
梱包事業を軸に、運輸事業、倉庫事業など、顧客の物流業務を総合的にサポートする株式会社サンリツ。70年以上の歴史を誇り、顧客一社一社に寄り添う「オンリーワン」の物流サービスを強みとしてきた。2025年、代表取締役社長に就任した柴本守人氏は、就職氷河期に同社の将来性を見出して入社を決め、会社の変革期にトップの座を託された人物だ。伝統を守りつつ、パートナー企業との連携やDX推進で新たな成長を目指す同氏に、これまでの歩みと未来への展望を聞いた。
会社の変革期を託された生え抜き社長の原点
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
柴本守人:
1997年に入社しましたが、当時は就職氷河期の真っ只中でした。就職先を選ぶにあたって、会社の規模にはこだわらず、これから伸びていく可能性を秘めた企業を探していました。特定の業界に絞っていたわけではなく、今後の成長が期待できる会社を探している中で弊社のことを知りました。当時はまだ非上場でしたが、会社を訪れた際に感じた活気やパワーが印象に残っています。
ーー入社後、どんなことから取り組まれましたか。
柴本守人:
入社時に希望を聞かれ、人事を担当することになりました。7年ほど人事を経験した後、現場管理を学ぶために横浜事業所に異動し3年間勤務。その後、再び本社に戻りました。
人事時代で特に印象に残っているのは、入社4、5年目の頃に任された地方拠点の閉鎖です。現地で採用した従業員の方々へ、退職勧奨に近い説明をするという非常に重い役割でした。当然、当初は相手の方も感情的になっていましたが、まずは相手の話を真摯に聞くことに徹しました。この厳しい経験を通じて、相手とどう向き合えば思いが伝わるのかを学び、現在も自分の大きな糧になっています。
ーー社長就任の経緯についておうかがいできますか。
柴本守人:
昨年、米国子会社において不適切な事案が発生しました。この事実を重く受け止め、会社として再発防止の徹底が最重要課題となる中で、経営陣を刷新する必要があるという結論に至りました。その中で、若手であった私が、会社の立て直しと未来への期待を込めて指名を受けたと認識しています。
会社が70年以上にわたって築き上げてきたものを終わらせるわけにはいきません。その一心で、深く悩むより先に「自分がやります」と覚悟を決めました。
「梱包」を軸に据えた未来を拓く三つの成長戦略

ーー貴社の事業内容や強みについてお聞かせください。
柴本守人:
弊社の事業の軸は、設立当初から一貫して「梱包」にあります。特に、輸送中の安全が厳しく求められる精密機器や工作機械の梱包を得意としてきました。大きな強みは、ダンボールから木箱、スチールまで、あらゆる梱包材を自社で加工・製造できる点です。お客様の製品特性や輸送ルートなどを詳細にヒアリングした上で、最適な梱包仕様を提案できる経験と知見が私たちの財産です。ありがたいことに、大手企業のお客様からも長年にわたり信頼を寄せていただいています。
ーー今後、特に注力していくテーマについてお聞かせください。
柴本守人:
大きく3つのテーマに注力していきます。
1つ目は「既存のお客様との関係深化」です。国内の物流総量が増えない中で、競争を勝ち抜く必要があります。そのためには付加価値の高いサービスを提供し、「選ばれる物流パートナー」にならなければなりません。そのためにお客様の要望に応えるだけでは足りません。こちらから主導して物流のあり方を変革し、お客様の事業活動に貢献する解決策を提供することを目指します。また、現在拠点のない関西や九州エリアへも、パートナー企業とのアライアンスを通じて展開していきたいと考えています。
2つ目は「海外展開」です。現在はアメリカに最も注力しており、製造業のアメリカ国内回帰という流れの中で、ビジネスチャンスは非常に大きいと見ています。
そして3つ目は「DX」です。倉庫作業のデジタル分析による効率化に加え、女性やシニアの方でも重量物を扱える「助力装置」の導入を進めています。これは労働人口の減少という社会課題に対応し、多様な人材が活躍できる環境を整備するためです。
挑戦を促す風土と次世代を担う人材の育成
ーー貴社では、どのような人が活躍していますか。
柴本守人:
やはり「前に出る力」を持っている人です。弊社には昔から、失敗をある程度許容する土壌があり、「何もせずにいるより挑戦して失敗する方が良い」という雰囲気が会社全体に根付いています。社内にはキャリアアップに繋がるチャンスが定期的に訪れるため、そのタイミングで失敗を恐れずに自ら一歩前に踏み出せる人は、社内外を問わず活躍できるのです。
ーー社内の雰囲気はいかがですか。
柴本守人:
全体的には、真面目な従業員が多く、少しおとなしい雰囲気になっていると感じます。私が入社した頃のような、ある意味での荒々しい活気がもう少しあってもいいのかなと感じることもあります。もちろん、上場企業として守るべきルールは増えました。その中でも社員がもっと自由に挑戦できるような雰囲気づくりを、これからさらに強化していく必要があると考えています。
会社の飛躍に向けた足場固めと未来を担う人材への期待
ーー今後の展望についてお聞かせください。
柴本守人:
まず、直近1〜2年の最重要課題は、2大拠点を確実に成功させることです。今年8月に米国子会社で開設したサバンナの新倉庫と、来年7月に完成する成田の新倉庫がそれにあたります。この2拠点で合計70億円という非常に大きな投資をしていますので、まずはこの投資を成功に導くことに全力を注ぎます。この成功を土台として、次なる成長戦略へ繋げていく。向こう3〜5年は、未来への飛躍に向けた足場を固める重要な期間だと捉えています。
ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。
柴本守人:
物流の中でも「梱包」は少し目立たない存在かもしれません。しかし、日本のものづくりを根底で支える、非常に重要で可能性に満ちた分野です。ぜひその面白さに注目していただけると幸いです。
そして、これから社会で活躍していく皆さんにお伝えしたいのは、自分の弱さと向き合うことの大切さです。若いうちは弱点を克服する時間的な猶予があります。自分の弱点は何かを正確に知り、それを踏まえてどう行動するかを考えるだけでも、仕事の仕方は大きく変わるはずです。失敗を恐れず、ぜひ挑戦してほしいと願っています。
編集後記
就職氷河期に自らの道を切り拓き、生え抜きでトップに就任した柴本氏。その言葉からは、どんな状況でも前を向き、まず行動することの重要性が伝わってきた。若手時代の壮絶な経験さえも「いい経験」と語る姿勢は、サンリツに根付く「失敗を許容する文化」を体現しているかのようだ。伝統的な「オンリーワン」の強みを守りつつ、DXやグローバル展開で新たな価値創造へと舵を切る同社。その挑戦は、一歩前に踏み出す勇気を持つ人材によって、力強く推進されていくのだろう。

柴本守人/1975年神奈川県生まれ、神奈川大学経済学部卒業。1997年、株式会社サンリツに入社し管理部門及び事業部門の要職を歴任。管理部門においては、その効率化を図り、事業部門においては、航空貨物分野を中心に幅広く事業活動の基盤整備と強化を行い、2025年、代表取締役社長 社長執行役員に就任。