※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

京都府綾部市に本社を置き、自動車や電機・電子部品、精密機器向けに締結部品(ねじやボルトなど)を製造するほか、ねじ締め機や検査・分析装置、医療機器なども開発・製造する日東精工株式会社。人口約3万人の街からグローバルに事業を展開し、2025年には『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞の「地方創生大臣賞」を受賞するなど、地域貢献にも力を注ぐ。本記事では、綾部市で生まれ育ち、同社一筋でキャリアを歩んできた代表取締役社長の荒賀誠氏に、地域への深い思い、独自の経営哲学、そして未来への展望をうかがった。

信頼と経験が織りなすキャリアパス

ーー日東精工に入社された経緯についてお聞かせください。

荒賀誠:
養蚕業が盛んだった京都府綾部市で生まれ育った私にとって、日東精工は地域の誇りであり、憧れの存在でした。そんな弊社の、87年前に地域の雇用創出を目的として設立された歴史と、その高い技術力に惹かれ、入社を決意したのです。

入社後は人事部門に配属され、最初の半年間は研修で工場や全国の拠点を回り、全社員と対話するという貴重な経験をさせてもらいました。製造、営業、技術、品質管理など、あらゆる部署の先輩方から仕事の厳しさ、そして人との繋がりの尊さを学び、「企業は人なり」という言葉の意味を肌で感じたのです。この経験が、私の経営者としての原点になっています。

ーーその後のキャリアで、特に自身の成長につながったと感じる経験はございますか。

荒賀誠:
入社8年目のタイミングで、人事部門から品質保証部門に異動したことです。人事の仕事に慣れてきた頃の、全く未知の領域への挑戦でした。お客様からのクレーム対応など、これまで人事一筋だった私にとって、まるで新人として別の会社に転職したかのような感覚でしたね。

自分の未熟さを痛感しましたが、30歳を前にしてお客様と直接向き合うことの重要性を学べたことは、かけがえのない財産であり、そして品質保証部門で培ったお客様との信頼関係は、今でも私の宝物です。当時の取引先の方が、今では弊社の主要な取引先の社長になっていることもあり、共に歩んできた歴史を嬉しく思います。

ーー社長就任後の取り組みや、大切にされている考えについてお聞かせください。

荒賀誠:
経営コンサルタントの故蒲田春樹先生との出会いは、私にとってのターニングポイントでした。特に印象的だったのは「立場が上になればなるほど謙虚でいなさい」という言葉です。仕事は一人でできるものではありません。社員やメンバーが一生懸命働いてくれることは当たり前ではないのです。皆が気持ちよく働ける環境を考え、現場の声を自ら聞きに行く姿勢が重要だと学びました。

社長就任時、特に大切にしたいテーマとして「経営理念の継承と事業の深化」を掲げました。経営理念の継承については、ぶれることなく実践していくことを目指しています。そのために、現在の時代に合った経営理念ガイドブック「我らの道」を作成し、グループ会社全体に展開することで理念の浸透を図っています。また、事業の深化については、これまでの事業拡大に加えて、さらに深く掘り下げる必要があると考えています。

誠実を貫き地域を潤す 創業から続く三つの心

ーー貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

荒賀誠:
弊社は、自動車や電機・電子部品、精密機器向けにねじやボルトなどの締結部品を製造しています。さらに、ねじ締め機やねじ締めロボット、検査分析装置、医療機器まで、幅広い分野で開発・製造を手がけるモノづくり企業でもあります。

弊社の最大の強みは、そのねじとねじ締め機の両方を一貫して手掛けている点です。これは世界でも珍しい企業形態であり、お客様ごとのオーダーメイド品の開発や課題解決に対して、トータルで最適な提案が可能です。弊社が作るのはホームセンターに並ぶ規格品のねじではありません。お客様一人ひとりの「お困りごと」を解決するための一本を、開発から製造まで行っています。

ーー貴社が地域貢献を重視されている点についておうかがいできますか。

荒賀誠:
創業理念は、地域産業の発展と人財雇用、そして人財育成を重視しています。弊社は創業以来、京都府綾部市に本社を置き、地域に雇用を生み出すという大きな意味を持ちます。本年、『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞の「地方創生大臣賞」を受賞できたのも、地域貢献活動が認められた結果だと考えています。

コロナ禍で地元の飲食店が非常に厳しい状況に陥った際、弊社では地域貢献活動として従業員向けの食事クーポン券を作成し、配布しました。この取り組みは地元の新聞にも取り上げられ、多くの飲食店の方々に大変喜ばれました。

ーー貴社が大切にされている理念について、お聞かせいただけますか。

荒賀誠:
弊社の理念は「誠実・信頼・感謝の心」です。お客様に信頼され、感謝される企業であり続けたいと考えています。この理念は、社長就任時に掲げた「経営理念の継承と事業の深化」の根幹をなすものです。社員一人ひとりが日々の業務の中で実践していくべきものとして、経営理念を通じて浸透を図っています。

地域に根ざし世界をつなぐ 人と技術で未来を拓く

ーー人財採用と育成の取り組みについてお聞かせください。

荒賀誠:
人財育成の柱として、まず、高卒入社の社員が給与と学費を会社が負担して大学に進学できる「次世代技術者育成プログラム」を設けています。また、「教育単位制度」を導入しています。社員には毎年20単位の取得が義務付けられており、研修やEラーニング、地域ボランティアも単位認定の対象です。仕事の成果だけでなく、こうした継続的な学習意欲も昇進の重要な条件となります。

さらに、1966年に設立した一般社団法人綾部工業研修所の運営支援も、重要な活動の一つです。綾部市近郊の企業に勤める中堅技術者養成のための工業教育を行うことを目的とした団体ですが、これまで約1900名の修了者を輩出。地域の技術力向上に大きく寄与してきました。今後も若手採用を強化するとともに、入社した社員一人ひとりが成長し続けられるよう、最高の学習環境を提供していく所存です。

ーー今後、どんな人材を求めていますか。

荒賀誠:
弊社理念である「誠実・信頼・感謝の心」を大切にできる方を求めています。そして、弊社が大切にしている、ねじが「モノ」と「モノ」をつなぐように、私たちは「人と人をつなぐ会社」でありたいという思いに共感し、主体的に行動できる方です。新しいことにも臆することなく挑戦し、学び続ける意欲のある人と共に、未来を築いていきたいと考えています。

ーー今後の事業拡大と未来への展望についてお聞かせください。

荒賀誠:
今後については「シンク・グローバル、アクト・ローカル」という言葉と共にグローバル企業の推進を掲げています。地域に根ざした活動を大切にしながら、グローバルな視点を持ちつつ、世界に貢献できる企業を目指していきます。一昨年はドイツに新会社を設立し、今年はインドの2社を買収するなど、成長分野への投資を加速しています。

弊社の創業からのミッションである、会社の継続と人財育成にも引き続き力を入れていきます。長期ビジョンである世界中で認められ、求められる「モノづくりソリューショングループ」を目指し、その先もよりグローバルな視点を持って持続可能な会社にしていきたいと考えています。

編集後記

京都府綾部市という地方に本社を置きながら、世界を舞台に活躍する日東精工。荒賀氏の話からは、地域への深い愛情と、社員の成長を願う強い思いが感じられた。「つなぐ会社」という思いのもと、ねじのように人や技術、地域をつなぎ、未来を切り拓く同社の挑戦に今後も注目だ。

荒賀誠/1968年、京都府出身。関西大学社会学部を卒業後、1991年4月に日東精工株式会社に入社。2018年3月に取締役・経営企画室長兼人事総務部長兼監査部長、2020年3月に常務取締役兼常務執行役員、2022年3月に代表取締役兼専務執行役員を経て、2023年3月、代表取締役社長兼COOに就任。