※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

大正時代に「今村酒店」として始まり、1997年にクラフトビールの製造販売事業を始めた鎌倉ビール醸造株式会社。100年の歴史を持つ企業として、鎌倉の地で愛され続けている。同社を牽引するのは、2023年10月に代表取締役社長に就任した今村広太郎氏だ。歴史ある企業として安定経営を実現している同社だが、長年親しまれ、人々から求められ続ける鎌倉ビール醸造とは一体どのような会社なのか。今村社長に、詳しい話をうかがった。

「100年続く会社を残したい」という思いで会社を継ぐことを決意

ーー社長就任までの道のりを聞かせてください。

今村広太郎:
幼い頃から家業が鎌倉ビール醸造という酒屋だと理解していましたし、大学時代はアルバイトとして実際に働いていました。ただ、会社を継ぐことについては、あまり考えていませんでした。しかし、他の兄弟が継がないことが分かり、このままだと会社の歴史が途絶えてしまうと危機感を覚えたため、会社を継ぐこと決意。「祖父の代から築き上げてきた鎌倉ビール醸造が、このまま無くなるのは嫌だ」と思い、大学卒業後に弊社へ入社しました。

入社当時はOJTなどの教育制度も整っておらず、自社商品の特徴や、いくらで売っているのかも分からないまま、営業をしていた状態でした。そのため、お客様からは呆れられるなどの苦しい思いもしましたが、だからこそお客様が私から商品を買ってくださったときはとても嬉しかったことを覚えています。

何も分からないところから少しずつ経験を重ね、社長に就任したのは、2023年10月のことです。

ーー就任当初は、どのような心境でしたか。

今村広太郎:
100年以上の歴史がある会社ですから、それを受け継ぐことにプレッシャーを感じていました。地域で築き上げてきた信頼を壊さず、どのように未来へつないでいけば良いのか。その責任の重さや、経営者としての孤独感が特に強かったですね。

ただ、プレッシャーがあったからこそ、本をたくさん読んで勉強しましたし、また、鎌倉青年会議所の方々にもよく助けていただきました。鎌倉青年会議所では理事を任せていただき、組織の上の立場としての振る舞いなども学ばせていただきました。

派手さを追求せず、鎌倉の街にそっと寄り添う味わい

ーー事業内容やサービスについて聞かせてください。

今村広太郎:
弊社は鎌倉の地で100年以上クラフトビールを製造・販売してきた会社で、鎌倉の歴史や自然、文化と調和した鎌倉らしいビールづくりを続けています。

クラフトビールというと個性が重視されがちなイメージがありますが、弊社の製品は派手さを追求せず、飲む人や場、食にそっと寄り添うような味わいが特徴です。酵母をほとんどろ過しないまま瓶詰めしているので、生きたままのフレッシュな風味を楽しむことができます。これを私たちは、「鎌倉の空気をまとった1杯」と自負しています。

ーー会社や働く方たちのことも教えてください。

今村広太郎:
私たちは鎌倉の街へ恩返しをしたい思いが強く、「鎌倉の街に生まれ、この街で商売ができて良かった」という気持ちで事業に日々向き合ってきました。鎌倉の地で「静けさと余韻を味わうビール文化」をつくることで、街の価値をより一層高めていきたいと考えています。

また、社員たちは派手さよりも丁寧さを好み、職人としての誇りを持ちながらコツコツと仕事に取り組む人ばかりです。社員全員が、自分たちのつくるビールが、誰かの人生のひとときに関わっていることへの誇りと責任を持ってくれています。

鎌倉の魅力を世界に発信できるグローバルブランドを目指す

ーー今後はどのようなことをテーマに掲げていますか。

今村広太郎:
テーマは、「地に足のついた変革」です。鎌倉ビールが大量消費型のビールになるのではなく、1本で価値のあるプレミアムなクラフトビールとして、確固たる地位を築けるよう取り組んでいきます。

そして今後は、国内外に向けてブランドの想いをしっかりと発信していくことが重要です。お客様や販売先に弊社の想いがしっかりと伝わるよう、ブランドを再設計するなど、リブランディングを行う必要があると考えています。

また、自社のメッセージを伝えるだけでなく、ビールを通じて「鎌倉の魅力」そのものを世界に届けることも視野に入れています。

実際、過去には少量ながら中国・台湾・シンガポールなどへの輸出実績もあります。今後は、海外展開に向けてオンラインショップを含む自社ホームページを改善するほか、国内外における製造拠点の再構築にも取り組んでいく予定です。

ただし、ブランディングを前提として製品を広げていくつもりはありません。私たちが本当に良いと思えるものを丁寧に磨き上げ、静かに信頼を積み重ねながら、ブランドメッセージを伝えていきたいと考えています。

ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

今村広太郎:
私はこの鎌倉という街を心から愛し、ここで育まれた文化や空気が大好きです。そして弊社は、この街に根差し、鎌倉の誇りになるべく、日々真摯にビールづくりをしてきました。経営者として、そして1人の鎌倉市民として、街に恥じない生き方をするのが目標です。そして、私たちのビールが皆様の暮らしに小さな潤いをもたらすことを願っていますし、ぜひ一度、鎌倉の空気を感じながら、ゆっくりと味わっていただけたら嬉しいです。

編集後記

「どうすれば鎌倉の街に貢献できるか」を考え、派手さを求めず、静かに人々へ寄り添うビールをつくり続ける鎌倉ビール。同社が誇りを持って手がける「鎌倉の空気をまとった1杯」は、時代とともに街の姿が変わっても、変わることなく人々の心に届くことだろう。

今村広太郎/1986年、神奈川県鎌倉市出身。関東学院大学法学部卒業。大学卒業後、鎌倉ビール醸造株式会社へ入社。2023年10月に代表取締役社長に就任。