※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

「Age-Well(エイジウェル)な人生の相棒になる」というビジョンを掲げ、超高齢社会に新たな価値を提示する株式会社AgeWellJapan。同社は、シニア一人ひとりの「自尊心」と「人とのつながり」に焦点を当てた伴走サービスを展開する。その原動力は、祖母が漏らした一言への強烈な“悔しさ”だったと代表の赤木円香氏は語る。社会への憤りをエネルギーに変え、日本のプレゼンス向上をも見据える彼女の情熱に迫る。

社会起業家への憧れ その原点を描いた17歳の記憶

ーー経営者を志すようになった原点についてお聞かせください。

赤木円香:
高校2年生の時、マザーハウスの山口絵理子さんが書かれた『裸でも生きる』を読み、社会問題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」の存在を知りました。利益追求だけでも、ボランティアでもない。社会に貢献しながら事業を行う山口さんの生き方に強く憧れ、「私もこんな生き方がしたい」と、社会起業家を目指すようになったのが最初のきっかけです。

ーー憧れが具体的な目標に変わったのは、いつ頃だったのでしょうか。

赤木円香:
山口さんの母校である慶應義塾大学SFCに進学し、「起業と経営」という授業でご本人のお話を聞く機会がありました。その8、9年後、私が起業家として新聞で紹介された際に思い切って連絡したところ、「お互い頑張りましょう」という言葉をかけていただいたのです。その一言で、自分も「起業家」と名乗っていいのだと、大きな勇気をもらいました。

3年で辞める覚悟と感謝。味の素で得た「当たり前」を作る力

ーー大学卒業後は、すぐに起業の道を選ばなかったのですね。

赤木円香:
人生をかけられるミッションが見つからず、恩師の助言もあって味の素株式会社に入社しました。3年で辞めると心に決めての入社でしたが、この経験には今でも感謝しています。味の素は「うま味」という新しい概念を世界中に広め、当たり前にした会社です。新しい価値観を社会に実装していく責任感やスケール感は、そこでしか学べない貴重なものでした。私たちが目指す「Age-Wellな人生の相棒になる」という挑戦の根底には、間違いなく味の素での学びが活きています。

悔しさ99%と未来への想い1%。祖母の言葉が原動力に

ーー人生をかけるテーマを見つけ、起業に至ったきっかけを教えてください。

赤木円香:
26歳の時、祖母が「手伝ってもらってごめんね、ちょっと長く生きすぎちゃったかしら」と漏らしたのです。その言葉を聞いた瞬間、強烈な悔しさと情けなさを感じました。戦後復興を支えた世代が、人生の最後に肩身の狭い思いをするのは絶対におかしい、と。この社会に対する強い憤り、許せないという思いが、私の事業の原動力の99%を占めています。

ーー残りの1%は何だったのでしょうか。

赤木円香:
高齢化率世界一の日本でシニアの課題を解決できれば、それは世界一のソリューションになる、という思いです。失われた30年と言われる中で、高齢化というテーマでなら日本のプレゼンスをもう一度高められるのではないか。日本が高齢者の幸せをリードすべきだという思いが、残りの1%です。しかし、根本にあるのは祖母への思い。これなら自分の人生をかけられると、覚悟が決まりました。

極寒の街頭インタビューで見つけた、シニアの幸福の核心

ーー事業を始めるにあたって、まず何から着手されたのでしょうか。

赤木円香:
祖母と同じ思いを抱える人が本当にいるのか確かめるため、「100人のシニアにインタビューするまでサービスは作らない」と決め、極寒の冬に街頭に立ち続けました。そこで分かったのは、ワクワクしているシニアとそうでない人の違いは、健康やお金ではなく、「人とのつながり」と「自尊心」だということ。

人とのつながりがあれば、「またあの人に会いたい」という明日への希望が生まれます。そして自尊心が満たされれば、「自分はまだ社会の役に立てる」という生きがいにつながる。この二つが、シニアの“もっと生きたい”というエネルギーの源泉なのだと確信しました。

「あなたの会社は伸びる」。コロナ禍の挑戦を支えた言葉

ーー創業期にご苦労されたことと、それを乗り越える支えになった出来事をお聞かせください。

赤木円香:
創業当初はコロナ禍の真っただ中でした。「若者がウイルスを広めている」と言われた時期に、若者がシニアのご自宅を訪問するサービスは無謀な挑戦です。心が折れそうになる中、初期の会員様が「あなたに出会えたのは奇跡。人生の最後を賑やかにしてくれてありがとう。あなたの会社は絶対に伸びる」と言ってくださいました。この言葉は今でもお守りです。その方は、かつてソニーの成長を見抜いた方でもあり、「あの人が言うなら大丈夫だ」と、事業を推し進める大きな自信になりました。

傾聴と対話が鍵。単なる支援ではない「相棒」という価値

ーーサービスの強みや、大切にされていることは何でしょうか。

赤木円香:
私たちのサービスは、単なるスマホ教室や見守りではありません。最も大切にしているのは「傾聴と対話」です。それを通じてご本人の「やってみたい」という気持ちを引き出し、挑戦のきっかけを作り、一緒に喜び合う“相棒”のような存在になることを目指しています。できないことをできるようにするのではなく、「明日会いたい人がいる」「挑戦したらできた」というポジティブな感情のサイクルを生み出すことこそ、私たちが提供する価値の核心です。

タフでポジティブな仲間と。AgeWellJapanの組織文化

ーーどのような方と一緒に働きたいとお考えですか。また、どのような方が活躍されていますか。

赤木円香:
私たちのビジョンへの「共感」はもちろんですが、それと同じくらい「タフでポジティブ」であることが重要です。インパクトスタートアップは社会の期待を集めやすい一方、事業の難易度は非常に高く、スピード感も求められます。理想や共感だけでは乗り越えられない壁が必ずある。その困難を楽しみながら、粘り強くやり抜ける人が活躍しています。

ーー赤木社長ご自身が、社員の方々と向き合う上で大切にしている考え方はありますか。

赤木円香:
「Age-Well(エイジウェル)」という考えです。人の挑戦を応援する私たちが、自分自身も挑戦し、自分らしく前のめりに人生を生きていなければ、良いサービスは提供できません。週1日は本気でフラメンコに打ち込む社員や、俳優業と両立する社員もいます。多様な生き方を尊重し、応援するカルチャーを大切にしています。

違和感を力に。未来の挑戦者たちへのメッセージ

ーー最後に、この記事を読んでいる20代、30代の読者へメッセージをお願いします。

赤木円香:
日々の忙しさの中で、自分の心の動きに鈍感にならないでください。私は祖母の言葉が許せなくて起業しましたが、その一言に何も感じない人もいるでしょう。通り過ぎていく日常の出来事に対して、自分の中にどんな感情が湧くのか。その違和感や憤り、ときめきを大切にすることが、人生を前に進める大きな力になります。その感情の先に、あなただけの挑戦が待っているはずです。

編集後記

「悔しさ99%、日本のプレゼンス向上への想い1%」。赤木氏の言葉は、個人的な原体験と社会的な大義が見事に融合した、力強い事業哲学を物語る。彼女の原動力は、同情や優しさではない。社会の不条理に対する強烈な“憤り”である。その負の感情とも言えるエネルギーを、周囲を巻き込むポジティブな力へと昇華させ、事業を推進する姿に新時代のリーダー像を見た。日常の違和感を見過ごさない感性と、それを変革へのエネルギーに変える胆力。それこそが、未来を切り拓く挑戦者に不可欠な資質である。

赤木円香/慶應義塾大学卒業後、味の素で財務を経験。2020年に「Age-Well社会の創造」を掲げ、株式会社MIHARU(現株式会社AgeWellJapan)を創業。シニア世代のウェルビーイングを実現する「もっとメイト」「モットバ!」などを展開。2023年にAge-Well Design Lab設立。多数の受賞歴やメディア出演を持つ。