※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

株式会社フィールドワークは、腕時計の企画・卸売を主軸に、全国に展開する1000社を超える取引先網を強みとする企業である。近年ではその強力な営業力を武器にOEM事業へも注力し、大手企業との協業も次々と実現している。代表取締役社長の小松正純氏は、父親から事業を承継した直後にコロナ禍という未曾有の危機に直面した。しかし、それを機に旧来の慣習から脱却し、事業の多角化を推進してきた。「規模の拡大より、いかに儲けられるか」を追求し、得た利益を社員の「時間とお金」に還元するという独自の哲学を掲げる同氏に、経営の核心と今後の展望を聞いた。

予期せぬ代表就任と就任直後に訪れた未曾有の試練

ーー貴社へ入社されたきっかけと、社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。

小松正純:
私の父が弊社の創業者だったことが、入社のきっかけで入社しました。ただ、もともと私が代表を継ぐ予定ではありませんでした。営業の仕事が非常に楽しく、入社から13年ほどは現場の担当として充実した日々を送っていました。

父が60歳で引退する話になった際、私以外に後継者と目されていた人物がいたのですが、その方がまだ営業として続けていきたいという意向から辞退されたのです。そのタイミングで父から「お前が継がないのなら、この会社を畳む」と告げられました。当時約50名の社員がいましたから、「この社員たちを路頭に迷わせるわけにはいかない」という責任感から、最終的に代表就任を決意しました。幸い、入社から長く営業として働いてきたこともあり、社内で二代目としての軋轢などは特にありませんでした。

ーー代表就任直後の状況はいかがでしたか。

小松正純:
代表に就任したタイミングでコロナ禍が始まり、とにかく必死でした。弊社の主力事業は腕時計の卸売で、主な取引先はショッピングセンターなどです。緊急事態宣言でそれらのお店が一斉に閉まってしまったため、売上が半減しかねない壊滅的な打撃を受けました。

この危機を乗り越えるため、すぐに発想を転換し、時計以外の新しい商材を手掛けることにしました。もともと「時計以外の事業もやっていきたい」という思いがあったため、私が先陣を切ってコロナ対策グッズの開発に乗り出しました。

具体的には、アルコールジェルやドアノブなどに直接触れずに済む独自開発の非接触ツールなどを商品化しました。これらの商品が時流に乗ってヒットしたおかげで、厳しい状況の中でもなんとか黒字を確保することができました。

大手企業との協業を次々と実現するOEM事業の躍進

ーー貴社の一番の強みは何だとお考えですか。

小松正純:
一番の強みは、取引先数の多さです。取引先は北海道から沖縄まで全国にわたり、その数は1000店舗以上にのぼります。どんなに良い商品をつくっても、それを取り扱ってくれる場所がなければ売上は安定しません。この広範な販売ネットワークが、ビジネスの安定した基盤となっています。また、時計という商品は脇役になりがちだからこそ、しっかり営業しなければ売り切れないという文化が根付いているのかもしれません。

ーー現在注力されているOEM事業について教えてください。

小松正純:
OEM(※)事業はコロナ禍を機に本格的に力を入れ始め、この5年間、毎年120%から130%の成長を続けています。受注してから製造するため、弊社に在庫リスクがないのが非常に大きなメリットです。この成長は、弊社の営業担当者が、取引先をどんどん開拓してくれているおかげにほかなりません。

おかげさまで、ゲーム関係や衣料品店、アミューズメントパークなど誰もが名前を聞いたことのある名だたる大手企業とも取引があります。プロ野球の球団もほとんど手がけていますし、芸能事務所との実績もあります。社員が自分の好きなアニメや球団のグッズを手がけたいという思いが、モチベーションにもつながっています。

EC事業も非常に好調で、5期連続で毎年150%ほどの成長を継続中です。もともと弊社の売上は法人向けビジネスが10割でしたが、今ではECが2割ほどを占めるまでに成長しました。

(※)OEM:「Original Equipment Manufacturing(オリジナル製品の製造)」の略で、他社ブランドの製品を製造すること。

社員の「時間」と「お金」を最優先する独自の経営哲学

ーー経営者として大切にされている信念についてお聞かせください。

小松正純:
社長に就任して痛感したのは、一人でできることは本当に限られているという事実です。会社は社員みんなが頑張ってくれるからこそ成り立っています。ですから、「社員には『時間とお金』をきちんと提供したい」という思いが、私の経営の軸になっています。

「時間」については、ライフワークバランスを重視し、残業はほとんどない状態を実現しました。そして「お金」の面では、4年連続で人件費が過去最高を更新しています。来期からは、会社が掛け金を上乗せする「iDeCoプラス」という制度も導入する予定です。

ーーなぜ、それほど社員の働きやすさを重視されているのでしょうか。

小松正純:
これからの時代、社員にいかに気持ちよく働いてもらえるかが、企業の成長にとって不可欠だと考えているからです。私は会社の規模をむやみに拡大したいという思いは持っていません。少数精鋭でしっかりと利益を出し、それを社員に給与として分配できる会社を目指しています。

そのために、無駄なことは徹底的に排除します。「この仕事が売上につながるのかどうか」は常に考え、利益にならないと判断した仕事はすぐにやめるようにしています。また、システムを導入してバックオフィス業務を最小限の人数で回すなど、会社全体のスリム化も常に意識しています。

賃上げの実現に不可欠な「儲かる会社」への転換

ーー今後の事業展開について、どのようなビジョンをお持ちですか。

小松正純:
これからは中小企業がますます淘汰され、格差が広がる時代が来ると確信しています。その中で生き残るには、賃上げが絶対条件です。そのためには、事業規模の拡大を目指すのではなく、いかにして「儲かる会社」にしていくか。そこを究極的に突き詰めなければなりません。売上規模は変わらなくても、利益率を高めていくことが重要だと考えています。

ーービジョン実現に向け、現在注力していることは何でしょうか。

小松正純:
一つは、若手チームによる新商品開発です。これまでは私自身が陣頭指揮をとって新商品を企画してきましたが、今後はその役割を各社員に担ってもらいたいと考えています。また、時計以外の商材で、販路を水平に広げていくことを目指しています。日傘など、すでに社員発のアイデアも形になりつつあります。私の仕事は、社員が生み出したアイデアのコストを管理し、事業として成立させることだと認識しています。

もう一つは海外展開で、現在台湾でのEC販売に挑戦中です。円安の今こそ、外貨を稼ぐ視点が非常に重要だと感じています。

ーー最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。

小松正純:
私がいま経営者として最も大切にし、社員に対して約束しているのが「時間とお金」をしっかり確保することです。こうした環境を実現できるのは、会社の規模を闇雲に追うのではなく、「少数精鋭でいかに儲けるか」を追求し、生まれた利益は社員に分配するという方針を貫いているからです。

だからこそ社員には、その対価として就業時間中は全力で仕事に集中してほしい。オンとオフを明確に切り替え、密度の濃い仕事をして定時で帰る。そんなプロフェッショナルな働き方を、私たちは目指しています。

編集後記

父親から事業を引き継いだ直後のコロナ禍という逆境を、変革の好機と捉えた小松氏。同氏が語る「規模の拡大より、いかに儲けられるか」という言葉には、企業の見た目よりも本質を追求する強い意志がうかがえる。それは、社員の生活を豊かにするという確固たる信念だ。社員一人ひとりが主役となって会社を動かす。そのための環境づくりに徹する社長の姿勢こそが、同社が変化の激しい時代を生き抜く原動力なのだろう。新たな挑戦の先にどのような未来が拓かれるのか注目したい。

小松正純/1983年東京都生まれ。2009年、株式会社フィールドワークに入社。2019年4月、代表取締役社長に就任。