※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

兵庫県に拠点を置き、精密部品加工で日本のものづくりを支える株式会社ナカノテック。ポンプ部品やシャフト、さらには0.01mmの極薄レーザー加工。これらの高い技術力に、大手企業からも厚い信頼が寄せられる。しかし、同社の真の魅力は技術力だけではない。工場内には音楽が流れ、平均年齢29歳という若手が躍動する。その独自のカルチャーを築いたのが、代表取締役社長の中野誠也氏だ。製造業のイメージ刷新に挑む同氏に、その経営哲学の原点と未来への展望を聞いた。

どんな経験も無駄にしない 多様性を尊重するカルチャーの源泉

ーーこれまでのご経歴についておうかがいできますか。

中野誠也:
大学卒業後、アルバイトをしていたラーメン屋に正社員として入社しました。もともと家業を継ぐ意識は特になく、まずは自分のやりたいことに挑戦しようという思いからでした。

当時、弊社はNC旋盤(※1)が主力でしたが、先代である父がマシニングセンタ(※2)という新しい機械を導入し、会社をさらに発展させたいと考えていました。その新たな挑戦の担い手として声をかけてもらい、「面白そうだ」と感じ、入社を決意したのです。

(※1)NC旋盤:プログラムされた手順で、刃物や材料を動かし、複雑な形状の部品を正確に大量生産できる機械

(※2)マシニングセンタ:複数の切削加工を1台で行える工作機械

ーーラーメン屋でのご経験は、現在の経営にどう活かされていますか。

中野誠也:
ラーメン屋の仕事は厳しいものでした。しかし、そこで培われた忍耐力や仕事への情熱は、人間的な熱さの源であり、現在の経営を支えています。ものづくりと料理は、手がけるものは違っても「つくる」という点で共通しています。何より、「どんな仕事の経験も無駄にはならない」とラーメン屋時代に感じました。その考え方が、社員の多様な経歴を尊重する現在の社風につながっています。

個の職人集団から「チーム」へ 組織を変えたコミュニケーション

ーー貴社入社後、どのようなことに取り組まれましたか。

中野誠也:
製造業は機械と向き合う時間が長く、お客様と直接顔を合わせる機会が少ないため、飲食業に比べて人と話す機会が減りがちです。だからこそ、共に働く仲間とのコミュニケーションを大切にしようと強く思いました。

当時、社内は職人気質の強い雰囲気でしたが、個の力だけでなくチームプレーを重視する文化へ転換したいと常に意識していました。たとえば、ただ図面通りにつくるだけでなく「この部品はどう使われるのか」とお客様に質問する、あるいは社員間で加工技術の情報を共有するなど、気軽に話せる環境づくりを推進しました。

また、社員全員と定期的に個別面談する機会を設けています。そこでは、「給料を上げてほしい」「ウォーターサーバーがほしい」といったことから仕事の悩みまで、本当に何でもストレートに伝えてもらっています。裏で不満を溜め込むのではなく、直接伝えてくれる関係性をありがたく感じています。

音楽が流れる工場 製造業のイメージを塗り替える職場

ーー職場環境で工夫されていることはありますか。

中野誠也:
従来の製造業が持つイメージを本気で変えたいと思っています。たとえば、工場は冷房を完備して涼しい環境を整え、作業中に鉄の切り粉で汚れにくい工夫もしています。最も特徴的なのは、工場内にスピーカーを8台設置し、流行の音楽を流していることかもしれません。初めて訪れた方のほとんどが「本当に製造業の工場なの?」と驚いて、笑って帰られます。ただし、ユニークな職場環境であっても、つくる製品の品質に対する信頼を、決して揺るがせないように徹底しています。

ーー若い人材が活躍している理由は何だと思われますか。

中野誠也:
平均年齢が29歳と若い弊社では、年齢や経験に関係なく、誰もが自由に発言できる環境を整えています。そして、「若いから」という理由で社内で意見が通らないといった理不尽なストレスがないこと。この2点が大きな理由ではないでしょうか。こうした環境が、若手の定着と活躍につながっているのだと思います。

10年で売上1.5倍へ 成長を止めない未来への投資

ーー改めて、貴社の事業の強みについて教えてください。

中野誠也:
事業の柱は大きく3つあります。1つ目はNC複合旋盤によるポンプ部品などの丸物加工、2つ目はポンプの心臓部であるシャフトの加工、そして3つ目は薄い金属板を精密に加工するレーザー事業です。特に、レーザー加工技術は弊社の大きな強みといえます。0.01mmという紙より薄いステンレスシートを、指定の形状で量産できるこの技術は、非常に難易度が高いものです。

ーー今後について、目標を詳しくお聞かせいただけますか。

中野誠也:
社員全員で共有する明確な目標として、10年後までに売上を現在の1.5倍にすることを掲げています。その達成に向け、毎年1〜2台のペースで積極的な設備投資を続けており、将来的には新工場の建設も見据えています。それに伴い、社員数も現在の28人から40人規模へと増員する計画です。

ーー最後に、社長が目指す会社の究極のビジョンをお聞かせください。

中野誠也:
もちろん高い技術力は大前提ですが、それだけではありません。「ナカノテックがつくってくれるなら安心だ」「あの人たちと一緒に仕事がしたい」と、人間味の部分で選ばれる会社にしていきたいです。

私たちの取り組みを通じて、社会全体の製造業に対するイメージを変えていく。それが最終的に成し遂げたいことであり、いい意味で「ぶっ飛んだ会社」をつくるという私の夢でもあります。

編集後記

ラーメン屋で培った経験を武器に、ものづくりの世界に変革を起こしている中野氏。その姿は、古い慣習や常識に挑む改革者のようでありながら、共に働く仲間を心から信じる、温かいチームリーダーそのものであった。何よりも人間味を大切にする同社が、これから日本の製造業の景色をどう塗り替えていくのか。その未来が楽しみでならない。

中野誠也/1995年生まれ。大学卒業後はラーメン屋に入社し、2年半勤務。2018年に家業である株式会社ナカノテックに入社。2023年に同社代表取締役社長に就任。「製造業のイメージを変えたい」という信念を持ち、若手が活躍できる職場環境づくりや、業界のイメージ刷新に取り組む。