※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

我が国の社会基盤を支える土木建築業界は、慢性的な人手不足、技術革新への対応、そして地域社会との共生など、多岐にわたる課題に直面している。こうした時代の要請に応え、革新的な経営手法と確かな技術力で業界の未来を切り開こうとする企業が、株式会社中里組だ。同社の代表取締役、中里寿光氏に、公共土木工事の次世代を見据えた経営者の哲学を聞いた。

地域社会とともに歩む公共インフラのエキスパート集団

ーーこれまでの経歴について教えてください。

中里寿光:
大学卒業後、鉄鋼系商社に入社し、九州支店で勤務しました。転勤辞令がきっかけで、2014年に家業である中里組に転職します。これまで育ててくれた家業の社員への恩返しと、幅広いビジネス展開への可能性を感じたことが、家業を継ぐことを決意した大きな理由になりました。

入社後は、秘書のような立場で会社の各部署を俯瞰的に観察し、前職の上場企業で培った経験と、地元中小企業の実情を対比させながら、改革の糸口を模索していきました。就業規則の見直しや採用戦略の立案など、前例にとらわれない取り組みを次々と実行し、特に、それまで実施していなかった新卒採用も開始しました。

周辺企業が研究室からのいわゆる「一本釣り」で人材を確保する中、限られた予算の中で求人サイトに広告を出し、多くの学生の関心を集めました。

ーー会社の事業内容についてお話しください。

中里寿光:
中里組の主軸は、埼玉県における公共土木工事です。6割が埼玉県からの依頼、残り4割が市町村からの発注による橋や道路の建設、施工管理などです。現在30名の従業員のうち、25名ほどで施工管理を担当し、川越、所沢といった東武東上線・西武池袋線沿線を中心に事業を展開しています。

基本的には県外の仕事を受注していません。これは単なるリスク回避ではなく、社員の働き方とワークライフバランスを最大限に尊重するという、会長時代から継承している重要な経営方針です。利益率の高い県内工事に集中することで、社員と会社、そして地域社会にとってWin-Winの関係を構築しているのです。

職人精神が息づく誠実の系譜。目に見えない価値を追求する仕事の哲学

ーー貴社の強みはどこにありますか。

中里寿光:
弊社の最大の強みは、ICT技術の先進的な活用にあります。多くの会社が工事の一部を外注する中、3Dモデリングから測量、実際の工事施工まで自社で完結できる体制を構築しています。

特筆すべきは、3Dデータを活用したICT工事への取り組みです。現在、県内でもごく少数の企業しか実践していないこの技術は、埼玉県からも高い評価を受け、先進事例として講師派遣まで要請されるほどです。特殊な測量機器の保有や、高度なモデリング技術により、埼玉県南西部でもトップクラスの技術力を誇っています。

ーー経営において大切にしていることは何ですか?

中里寿光:
経営の根幹に据えているのは、「地域社会や発注者からの信頼を決して損なわない」という揺るぎない信念です。70年以上の歴史を持つ中里組は、地域の人々にとって馴染み深い存在です。

その信頼に応えるため、社員一人ひとりに「常に見られている」という意識を徹底的に浸透させ、電話応対、受付対応、現場での挨拶に至るまで、プロフェッショナルとしての矜持を求めています。特に土木工事は、橋や道路といった人目に触れる場所で行われるため、意識してしっかりとした仕事をすることが何より重要だと考えています。

新しい技術と人の力。未来の土木建築業を一緒に考える挑戦

ーー今後のビジョンについて教えてください。

中里寿光:
人材採用とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が、今後の最重要戦略です。従来の理工系中心の採用から、文系学生や第二新卒にも門戸を開き、より多様な人材の可能性を追求しています。業界に馴染みのない学生でもチャレンジできる環境を整備し、インターンシップを通じて、実際の仕事を丁寧に理解してもらうプロセスを重視しています。

業務のデジタル化においても、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やタブレット活用によるバックオフィスの強化に積極的に取り組んでいます。

将来的には「埼玉県の公共土木工事といえば中里組」と地域から評価される企業を目指しています。技術力や信頼性はもちろん、それ以上に大切にしているのは「倫理観」です。

土木工事の特性上、完成後の成果物で評価されがちですが、目に見えない過程の部分にも誠実に向き合う姿勢が重要だと強調しています。設計書通りに、時に妥協することなく仕事を遂行する。そんな企業文化を、次世代を担う人材とともに築いていきたいと考えています。

編集後記

土木業界の未来を考えるとき、技術革新と人材育成は車の両輪だ。中里社長の言葉には、「見えない部分を大切にする」という、まさに日本の職人気質を感じさせる覚悟が込められていた。デジタル化の波の中で、人間らしい仕事の価値を問い直す、そんな問いへの静かな答えが、ここにあるように思えてならない。今後の活躍にも期待したい。

中里寿光/1987年生まれ。埼玉県出身。法政大学卒業後、商社勤務を経て2014年に株式会社中里組に入社。専務取締役を経て、2023年、代表取締役社長に就任。