
1947年に創立し、航空測量のパイオニアとして75年以上にわたり日本の「まちづくり」「国づくり」を支えてきた国際航業株式会社。位置情報を活用する地理空間技術の専門家集団である。同社は、衛星から地上、水中までを「測る」技術を基盤に、データの分析から未来への提案までを一貫して手がける独自の強みを持つ。長年、現場の第一線でキャリアを積んだ藤原協氏が、2025年4月に代表取締役社長へ就任した。先代から社会貢献への志を受け継ぎ、事業、仕組み、意識の「3つの変革」を掲げる同氏に、その軌跡と未来への展望を聞いた。
専門分野との出会いから生まれた社会貢献への意志
ーー入社に至った経緯をお聞かせください。
藤原協:
大学院では地球物理学を専攻し、特に地下水や陸水といった、少し専門的な分野を研究していました。当時から国際航業は、私の研究分野である地下水の解析を得意としており、事業内容に親しみを感じていました。また、大学研究室の先輩が在籍していたことも、縁を感じた理由の一つです。
入社の決め手となったのは、調査で訪れた北海道・網走での体験です。現地で調査をしていた際、同じく現場で調査にあたっていた国際航業の社員の方々との偶然の出会いでした。当時、網走の美味しい食事や民宿での滞在など、調査活動のスタイルを「楽しいな」と感じていたところでした。そのタイミングで「この楽しいと思える活動が、仕事になるんだ」と実感できたこと、それが弊社を志望した一番の動機です。
ーー入社後、どのような業務を担当されていましたか。
藤原協:
私の専門はもともと地下水でしたが、配属されたのは地質関連の部署でした。そこでは、斜面防災調査、道路や河川などの土木構造物の調査解析設計、水環境の影響評価、ハザードマップの作成など、実に多様な業務に携わりました。社内には各分野の専門家が大勢いて、皆さんが指導し支えてくださったおかげで、困難も乗り越えられたと感じています。
また、先輩方からは早いうちに資格を取得するよう指導され、私も4つの技術士資格を取りました。そうして国のプロジェクトなどで責任者を務め、お客様に喜んでいただいたり、表彰をいただいたりするうちに、「自分たちの技術で社会課題を解決する」ことに自信とやりがいが持てるようになりました。
災害現場で確信した社会貢献への使命
ーーキャリアにおけるターニングポイントについてお聞かせください。
藤原協:
大きな転機は、入社2年目に名古屋で経験した豪雨災害である東海豪雨です。弊社は災害の翌日に航空写真を撮影し、すぐにお客様のもとへ届けるなど、迅速に対応していました。私自身も、氾濫した河川の堤防の安全性に関する解析の仕事を担当していました。お客様から、「我々も24時間体制で復旧にあたっているのだから、君たちも頑張ってほしい」と言われ、昼夜を問わず必死に業務にあたりました。しかし、入社2年目の私にできることは限られており、無力さを痛感する場面も多くありました。この悔しい経験こそが、『もっと高度な技術を身につけ、社会の安全に貢献したい』という私の技術者人生の原点になっています。
名古屋には20年ほどおりましたが、次の大きな転機は2019年です。大きな社内の組織変更で事業部制が導入され、事業部長として東京へ異動し、事業全体を統括する立場となりました。現場で培った幅広い知見を活かして会社全体を見渡す役割を担うことになり、この異動が現在の私につながる大きな一歩だったと考えています。
ーー事業部長として具体的にはどのような役割を担われたのでしょうか。
藤原協:
私が責任者を務めたのは「公共コンサルタント事業部」です。この事業部は弊社の事業全体の約7割を占める、全国組織の中核となる部門で、公共営業部門と技術部門の両方が所属していました。
大きな組織変更があったことから、まずは、社会やお客様の期待に応え、期待を超える集団になるため、営業と技術が同じ目線で動く「製販一体」の徹底と、持続的成長のために収益性を重視する指標を掲げ、組織の方向性を一つにしました。全体の方向性を合わせつつも、現場が自主性を持って快適に仕事ができるような組織づくりを常に心がけていました。
計測から提案まで 一貫体制が拓く未来の価値創造

ーー改めて、貴社の事業内容と独自の強みについてお聞かせください。
藤原協:
弊社は航空測量のパイオニアとして創業し、戦後の国土復旧から一貫して、空間情報などを活用する技術で「まちづくり」「国づくり」に携わってきました。特徴は、上空(衛星や航空機)、地上、さらには地下や水中まで、あらゆるものを「測る」技術が基盤にあることです。そして、測るだけでなく、データを分析・解析し、利活用(例えば、まちづくりや防災・減災、インフラ計画や民間企業の課題解決など)のコンサルティングや現場実装の提案までを一貫して提供できる点に独自性があると考えています。
例えば、弊社が開発した行政のDX支援システム『SonicWeb-DX』は、庁内に閉じていた地図関連の行政情報を住民へ公開するだけではなく、外部と安全に連携させる画期的な仕組みです。この“『つなげる』発想のデザイン”が評価され、2024年度のグッドデザイン・ベスト100に選ばれました。単に測るだけでなく、データをどう活かし、社会をどう変えるかをデザインするところまで踏み込むのが私たちの強みです。
ーー掲げられているミッションには、どのような思いが込められていますか。
藤原協:
「空間情報で未来に引き継ぐ世界をつくる」というミッションは、弊社の事業そのものを表しています。単に測量だけを行う会社ではなく、正しいデータから未来につながる新しい価値を創造し、提案していく。戦後復興期から培ってきた社会貢献への強い意欲を胸に、国土や地球環境をより良い形で、人々が安心、安全に暮らせる社会を未来へつないでいく。そうした思いを社員が共有している会社です。
伝統と革新を両輪に据えた未来への「3つの変革」
ーー社長に就任され、どのような会社を築いていきたいとお考えですか。
藤原協:
就任挨拶で全社員に「変えないもの」と「変えるもの」について話しました。「変えないもの」は、社会課題を解決し、人々の暮らしや地球環境に貢献するという創業以来の志と、仲間と協力して目標を達成する精神です。
一方で、事業、仕組み、意識において「3つの変革」を起こす必要があると考えています。一つ目の「事業の変革」は、「守り」「攻め」「挑戦」です。中核事業の持続的成長を守りつつ、DX(デジタル技術による変革)やGX(脱炭素社会に向けた変革)を実現する周辺事業を構築します。中長期的にはミライト・ワン グループとの相乗効果を発揮し、インフラ包括管理等のまちづくり全体へと事業を広げていく挑戦です。
二つ目の「仕組みの変革」では、組織や制度をより柔軟でスピーディーなものにします。意欲ある人材を年齢や経験にとらわれず活躍できる場を提供していく方針です。三つ目は「意識の変革」です。すなわち『データ駆動型文化』へのシフトです。経験や勘だけに頼るのではなく、様々な意思決定をデータも踏まえ冷静に行う。そのために生成AIなどの新技術は臆せず、会社の標準ツールとして積極的に活用していきます。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
藤原協:
私たちの根底には、「将来の世代がこの先も安全で、そして安心して暮らし続けられる社会や環境を作りたい」という強い想いがあります。これからAIのような技術がどれだけ進化しても、その先にいる人々の暮らしを想像し、現場で何が起きているかを感じ取る心が欠かせません。ただ技術を追求するだけでなく、その技術で誰を、社会を、どう良くしていけるのかを考えることが大切なのです。
私たちは、そうした「優しさ」と、課題を解決に導く「専門性」、その両方を兼ね備えた方を求めています。もし、この想いに共感していただけるなら、ぜひ一緒に、より良い社会を作っていきたいと心から願っています。
編集後記
航空測量から始まった国際航業の歩みは、日本の国土復興と発展の歴史そのものである。藤原氏の言葉からは、社会貢献という創業以来のDNAを深く受け継ぐ一方で、データとAIを駆使して未来を切り拓こうとする強い意志が感じられた。現場で培われた経験を基盤に、組織の基盤を固め、次なる成長へと舵を切る。地理空間情報という専門技術の先に、人々の暮らしに寄り添う「優しさと専門性」を追求する同社の挑戦に、今後も注目していきたい。

藤原協/1973年広島県生まれ。1999年北海道大学大学院修了後、国際航業株式会社に入社。以来20年以上、防災・インフラ関連分野で多様な経験を重ね、技術士として現場の知見を深める。2019年、同社執行役員公共コンサルタント事業部長、2025年4月より代表取締役社長執行役員に就任。現在は「空間情報で未来に引き継ぐ世界をつくる」というミッションのもと、国土保全、防災・減災、社会インフラ整備といった人々の暮らしに関わる幅広い分野で、専門性の高い技術サービスを提供している。