
小田急グループの一員として、小田急線沿線を中心に飲食事業を展開する株式会社小田急レストランシステム。駅構内や駅周辺の好立地を強みに、「箱根そば」をはじめとする自社ブランドとフランチャイズ事業を多角的に展開している。
特に「箱根そば」は今年で60周年を迎え、長年にわたり地域住民の「ソウルフード」として親しまれている。同社を率いる代表取締役社長の深海尚氏は、小田急電鉄で経理、人事、執行役員を経験し、現職に就任。「全店舗のソウルフード化」、DX戦略、人材戦略、新規出店という4つの注力テーマを掲げ、同社の更なる成長を目指している。深海氏のキャリアパス、会社の強み、そして地域価値創造型企業として描くビジョンについて詳しく話をうかがった。
街づくりへの思いから経理、そして社長へ
ーー深海社長が貴社に入社された理由やきっかけについてお聞かせください。
深海尚:
学生時代は、人々の生活に密着し、沿線住民に直接サービスを提供する仕事に就きたいと考えていました。百貨店やスーパー、不動産、遊園地、飲食など、幅広いフィールドがある鉄道会社に魅力を感じ、入社を決めました。将来的には「街づくり」に携わりたいという思いも漠然と抱いていましたね。
ーー入社後、どのようなことに取り組まれましたか?
深海尚:
最初に配属されたのは経理部で、新入社員の担当から課長まで19年間、経理にいました。経理は全社のさまざまな部署と関わり、営業や開発など、お客様と接する部署のサポートを通じて、間接的にやりたいことにつながっている感覚がありました。
役職が上がるにつれて仕事のフィールドは広がり、人事部長への異動は驚きでしたが、周囲のメンバーに助けてもらいながら、社員が働きやすい環境を整えることに注力しました。たとえば、社員からの意見を積極的に聞き入れ、社内の風通しを良くするよう心がけていました。その後、人事部長兼執行役員となり、会社全体の経営にも深く関わるようになりました。
ーー仕事をする上で大切にされているお考えについてお聞かせください。
深海尚:
社員に明るく楽しく働いてもらわないと良いものは生まれてこないと考えているので、風通しの良い職場にすることを大事にしたいですね。社員がアイデアを持っていても提案しにくい雰囲気では損失です。上司や経営層は、社員の意見をしっかり聞き入れる姿勢が重要です。
良い提案はもちろん採用し、採用できない場合でも丁寧に説明することが大切です。最近では、若手社員から髪色の自由化に関する提案があり、即座に実施しました。このように、社員の声に耳を傾け、積極的に取り入れることで、より良い職場環境を築き、新たな価値創造につなげていきたいと考えています。
多様化する事業と「箱根そば」の伝統

ーー貴社の事業内容についてご紹介いただけますか。
深海尚:
弊社は小田急グループの一員として、小田急線沿線を中心に店舗を展開しています。駅構内や駅周辺施設といった、お客様が多く集まる場所に出店できることが弊社の大きな強みです。
また、「箱根そば」を主力とする自社ブランドのほか、「スターバックス」などのフランチャイズ事業も手がけています。お客様のニーズに合わせて自社ブランドとフランチャイズを使い分け、多様な業態で展開できることも弊社の強みだと考えています。「箱根そば」は全売上の過半数を占めるメイン事業であり、弊社の顔とも言える存在です。
ーー貴社ならではの強みやサービスのこだわり、独自性についてお聞かせください。
深海尚:
弊社の一番の強みは「多ブランド展開」と「駅構内という好立地」の組み合わせです。「箱根そば」から和食、洋食、カフェまで、多様なジャンルで展開しています。これにより、場所の特性やお客様のニーズを考慮し、最適な業態を提供できる柔軟性があります。
ーー代表ブランドである「箱根そば」のブランドやサービスに対するこだわりについてもお聞かせください。
深海尚:
「箱根そば」は今年で60周年を迎えます。60年間、小田急線沿線の方々に愛され続けてきたことは、私たちにとって大きな誇りです。お客様からは「部活帰りに食べた」といった懐かしい思い出を語っていただくこともあります。私たちは「箱根そば」を「ソウルフード」として、皆さんの生活に溶け込み、馴染んでもらえる存在にしたいと強く思っています。現在、60周年を記念して、復刻メニューの提供やお客様への感謝を込めたイベントなどを実施し、ムードを盛り上げています。
未来を切り拓く4つの注力テーマ

ーー今後、どのような会社を目指しているのか、ご展望をお聞かせください。
深海尚:
理想は、2029年度の新宿の大規模再開発完了までに安定した経営基盤を確立し、これからも利益を計上し続ける会社になっていることです。5年後には、新宿に多数の店舗を再出店し、事業規模を大きく拡大したいと考えています。新宿で10店舗以上、さらに他エリアの出店も合わせると、全体で100店舗近くを目指し、従業員数も3〜4割増やすことを想定しています。小田急グループ全体で目指している「地域価値創造型企業」として、「箱根そば」がその代表的存在になれるよう、沿線の皆様にさらに愛される店づくりを進めていきます。
ーー今後の注力テーマの1つである「全店舗のソウルフード化」について、具体的な取り組みをお聞かせください。
深海尚:
地域やお客様の生活への密着性が当社の特別な強みであり、弊社の事業全体を「沿線のソウルフード」にすることが目標です。そのために独自の「QSC」(Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanliness(清潔さ))を徹底的に追求し、商品・サービスの品質向上を図ります。また、お客様の来店頻度を増やすためには、店舗を知っていただくためのプロモーションも重要です。SNS活用や60周年イベントを通じた情報発信で認知度を高め、お客様の会話の中で自然に「箱根そば」の名前が出るような存在になることを目指します。
ーー「DX戦略の推進」はどのように進められていますか?
深海尚:
弊社におけるDX戦略は、お客様のデータ収集・活用と業務効率化の2つの軸で進めています。営業面では、お客様のデータを収集し、マーケティングや販促につなげていくことが重要です。業務面では、効率化を追求し、社員が働きやすい環境を整備します。定型業務を機械に任せることで、接客といった生産性の高い業務に社員が集中できる時間を増やしたいと考えています。また、AIも積極的に活用し、質の高いサービスの提供につなげていきます。
ーー採用活動を含む「人材戦略の推進」について、どのようなビジョンをお持ちですか?
深海尚:
主に採用に力を入れたいと考えています。まず、多くの方に「ここで働きたい」と思っていただけるよう、求人ツールを整備し、弊社を知っていただく機会を増やします。入社後や興味を持っていただいた後には、明確なキャリアプランを提示することが大切です。特に中途採用の方には、店長や本社業務、マネジメント層へのステップアップといった多様なキャリアパスを用意しています。
私たちは、明るく積極的で、お客様に元気に挨拶できる方を求めています。飲食業は接客が基本であり、食を通じて人々に幸せを届けられる、非常にやりがいのある仕事です。新卒採用も毎年行っていますが、今後、採用数は増やしていきたいと考えています。
ーー最後に、今後の「新規出店の推進」についてお聞かせください。
深海尚:
新規出店は、事業規模拡大と基盤強化の両立を図るために不可欠な取り組みです。ソウルフード化や、DX・人材戦略の進展により、当社独自の強みをより活かし、注力する業態や業種を明確にした上で、それに合う立地を探して出店を進めていきます。小田急線沿線は当然ですが、「箱根そば」に関しては、関東圏内であれば沿線に限らず、良い場所があれば積極的に出店していきたいですね。
編集後記
長年にわたり小田急線沿線の人々に愛され続ける「箱根そば」を中心に、多様な飲食事業を展開する株式会社小田急レストランシステム。深海社長のお話からは、お客様への感謝と、社員の働きやすさを追求する温かい人柄が伝わってきた。新宿の再開発という大きな変化を成長の機会と捉え、既存事業の強化と新規出店に挑む同社の取り組みには、地域に根ざした企業としての強い意志を感じた。地域に根ざし、人々の生活に深く寄り添い続ける小田急レストランシステムの今後の飛躍が楽しみだ。

深海尚/1967年、兵庫県出身。1991年早稲田大学商学部卒業後、小田急電鉄株式会社に入社。同社財務部長兼IR室長、人事部長、執行役員などを経て2022年4月、小田急レストランシステム代表取締役社長に就任。