
全国9都市で2,000台規模のタクシー・バス事業を展開するMKグループ。その中核を担うエムケイ株式会社は、タクシー事業を中心に展開し、2030年までに全車ZEV化(※)を目指している。同社の代表取締役社長の前川博司氏にこれまでの経緯や、事業内容、今後の未来への思いについて、話を聞いた。
(※)ZEV:「Zero Emission Vehicle」の略。排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車のこと。
持ち前のコミュニケーション力で切り拓いたキャリア
ーー社長に就任するまでの経緯を教えてください。
前川博司:
MKグループに入る前は大手消費者金融で働いていました。当時会社経営者だった父から商売人の基本を学ぶためにあえて金の大切さを身をもって知る厳しい世界に身を置いてみろとアドバイスされたからです。1年半の経験は大変でしたが、同年代のなかではしっかりと成果もあげました。
そうした中、エムケイ石油株式会社の前身となる、株式会社永井石油との出会いがあったのです。創業者は私の持つコミュニケーション能力を高く評価してくれ、入社後は約3年半にわたりガソリンスタンド事業の営業に従事しました。
新規開拓や営業回りは私の得意分野でしたので、企業の集まりには積極的に顔を出し、人脈を広げていくことで営業力を高めていきました。その結果、2018年にMKグループのタクシー部門である弊社の営業本部長となり、2023年に代表取締役社長へ就任することとなりました。人見知りとは無縁の性格が、ここまで導いてくれたのだと考えています。
ーーこれまでのキャリアの中で印象に残っているエピソードをお聞かせください。
前川博司:
人脈を広げる中で知り合った、裸一貫から会社を成長させた社長との関わりが特に印象深いですね。その方は学校に行くお金がなかったため、若くして働き、弟を進学させたというのです。そうしたエピソードや苦労したお話を聞く際、私は目に涙を浮かべていたことを覚えています。
その方から学んだことで今も心に残っているのは、無駄を省くことの大切さです。ある日、その方と車の外でお話していたとき、私は車のエアコンをつけたままロックをかけていました。すると「お前はガソリン屋だからこういうことをするんだ、エアコンを切ってこい」と厳しく指摘されたのです。そのひと言から、節約という言葉では言い表せない、資源を無駄にしない本質的な考え方を教えていただきました。この教えは今も私の経営哲学の根幹にあり、無駄を徹底的に省く姿勢につながっています。
原価意識と運転手の待遇改善を両立するタクシー事業

ーー貴社の事業内容について教えてください。
前川博司:
弊社は京都で850台のタクシーを運用するほか、車両整備事業やアミューズメント事業も展開しています。特にタクシー事業では、「MK」のマークが目印となり、長年にわたり多くのお客様からご支持をいただいてきました。かつては「同じサービスをより安く」という価格面での強みを打ち出していましたが、21年間据え置いていた運賃を見直したことが大きなターニングポイントとなりました。この方針転換により、ドライバーの待遇改善とサービスの質の向上を同時に実現しています。
加えて、車両整備事業は京都市南区に拠点を置き、タクシー車両の整備で培った確かな技術を活かし、一般のお客様の車両メンテナンスも行っています。現在では、入庫車両の半分以上が一般のお客様からのものになりました。グループ会社のエムケイ石油と連携したガソリン割引や、最大2万円の車検割引など、お得な特典も多数用意しています。
さらに、アミューズメント事業ではボウリング施設の「MKボウル上賀茂」のほかに、カラオケやフットサルなどが楽しめる「パルケ上賀茂」という複合型施設を運営しており、地域の皆様に楽しい時間を過ごしていただけるよう取り組んでいます。
ーー貴社に入社した後、どのような改革に着手されましたか?
前川博司:
営業本部長に就任した際、まず目についたのは効率化できる部分の多さでした。たとえば、廃車予定の車両から使えるタイヤを再利用せず新品を購入するなど、コスト意識が徹底されていない場面がありました。こうした無駄をなくすことが大きなコストの削減につながります。細かい部分にまで目を配り、社内全体で原価意識を共有しながら収益改善に努めてきました。
脱炭素と高付加価値サービスで新たな成長軌道を描く
ーー運転手の待遇改善について、どのように取り組んでいますか?
前川博司:
私はドライバーの待遇改善なくして会社の発展はないと考えています。そこで、まずは所得の向上を図り、この3年間でドライバーの給与を約30%アップさせました。今後は事務職員の方々の待遇改善にも取り組んでいく予定です。
タクシー業界は運転手不足が深刻ですが、単に人材を集めるだけでなく、定着してくれる環境をつくることが重要です。そのため、経験豊富なドライバーたちと積極的にコミュニケーションをとり、現場の声を経営に反映させています。それぞれが抱える事情は千差万別で、働き方の希望もさまざまです。希望する収入に応じた働き方ができるよう、柔軟な勤務体系を整えることで、会社とドライバー(社員)がWin-Winの関係を築けるよう努めています。
ーー今後の展望を教えてください。
前川博司:
脱炭素社会への対応は、もはや選択肢ではなく必須課題だと捉えています。弊社が2030年までの全車両ZEV化を宣言しているのも、そうした時代の流れを見据えた決断です。
タクシー業界では、長時間稼働する車両が多いため、燃料コストの削減効果は大きく、EV(電気自動車)のメリットを最大限に活かせると考えています。一方で、急速充電器の整備など初期投資には多くの資金が必要です。少数のEV導入では採算が合わないため、思い切った全車導入へと舵を切りました。この決断は、持続可能な経営と環境貢献の両立を可能にし、次世代のタクシー業界のスタンダードになっていくことでしょう。タクシーというモビリティが社会インフラとして持続していくために、弊社は常に一歩先を見据えた挑戦を続けていきます。
編集後記
タクシー業界が直面する運転手不足や環境問題。前川社長の答えは「待遇改善」と「2030年までに全車ZEV化」という具体的なビジョンだった。現場の声を聞き、未来を見据える姿勢に経営者としての覚悟を感じた。「MK」のマークをつけたタクシーは、今後も時代の先を走り続けていくことだろう。

前川博司/1963年、滋賀県生まれ。エムケイ石油株式会社の前身である株式会社永井石油に入社後、長年ガソリンスタンド経営に携わる。2018年にエムケイ株式会社の営業本部長へ転じ、2023年に代表取締役社長へ就任。ガソリンスタンド事業で培った原価意識をタクシー経営に活かし収益改善。高級車から軽EVまで多様な車両を導入するほか、脱炭素の分野では業界に先駆けて2030年全車ZEV化の達成を先導している。