※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

テレビやWebで目にする華やかなCM映像。その制作現場では、多彩なプロフェッショナルたちが多様な能力を発揮している。中心に立ち、企画者と技術者という二つのプロをつなぎ、プロジェクト全体を円滑に導くのが「プロデューサー」の役割だ。今回話を聞くのは、映像プロダクション株式会社KEY proを率いるCEO兼チーフプロデューサーの城殿裕樹氏。同社は「ホスピタリティ」をサービスの核に据え、一流のクリエイターたちから指名され続ける稀有な存在である。なぜ同氏は安定したキャリアを捨て、独立の道を選んだのか。人を惹きつけ最高のクリエイティブを生み出すプロデュース術、そして映像の枠を超えて挑戦する未来の展望に迫る。

厳しい現場で見出した使命 プロデューサーとしての情熱の原点

ーーキャリアの原点についてお聞かせください。

城殿裕樹:
大学時代にコピーライター養成講座へ通っていたこともあり、もともとは広告代理店を志望していました。媒体を問わず広告全般が好きで、当時一番大きかったCM制作会社に入社しました。

ターニングポイントはプロダクションマネージャー(以下、PM)としての経験です。私が入社した20年ほど前は、労働環境も厳しく、正直「1年で辞めてやる」と思っていました。しかし、2年目から仕事を任されるようになると、やりがいを感じるようになったのです。企画から編集まで全スタッフの司令塔となって現場を動かして作り上げる、PMという仕事が面白いと感じました。

もともと裏方の仕事が好きだったこともあり、大きなやりがいを感じました。自分の準備したものが世に出たり、スタッフから感謝されたりすることに喜びを感じたのです。PMは自分にとって天職だと思った瞬間でした。

ーーその後、どのようにキャリアを歩まれたのですか。

城殿裕樹:
PMを6年経験した後、プロデューサーになりました。より大きな視点でプロジェクト全体を動かすダイナミズムに、のめり込みました。もともと「いつかはサラリーマンではない生き方がしたい」という思いがあり、37歳で独立しました。不安よりも、「自分の理想とするクオリティを追求したい」という思いが強かったです。

「プロとプロをつなぐ」という哲学 一流の信頼を勝ち取るホスピタリティ

株式会社メルカリ メルカリハロ「ハロー!みんなのスキマバイト」篇
株式会社meiji 明治プロビオヨーグルトR-1「灼熱のバス停」篇

ーー事業を行う上で、最も大切にしていることは何ですか。

城殿裕樹:
ホームページの最初にも掲げていますが、「ホスピタリティ」を何よりも大切にしています。映像制作は、企画を考える「クリエイティブのプロ」と、それを形にする「専門技術のプロ」がいて成り立ちます。私たちはカメラマンの知識には勝てませんし、クリエイターの発想力も真似できません。私たちの役割は、プロフェッショナルたちが120%の力を発揮できるための潤滑油であり、土台となることです。つまり、2つのプロをつなぐ「プロとプロをつなぐプロ」であることを目指しています。

そのために、相手の立場に立って考える努力を怠りません。これが、私たちが掲げる「ホスピタリティ」の根幹です。難しい課題に対し、どれだけ相手の立場に立って考えられるか。そのきめ細やかな対応の積み重ねが、信頼を生むと信じています。

私たちの仕事は、単なる調整役や伝書鳩ではありません。対等なパートナーシップを築くために、私たち自身もプロフェッショナルでなければならない。その宣言が「PRO to PRO to PROs.」という言葉です。

株式会社GO 「GOする!取り合い」篇
東京ガス「母の推し活」篇

個性を尊重する組織文化と「一人一案件」という独自の働き方

ーー今後の採用について、どのようにお考えですか。

城殿裕樹:
正直に言って、私の「右腕」をつくるのは無理だと思っています。この仕事は有名なシェフのお店と同じで、指名されてこそ成り立つ商売です。私のやり方を真似てほしいとは思いません。だから、右腕ではなく、私とは違うやり方で独自の柱を立ててくれる仲間がほしいと考えています。

今後、一緒に働きたいのは、やはり「人を喜ばせるのが好き」な人ですね。人が喜んでくれること、感謝されることに自分の幸せを感じられる人です。仕事では、一つの案件で多くのスタッフと関わります。それだけたくさんの「ありがとう」に触れる機会があります。そこに醍醐味を感じられる人にとっては、最高の環境だと思います。

ーー働きやすい環境づくりのために工夫していることはありますか。

城殿裕樹:
プロダクションの仕事は波が激しく大変だからこそ、「一人一案件」を基本としています。1人で複数案件を抱えるのが一般的な業界なので、珍しいかもしれません。一つの案件が終わればしっかり休めるように、ゴールを明確にしているのです。仕事も大事ですが、プライベートはもっと大事です。この体制のおかげで、弊社では「仕事がしんどくて辞める」という人は、ほぼいません。

プロであり続ける覚悟と映像の枠を超える未来への挑戦

ーー5年後、10年後の中長期的な展望についてお聞かせください。

城殿裕樹:
AIの台頭など色々言われていますが、広告映像はなくならないと考えています。私たちは、困ったときに頼られる「プロ」であり続けたい。誰でも映像がつくれる時代になるからこそ、私たちの価値は高まると捉えています。高いクオリティと仕切りが求められる仕事で、真価が問われるからです。

また、映像制作以外の分野にも可能性を感じており、「プロデューサー」という職能の可能性を広げたいです。映像制作で培ったスキルはどんな分野でも通用します。企画し、人を集め、予算とスケジュールを管理し、実行する能力です。「ホスピタリティ」という軸さえぶれなければ、何をプロデュースしてもいい。映像制作という一本の柱を磨き続けながら、もう一本の柱として、さまざまな分野のプロデュースに挑戦していきたいと考えています。

編集後記

「プロとプロをつなぐプロ」。城殿氏が語る「ホスピタリティ」の本質は、単なる調整能力ではない。それは人を喜ばせることへの純粋な情熱から生まれた哲学なのだろう。一流のプロが最高の力を発揮できる環境を整え、自らもプロとして伴走する。映像の枠を超えて「もう一本の柱」を立てようとする挑戦は、まさにプロデュースそのものである。人の感謝を自らの喜びに変えられる人材にとって、ここは最高の舞台となるに違いない。

城殿裕樹/1981年、北海道生まれ。2002年、株式会社電通テックに入社。2009年、株式会社電通クリエーティブXに転籍。2018年4月、電通クリエーティブXを独立し、株式会社KEY proを設立。TVCM・WEB MOVIEを中心として、映像制作全般のプロデュースを行う。クライアントが抱える様々な制約の中で、ベストなソリューションの提案を行い、質の高いアウトプットへつなげることができる。クライアント・広告会社の垣根を超えて、パートナーとしてのプロダクションワークをモットーとする。TCC・ACC 賞ゴールド・AdFest ブロンズ・広告電通賞等、受賞歴多数。