※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

アパレル業界が大きな変革期を迎える中、旧来の慣習を打ち破り、未来を切り拓く企業がある。婦人服の企画・製造・販売を手がける株式会社アリエスだ。異業種から転身した代表取締役の山田康幸氏は、「安くていいもの」ではなく「良いものを安く」という揺るぎない哲学のもと、コロナ禍を機にビジネスモデルを抜本的に見直した。それにより、在庫ロスの大幅な削減を実現している。その視線は国内にとどまらない。海外展示会への挑戦、学生との協業、全社的なDX推進にも向けられている。今回は、常に前に進み続ける同氏の経営観、その根底にある苦しみさえも楽しみに変える独自の仕事哲学に迫る。

独立の夢からアパレル業界へ 営業と企画の醍醐味

ーー貴社に入社するまでの経緯を教えてください。

山田康幸:
学生時代から、「人に縛られずやりたいことを制限なくやりたい」という思いがあり、独立を志向していました。新卒で入社した建築内装で営業として5年ほど勤めましたが、当時の業界事情では独立の実現が難しいと感じ、転職を決意。そんな時、親戚が勤めていた縁で弊社を紹介され、入社することになったのです。

異業種からの転職だったため、当初は商品知識の習得に苦労しました。また、弊社では営業が商品の企画を兼任することも多く、私も女性服の企画に携わりましたが、これもまた難しさを感じる点でした。しかし、実務と管理職を兼務する立場で経験を積む中で、その難しさの中に仕事の面白みを感じるようになったのです。

ーー仕事において、特にやりがいを感じたエピソードについてお聞かせください。

山田康幸:
自身が企画した商品が会社の売上トップ5に入った時は、営業冥利に尽きる大きなやりがいを感じましたね。また、お客様への提案方法を工夫することで、反応が大きく変わる点もこの仕事の面白さです。

たとえば、同じ商品でも言葉の選び方ひとつで伝わるニュアンスが異なりますし、ディスプレイを工夫して提案することで、お客様のその後の販売方針にまで影響を与えることもあります。そうした試行錯誤がお客様との関係を深め、成果につながっていく過程に、大きな魅力を感じていました。

コロナ禍を追い風に断行した、変化を恐れない経営改革

ーー代表取締役に就任された時の心境をお聞かせください。

山田康幸:
すでに何十億という規模の大きな会社を引き継ぐにあたり、「先代のようにできるだろうか」という不安はありました。しかし、悩みながらも会社を「自分色」に変えていくことに面白さを見出してきました。私が仕事において最も重視しているのは、「前に進むこと」と「スピード感」です。この姿勢は、スピード感を非常に大切にされていた先代の経営から踏襲しています。

ーー代表就任後、どのような社内改革に取り組まれましたか。

山田康幸:
良くも悪くも、コロナウイルスの蔓延が大きな転機になりました。先代の頃は「在庫を大量に抱えて一気に売る」という考え方が主流でした。しかし、先行きが見えない状況でそのやり方は通用しないと判断し、在庫過多の無駄を解消する方針に転換したのです。

具体的には、つくったものを売りさばくのを止めました。サンプルをお客様にお見せして顧客の反応をみて注文をいただいてから生産するという仕組みに切り替えました。これにより、ロスの大幅な削減を図っています。また、商品タグにICチップを導入するなどDXも推進し、在庫管理の効率化を実現しました。

こうした変革を推進するためには、社員の意識改革も不可欠です。2025年の1月から2月にかけては、部署の垣根を越えて外部講師によるDXとSNSマーケティングの研修を実施しました。時代が私たちに合わせてくれることはありません。私たちから変化を受け入れていく必要があると、社員が肌で感じる良い機会になったと考えています。

当初は変化に対する反発もありましたが、会社の将来を考えれば実行すべきだと信じ、経営層主導で推進しました。今ではこれらの仕組みなしでは仕事が回らないほど、社内に浸透しています。

「安くていいもの」ではなく「良いものを安く」 顧客と社員に幸せを届ける事業

ーー改めて、貴社の事業内容と商品づくりのこだわりについて教えてください。

山田康幸:
弊社は30代後半から50代の女性をターゲットに、婦人服全般をトータルで提案するアパレルメーカーです。「安くて良いもの」ではなく、品質や素材感で他社製品と比べた際に「はるかに価値がある」と感じてもらえるようなものづくりを心がけています。

ーー業界の活性化や若手人材の育成に関して、何か特別な取り組みはされていますか

山田康幸:
大阪文化服装学院と連携し、学生のデザインをコンペ形式で採用、弊社が商品化して販売するプロジェクトを進めています。この取り組みは、大阪文化服装学院のOBから「ものづくりがしたいのに経験する場面がない」という学生たちの悩みを聞いたことがきっかけです。「業界の未来を担う若者に夢と仕事の楽しさを感じてほしい」という思いから、企画を提案しました。

学生たちからは「楽しい」「よい経験になる」という声が聞かれ、非常に喜んでもらえています。私たちにとっても、若い方たちからの新しい発想はデザインの活性化につながります。社内の雰囲気も明るくなるなど、多くの良い相乗効果が生まれています。

海外、EC、若者へ 未来に向けた3つの挑戦

ーー今後の展望についてお聞かせください。

山田康幸:
5年後には売上の2割を海外販路で実現したいと考えています。特に注目しているのは、若年層人口が多いマレーシアなどの東南アジア市場です。2025年4月には、初めて海外の展示会に出展しました。その結果、アパレル部門で来場者数が1位になるという手応えも得られました。

また、国内では顧客層の若返りを図るため、感度の高い店舗への営業を強化しています。EC販売に関しては、過去に一度CLOSEしましたが、今後は若手社員が中心となって再挑戦したいと考えています。自社での販売サイト構築やライブ配信などを活用した、新たな形での展開を計画中です。今後は、時代の変化に合わせた商品提供を国内外で進めていきます。

「二喜一憂」の精神が根付く主体性を育む企業文化

ーー社員が働きやすい環境をつくるために、どのようなことに取り組んでいますか。

山田康幸:
就業規則を全面的に改定し、有給休暇を取得しやすい雰囲気をつくるなど、誰もが働きやすいインフラの整備を進めてきました。かつては荷物運びのような体力勝負の業務や残業も多かったのですが、働き方改革を推進する中で男女比は逆転しました。以前は男性が8割を占めていた社内も、今では女性が6割以上と、性別に関係なく誰もが活躍しやすい環境へと変化しつつあります。

同時に社員の意識改革も促しており、「働き方改革は、まず自分自身の働き方を変えることから始まる」と伝えています。たとえば、気兼ねなく休みをとるために、どうすれば効率よく仕事を進められるか。従業員一人ひとりが自ら考え、仕事の段取りを組むといった主体的な文化が根付いてきていると感じます。

ーー最後に、社長が仕事をする上で大切にされている考えを教えていただけますか。

山田康幸:
前職の上司に教わった「二喜一憂」という言葉を大切にしています。仕事、特にものづくりに関わる仕事には、まず受注の「喜び」があり、次に納品までの「苦労」や「苦悩」が訪れます。しかし、それを乗り越えて完成した時、再び大きな「喜び」が生まれるのです。結果的に楽しさが勝るから仕事は面白い、と。この考え方はどんな仕事にも通じます。社員にも「自分なりの仕事の楽しみ方を見つけてほしい」と伝えていますね。

編集後記

異業種からアパレル業界へ飛び込み、独自の視点で改革を断行する山田代表取締役。その原動力は、「前に進む」という強い意志だ。コロナ禍という危機さえも変革の好機と捉え、業界の慣習だった在庫を多く抱えるビジネスモデルから脱却した。その根底に流れるのは、苦労の先にある喜びを知る「二喜一憂」という仕事観だ。変化を恐れず、自ら変化を創り出していくリーダーシップと、社員の主体性を尊重する文化。それこそが、不確実性の高い時代を生き抜く最大の強みだろう。

山田康幸/1975年大阪生まれ、2002年に株式会社アリエス入社し、営業として従事。2015年、同社代表取締役に就任。顧客満足はもちろんのこと、従業員が楽しく満足して業務を遂行できるよう、社内のインフラ整備やDX化を積極的に推進している。現在は、将来のグローバル化を見据え、海外の販路開拓に注力。展示会の参加など活動の幅を拡大中。