいか」という問いに、次第に強い関心を抱くようになりました。人材を提供するという支援にとどまらず、組織の内部に深く入り込み、より本質的な支援をしたいという思いが強まっていったのです。
また、営業として現場で活動していた頃、さらには営業推進として経営に近い立場で仕事をする中で、経営層と現場の間に生じるギャップを感じる場面が数多くありました。どちらも「会社を良くしたい」という想いは共通しているはずなのに、なぜか噛み合わない。その実態を目の当たりにし、このギャップをどう埋めるかが、企業の成長において極めて重要だと実感しました。
このギャップが解消されれば、組織はより活性化し、企業の業績向上にもつながります。さらに、その積み重ねが日本経済全体の発展にも寄与するはずです。このテーマに向き合うことが、自分の使命であると確信するに至りました。
こうした経験を通じて、「組織に深く入り込み、支援を行うコンサルティング業を自らの事業として立ち上げたい」と考えるようになりました。その実現に向け、実務経験を積む必要があると考え、トーマツコンサルティング株式会社(現デロイト・トーマツコンサルティング合同会社)に転職。人事制度の設計をはじめとする、組織・人事領域のコンサルティング業務に従事しました。
そして2006年に「企業の業績向上に資する組織活性化を実現する」という思いを胸に、「アクティベーションマネジメント」という事業コンセプトを掲げて起業しました。この思いは、今も変わることなく事業の中核を成しています。
お客様には解決できない組織人事の難題に挑む

ーー貴社事業についてお聞かせください。
大野順也:
弊社は、組織人事のコンサルティングを行っています。人事制度の構築や人材育成のコンサルティングに留まらず、従業員の情報を自動で収集し、効率的・効果的にタレントマネジメント(※1)を行うHRオートメーションシステム「sai*reco」(サイレコ)の提供も行っています。人事担当者の定型業務の効率化を通じて、生産性の高い人事体制を整えるサポートをしています。
また、人の意識を変えるには「気づき」が重要だと考えています。データ分析を通じて本人が納得し、また自発的に行動変容を促す仕組みづくりを重視しています。
(※1)タレントマネジメント:組織のパフォーマンス向上に大きな影響を与える人材の最大限に引き出すような投資や教育を行うこと
ーーお客様と接するコンサルタントに求められるものは何でしょうか。
大野順也:
「諦めない」ということです。弊社のコンサルタントは、お客様が自社内で解決できなかった課題の解決を依頼される立場です。「できない」ではなく「どうすればできるか」を考え、諦めずに取り組む姿勢こそが求められます。
就学と就職のサイクルを円滑にする新しい社会インフラ「奨学金バンク」
ーー現在、特に注力している事業があれば詳しくお聞かせください。
大野順也:
現在、最も力を入れているのが「奨学金バンク」です。35歳になっても奨学金を返還している人がいると聞き、衝撃を受けたことがきっかけでした。日本では大学生の2人に1人が約300万円の奨学金を借り、卒業後約15年かけて返還しています。この返還負担の大きさから、スキルアップのための自己投資や起業へのチャレンジ、結婚や出産といったライフステージの変化にも積極的になれないケースも見受けられ、実際に一部の自己破産者を生んでいる実態もあります。この現状に危機感を抱き、返還するタイミングでの支援に取り組むべきだと感じました。

「奨学金バンク」は、奨学金返還に悩む若者や、人手不足の企業を支援するサービスです。弊社では、これを就学と就職のサイクルを円滑にする新しい社会インフラと位置付けています。
現在、三井住友信託銀行や文部科学省、日本学生支援機構と連携して事業を進めており、今後はより多くの企業にこのサービスの価値を届けることが重要だと考えています。

ーー今後、会社としてどのような未来を描いていますか。
大野順也:
5年後、10年後には、弊社が展開するどの事業においても、業界に存在感のある企業として名を連ねる存在になりたいと考えています。これは単に売上を伸ばすという意味ではありません。業界での認知度や影響力といった点でも、確固たる地位を築きたいと思っています。
不可能はない 問題を分解し正面から向き合えば道は開ける
ーー会社を経営する上で、大切にされていることは何ですか。
大野順也:
私が経営者として最も大切にしているのは、「自分がこの世からいなくなった後も、社会に残り続ける仕組みをつくる」ことです。私たちが黎明期から携わってきた「HR Tech」(※2)は、今や一つの市場として確立されました。その歴史をつくってきた一員として、少なからず足跡を残せたと自負しています。
そして今、私たちが全力を注いでいるのが、日本初のサービスである「奨学金バンク」の取り組みです。これは単なる新規事業ではありません。「若者が借金をしないと社会に出られない国」という現状を変える、社会インフラづくりにほかなりません。社会をより良い方向へ動かす一手として、必ず成功させなければならないと考えています。
(※2)HR Tech:テクノロジーを活用して人事業務や人材マネジメントを効率化・高度化する仕組みやサービス
ーー最後に、若者へのメッセージをお願いします。
大野順也:
若い皆さんには、どんな困難に直面しても「諦めないでほしい」と伝えたいです。人生は、常に壁に囲まれているようなものです。前に進めば必ず壁にぶつかりますが、そこで逃げてはいけません。一度逃げても、また必ず同じ高さの壁が行く手を阻むからです。その壁を自らの力で乗り越えない限り、自分の世界を広げることはできません。
私自身、現在はグループ117名の会社を経営しています。しかし、目の前にある壁を乗り越えれば、次はさらに大きな企業の経営者になれるでしょう。そうなれば、今とは違う景色が見えると信じています。
壁を乗り越えた人にしか見えない景色があり、その先にこそ新しいチャンスが待っています。皆さんも目の前の困難から目をそらさず、果敢に挑戦し続けてください。
編集後記
取材を通じて印象に残ったのは、大野氏の行動の源泉にある「社会を変えたい」という一貫した意志である。人材業界の現場を知り、組織課題の本質に向き合い続けてきた経験が、今の事業構想に結実している。とりわけ奨学金問題のような根深いテーマにも実践的な解を示そうとする姿勢に、企業経営の枠を超えた覚悟を感じた。同社の取り組みが、これからの組織づくりと社会課題解決の架け橋となることを期待したい。

大野順也/1974年、兵庫県出身。大学卒業後、株式会社パソナ(現・パソナグループ)で営業を経験後、営業推進、営業企画部門を歴任し、同社関連会社の立ち上げなども手がける。その後、トーマツコンサルティング株式会社(現・デロイト・トーマツコンサルティング合同会社)で組織・人事戦略コンサルティングに従事。2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニーを設立し、代表取締役社長に就任。現在に至る。