※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

クラウドアプリケーションの運用監視プラットフォームを提供するDatadog Japan合同会社。複雑化を極めるクラウド環境において、インフラからアプリケーションまでを統合的に監視する「オブザーバビリティ(可観測性)」(※1)とセキュリティの領域で世界的な評価を獲得し、2025年には米国の代表的な株価指数であるS&P 500の構成銘柄にも採用されました。

この急成長企業のかじ取りを担うのが、日本法人代表の正井拓己氏です。日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)からキャリアを始め、米国スタートアップの日本法人立ち上げ、日本マイクロソフト株式会社、ワークデイ株式会社社長など、常にIT業界の変革の最前線を走り続けてきました。数々の挑戦を支えてきたキャリアの軸、Datadogが持つ本質的な価値、そして未来への展望をうかがいます。

(※1)オブザーバビリティ:Observe(観測する)と、Ability(能力)を組み合わせた造語で「可観測性」と訳される。システムに異常が発生した際、その通知だけでなく、原因や影響範囲を詳細に把握する能力や仕組みを指す。

IT業界の変革期と共に歩んだキャリアの原点

ーーIT業界へ進まれたきっかけを教えてください。

正井拓己:
実は、大学では経済やビジネスを専攻しており、海外留学の経験もなかったため、まさか自分が外資系のIT企業でキャリアをスタートするとは想像もしていませんでした。新卒で入社した日本IBMが、結果的に30年近くこの業界に身を置く大きなきっかけとなりました。

私が入社した1996年は、Windows 95の登場によってインターネットが一気に身近になった時代です。企業システムの世界でもeビジネスの台頭や、ERPやCRMといったソリューションの普及など、テクノロジーが社会を大きく動かした歴史的な転換点でした。IBMはハードウェアからソフトウェア、サービスまで、コンピューターに関するあらゆる事業を手がけていたため、一つの会社にいながら多様な経験を積むことができ、キャリアの第一歩として非常に幸運だったと感じています。

ーースタートアップへ転職された経緯をお教え願います。

正井拓己:
日本IBMには米国本社への赴任も含め、約17年間在籍しました。転機となったのは、最後の3年半を過ごしたソフトウェア事業部での経験です。そこには買収によってIBMの一員となったメンバーが数多く在籍しており、彼らと働く中でIBMという枠組みにとらわれない、もっと多様なキャリアの可能性を強く意識するようになりました。

「大企業の看板を一度手放し、外の世界で自分の実力を試してみたい」。その思いが日に日に強くなり、歴史と実績のあるIBMとは対極の環境で、西海岸のシリコンバレーで創業したPivotalへ飛び込むことを決意しました。

ーーPivotalでは、どのようなご経験をされましたか。

正井拓己:
Pivotalジャパンでは、日本法人の立ち上げをゼロから担当しました。メンバー集めからオフィスの開設、パートナー企業やお客様の開拓まで、何もない状態からビジネスを創造していく経験は、私のキャリアにおけるかけがえのない財産です。

当時は、GoogleやFacebookに続く先進的なテクノロジーを持つ企業が次々と西海岸から生まれ、クラウドの世界を席巻していました。その凄まじいエネルギーや、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材をまとめ上げる西海岸の企業文化を肌で感じられたことも、非常に大きな収穫でした。

複雑化するクラウド時代の課題を解決するDatadogの真価

ーーその後、Datadog Japan合同会社へ入社されたのでしょうか。

正井拓己:
その通りです。Pivotalジャパンや日本マイクロソフト、ワークデイでクラウドビジネスに携わる中で、テクノロジーの進化と共にお客様のシステム環境が急速に複雑化していくのを目の当たりにしてきました。オンプレミスのシステムに加え、複数のパブリッククラウドやSaaSサービスが乱立し、もはや運用現場は飽和状態に近いと言えます。

このカオスともいえる状況を誰かがシンプルに整理・支援する必要があります。そう感じて業界を見渡した時、Datadogのソリューションが他と一線を画していました。入社して改めて、その製品の圧倒的な完成度と、日本市場における計り知れない可能性に確信を持ちました。

ーーDatadogのサービスが持つ独自の強みや提供している価値についてお聞かせください。

正井拓己:
私たちは、クラウドアプリケーションの監視や分析に必要な機能を、単一のプラットフォームで提供しています。従来、インフラのメトリクス監視やアプリケーションのモニタリング(APM)、クラウドセキュリティなどは、それぞれ専門のツールで運用されていました。Datadogの最大の強みは、これらすべてを統合的なユーザビリティで、部門や役割を超えて、一元的に管理できることです。

特に私たちの価値が際立つのは、AWSやGoogle Cloud、Microsoft Azureといった複数のクラウドを組み合わせる「マルチクラウド」環境です。サービスごとに異なるツールで監視を行う手間は膨大ですが、Datadogはそれらを一つのプラットフォームに統合し、お客様の負担を劇的に軽減します。

つまりDatadogは、開発、運用、セキュリティ、ビジネスといったさまざまな立場の関係者が、同じデータを見て問題解決にあたるための「共通言語」となるのです。この価値は、企業の規模を問わず、スタートアップから大企業まで、あらゆるお客様のビジネスを加速させると信じています。

未来を拓く若者へ、ワクワクするキャリアを築く方法

ーーキャリアを選択する上で最も大切にされていることは何ですか。

正井拓己:
キャリアチェンジを考えるたびに自問自答してきましたが、どんな会社でどんな仕事に就こうとも、素晴らしい瞬間もあれば、困難な時期も必ず訪れます。それならば、自分が心から「ワクワクできる」場所、毎日を楽しく過ごせる環境に身を置くのが一番だと考えるようになりました。

それは、企業の知名度や待遇といった条件で点数をつけて決めるものではありません。その会社の製品を愛せるか、企業文化に心から共感できるか、この人たちと一緒に働きたいと思える仲間がいるか。そうした、もっとシンプルで純粋な動機こそが、企業を選ぶ上で何よりも大切な尺度だと私は思います。

ーーこれからキャリアを築く若者にメッセージをお願いします。

正井拓己:
クラウドとAIの更なる進化は、IT業界の構造を根底から変えていくでしょう。これからのキャリアを考える上では、「どの会社で働くか」と同時に「どんな技術や製品に人生を懸けるか」という視点が、決定的に重要になります。

テクノロジーの進化は加速し、その栄枯盛衰も激しさを増しています。どの技術が未来のスタンダードになるか、その答えは誰も教えてくれません。自分自身の目で技術や製品に触れ、その価値を肌感覚で見抜いていくしかないのです。その上で、最終的には自分が本当にワクワクできる、担当していて最高に楽しいと思える会社や製品を選ぶこと。それが、皆さん自身のキャリアを最も輝かせる選択になるはずです。

編集後記

日本IBMという大企業をキャリアの原点としながら、シリコンバレーのスタートアップ、そして再び業界を牽引するDatadogへ。正井氏の歩みは、IT業界における地殻変動の最前線そのものだ。しかし、その選択の軸は驚くほどシンプルで、純粋な「ワクワクできるか」という問いだった。その情熱が、複雑化するクラウド時代の課題を解き明かすDatadogの理念と深く共鳴し、力強い推進力を生みだしているのだろう。変化の激しい時代だからこそ、自身の内なる声に耳を澄ませ、心から楽しめる道を歩むことの重要性を、正井氏の言葉は静かに、そして力強く語りかけていた。

正井拓己/Datadog Japan合同会社 プレジデント&カントリーゼネラルマネージャー日本法人社長。25年以上にわたり大規模システム開発やビッグデータ分析、クラウド技術を用いた基盤および業務ソリューションを用いた企業のトランスフォーメーションを推進。日本アイ・ビー・エム株式会社にて米国本社赴任を含む多様な業務経験を経たのち、Pivotalの日本法人を立ち上げ、代表としてアジャイル開発やクラウドネイティブ基盤など先進技術を活用したデジタル変革を推進。さらに、日本マイクロソフト株式会社でクラウド事業を担当したのち、Datadog Japan入社前はWorkdayの日本法人であるワークデイ株式会社の社長として日本企業における人事・財務変革を牽引。