
エクシオグループの一員として、社会インフラの構築を担うエクシオ・エンジニアリング西日本株式会社。同社を率いるのは、旧日本電信電話公社(現・NTT)出身で、開発から営業、企画まで多彩なキャリアを歩んできた代表取締役の児玉文明氏だ。真面目な企業文化を継承しつつ、管理中心だった組織を「現場で実行できる」体制へと変革した。現場の創意工夫を価値に変える独自の哲学や、未来を担う人材への熱い思いについて話を聞いた。
多様な経験から培われた課題解決への信念
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
児玉文明:
私は1979年に日本電信電話公社(現・NTT)に入社しました。当初はテレビ放送などを無線で送るマイクロ回線の保守業務に従事しました。その後は技術者の育成機関で教官を務め、オペレーションソフトの開発部門へ移りました。アナログだったテレビの無線通信をデジタル化するプロジェクトにも関わっています。
その後、PHS事業を手がけるNTTパーソナルを経てNTTドコモへ。ドコモの子会社からエクシオグループに来たのは12年ほど前です。通信という軸はありながらも、支店での営業や企画職など、多様な業務を経験してきました。
NTT時代には、マイクロ波の伝送路上にビルが建つことで電波が遮断される問題がありました。電波は目に見えませんから、その通り道が塞がれているかを事前に確認する手段が必要でした。そこで「電波が通る範囲を可視化できないか」と考えました。そして「フレネルスコープ」と名付けた装置の開発に取り組みました。最終的には銃の照準器メーカーの協力を得て、一台だけですが実用化ができました。この「なんとかすればできるのではないか」という経験が、私の大きな原体験になっています。
ーーそれらの経験は、現在の経営にも活かされているのでしょうか。
児玉文明:
一見すると不可能に思える課題でも、知恵を絞れば乗り越えられる。そう知ったあの経験が、現在の経営の土台となっています。「現場の当たり前の中にこそ新しい価値の種が眠っている」という考え方です。ですから、現場のメンバーが生み出した工夫やアイデアを、会社の正式な資産に変えることを常に意識しています。
たとえば、NEXCO様の道路に埋め込まれたセンサーが除雪車で破損する課題がありました。これを現場のメンバーが、恐竜の爪のような形状の保護具を考案して解決しました。彼らにとっては当たり前の改善でした。しかし私は「これは特許になるのではないか」と提案し、実際に特許を取得できました。また、免震構造のデータセンターで考案されたケーブル保護の仕組みも同様に特許化しました。
社会を支える事業の全体像と独自の強み

ーー貴社の事業内容や強みについて、お聞かせいただけますか。
児玉文明:
弊社の事業の柱は、NTT様やモバイルキャリア各社様の通信インフラ構築です。それに加え、社会に不可欠なインフラを幅広く手がけています。NEXCO様の道路設備やデータセンターの電気・通信設備などがその一例です。エクシオグループの一員として、親会社から一次下請けという形で事業を展開しています。安定した事業基盤の上で、社会を支える多様な仕事に挑戦できるのが特徴です。
また、グループ内での大きな特徴として、明確な役割分担が挙げられます。親会社であるエクシオグループがプロジェクト全体の「管理」を担います。そして弊社が現場での「実行」を担う。私たちは実際に手を動かし、工事を完遂させる技術者集団です。現場で汗を流す実行部隊がいるからこそ、グループ全体のプロジェクトが円滑に進みます。この「実行力」こそが、私たちの最大の強みだと考えています。
「組織は人」を体現する経営改革
ーー社長に就任された当時、会社はどのような状況でしたか。
児玉文明:
私が社長に就任した頃、会社は一度赤字の危機を乗り越えた後でした。そのため財務的には落ち着いていましたが、組織のあり方には大きな課題が残されていました。それは、親会社と同様に業務が「管理」中心になってしまっていたことです。
本来、私たちは現場で汗を流す「実行部隊」であるべきです。しかしその文化が薄れ、自社の社員が主体的に動くよりもパートナー会社に任せることが多くなっていました。これでは、工事に不可欠な段取りや現場感覚といった実践的なスキルが身につきません。自分たちでやる文化を取り戻さなければならない。それが社長として最初に取り組むべき最重要課題でした。
ーー貴社の企業文化について、どのような印象をお持ちですか。
児玉文明:
初めて来たとき、とにかく「真面目な会社だ」と感じました。お客様から依頼されたことは、どんなに時間がかかっても必ず成し遂げようとする。非常に実直で誠実な社員が多いのが、この会社の素晴らしい文化だと思います。ただ、その真面目さゆえに長時間労働になりがちな面もあったため、働き方の見直しを促しています。良い部分は残しつつ、時代に合わせて変えることが必要です。
ーー組織づくりをする上で、大切にされていることは何ですか。
児玉文明:
何よりも、社員の声を直接聞くことです。現場の生の声を、フィルターを通さずに感じ取ることが、風通しの良い組織の基本だと考えています。その考えを実践するため、物理的な壁である社長室をなくしました。社長室にいると現場との距離が生まれ、社員が何を感じているのか分かりにくくなります。同じフロアにいれば、皆の声が自然と耳に入ってきますし、コミュニケーションも活発になります。社員一人ひとりが楽しく、仲間と協力して仕事に取り組める。そのような環境をつくることが、私の最も大切な役割だと考えています。
社会インフラの未来を担うための挑戦
ーー今後の展望についてお聞かせください。
児玉文明:
現在、事業の中心はNTT様やモバイルキャリア各社様の仕事ですが、将来的にこれらは減少すると見ています。光ファイバー網の敷設はほぼ完了し、モバイル基地局の建設も落ち着きつつあるためです。そこで既存事業に次ぐ第3の柱として、データセンターや信号機などの分野を含む「インフラエンジニアリング事業」を育てていこうと考えています。現在約20億円のこの事業を、2030年には60億円規模にまで成長させる計画です。
ーー社会貢献に関する取り組みについてもお聞かせいただけますか。
児玉文明:
ある時、社員から「会社として社会貢献もすべきではないか」という声が上がりました。その思いに応える形で始めたのが、「R-O neo(アール・オーネオ)」の提案です。これは空調の消費電力を削減する装置。空調の冷媒管内部に付着する帯電物質を取り除き、熱交換率を向上させることで消費電力を抑え、CO2削減につなげます。結果として、お客様の電気代削減に貢献し、私たちは社会貢献と売上向上を実現できる。三方よしの取り組みとして推進しています。
ーー今後、どのような人材を求めていらっしゃいますか。
児玉文明:
建設業界は若い人たちに選ばれにくい厳しい現実があります。だからこそ、私たちは仕事の本当の魅力を伝えなくてはなりません。社会インフラを自分の手でつくり、守る実感は、何物にも代えがたい達成感があります。
能登半島地震の際も、私たちの仲間が現地で通信回線の復旧作業にあたりました。社会になくてはならない仕事であるという誇りを、ぜひ感じてほしいです。やる気さえあれば、必ず成長できる環境です。世の中の役に立ちたいという思いを持つ方々と、一緒に未来をつくっていきたいですね。
編集後記
NTTでの多様な経験を原点に、「どうすればできるか」を問い続ける児玉氏。その信念は、現場の小さな工夫に価値を見出す洞察に表れている。「組織は人」という思想のもと、社員の輪の中に身を置く姿は、まさに現代のリーダーシップを体現していた。社会インフラという仕組みを支えながらも、その根幹にある一人ひとりの力を信じる同社の挑戦に、今後も注目したい。

児玉文明/1959年熊本県生まれ。通信会社、株式会社協和エクシオ(現・エクシオグループ株式会社)を経て、エクシオ・エンジニアリング西日本株式会社の代表取締役社長に就任。「お客様に信頼と安心を」をモットーに、技術力を基盤とし、社員一人ひとりの力と「人の和」を大切にし、お客様に感動を与え続ける企業を目指す。